[KATARIBE 30334] [HA06N] 小説『家族写真』

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Date: Sun, 12 Nov 2006 23:37:13 +0900
From: "Toyolina and or Toyolili" <toyolina@gmail.com>
Subject: [KATARIBE 30334] [HA06N] 小説『家族写真』
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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ERさんにかわって代理送信。

小説『家族写真』
===============
登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。去年十月に入籍
 赤ベタ・青ベタ・メスベタ
     :相羽家で飼われていたベタの霊。真帆の能力で実体化する。
 雨竜  :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く。


本文
----

 誕生日のお祝いに、何が欲しいと訊かれた。

 9月に連続で休んで、流石に11月には休暇を取れない。それはもう最初か
ら考えてもなかったんだけど。
「今年は、さ」
 不意に顔を両手で挟んで、こつんと額をくっつけて
「…………流石に休めない」
 ごめんね、と、顔中の表情で示して。
「でもちゃんと帰ってくるから」
「……うん」
「お前のとこにね」
「待ってます」
 そんなの当たり前なのに、今年は休んでなんて、思っても無かったのに。
 でも、そうやって……思ってくれることが、何より嬉しくて。

「次の休みにさ、ゆっくりしよ?」
「うん」

 その時に言われたのだ。何でもして欲しいこと言っていいって。
「できる限り、喜ぶことしてあげたいじゃん?」
 その言葉に全く嘘が無くて、何だか申し訳なくなるくらい相羽さん本気で。
 身体の芯から湧き出るように嬉しくなる。その言葉だけで。

 だけど、だからこそ……何ていうかな、半端じゃなくて本気でやりたいこと、
やって欲しいことを探したいな、と思って……
 思いついた。

          **

「相羽さんの、アルバム見てみたいな」
 小さい頃の写真は、何枚かは写真立てに入って飾ってあるけど、多分もっと
色々あるはずだから。
「アルバム?ああ、いいよ」

 押入れの奥から、相羽さんは数冊のアルバムを出す。
 あたしはお茶ともみじ饅頭を用意する。
 何時の間にかべた達と雨竜が、お菓子の横にちょんと並んでいる。

「……わ」

 産まれたばかりの、布に包まった赤ちゃんと、それを抱っこしたとても綺麗
な女の人。
 古いアルバムの中で、一ページごとに子供は大きくなる。まあるい目が開い
て、時には泣いて、時には眠って。

「これ、幼稚園の頃なんだけどね」
 写っているのは、青いスモッグを着た小さな子供と、横にしゃがみ込んで背
中を支えているお母さん。
「……可愛い」

 お母さんも綺麗な人だけど、相羽さん、ぶすっとしてなければお人形さんみ
たいで。

「で、次が……幼稚園の先生」
「へえ」

 以前、相羽さんの初恋の相手は、と訊いて、幼稚園の先生、と教えてもらっ
たことがある。だからどんな人かな、優しそうな人じゃないかな、と、わくわ
くしながらページをめくったら。

「………………」

 地味な、細めの黒ぶち眼鏡。長い髪は洒落っ気の欠片もなく一つにひっつめ
て三つ編みにし、それを頭にくるくる巻きつけてる。着ているのはやっぱり飾
り気の無い白いブラウスに、ごく普通の黒っぽいスカート、そして上から卵色
のエプロン。
 如何にも幼稚園の先生、みたいな服装で、だから無論地味なんだけど、それ
以上に全体の印象が地味で。
 いや……そんなどこではなく。

「……これ、幼稚園の先生……?」
「ああ、そうそう」
 その、卵色のエプロンの裾を掴んで、小さな相羽さんがむーっとカメラを睨
んでいる。先生は少し屈むようにして、その小さな頭に手を置いて笑っている。
 精一杯、エプロンを掴んだ小さな手。
 ……いやしかし、でも。

 横で、くくっと笑う声がした。

「…………ええと」
「なんか、似てるね」
 全体の印象がね、と、笑いながら続ける。自分でもそう思ったから……頷く
しかない。

「……この人が、初恋の人?」
「うん」
 かろく、相羽さんは頷く。
「あんま覚えてないけどね、このころはずっとこの先生にひっついて離れなかっ
たらしいよ」
「…………」

 何ていうべきか、その。
 三つ子の魂百までというか……この人小さい頃から『面食い』の要素は無かっ
たんだな、とか色々と莫迦なことを思ってたら。

 くくっと、相羽さんが笑った。

           **

 濃い目に淹れたお茶と、黒蜜入りの『黒棒』。
 周りに塗られた黒糖のしゃりしゃりと甘味の強い部分を口に含んで、お茶を
含む。そのままだとかなり強い味が、お茶の渋みと合って美味しい。
 一枚一枚、ページを繰る。
 その度に、相羽さんが昔の話をしてくれる。幼稚園の頃、小学校の頃、膝っ
こぞうに絆創膏の絶えなかった頃。

「ここらが中一くらいかね」

 白いシャツと黒のズボン。まぶしいのか少し目を細めて、いかにも悪戯小僧
みたいな顔で写真に写ってる相羽さん。
 一人で写ってるのが一枚。そして横に、同じクラスなのか友達なのか、わら
わらと男女含めて数人写ってるのが数枚。
「へえ」
「これが史の字ね」
「あ、ほんとだ」
 ちょっと大柄な、目の細い男の子。笑った顔は……確かに今の本宮さんに重
なる。
「こいつは……今どうしてるかね」
 何となくぶつぶつと、口の中で呟きながら、相羽さんが指で一人一人の顔を
辿る。その中に。
「……あ?」

 何と言うか……ずば抜けて可愛い子だった。
 比較として誰が居る、というわけでもないけど、可愛い子。さらさらした髪
は肩くらいまで、その一部をリボン……ではなくて、黒のゴムか何かでまとめ
ている。

(大丈夫ですよ、ちゃんと時間までに間に合いますよ)
(きっとこっちです!)

 その高い、明るい声……
 どこで聴いた。どこで。

 どこで……………!!!

「…………ぁ!」
「ん?」

 隣に座ってる相羽さんの顔を見る。
 女の子の隣で、何となくぶすっとして写ってる小さな相羽さんの顔を見る。

(貸してよ地図)

 声変わり前の、まだ少し高い…………

「……うそだあっ!」
「……なにが?」
 きょとんとして相羽さんが訊き返す。
 無理も、ない。あたしだって今の今まで気がつきもしなかったんだから。

 秋の、良く晴れた日。
 白と紺の制服の、ワイシャツの袖をまくりあげるくらい良い天気で。

(ありがとう、助かりました)
(いえ、良かったです)

「……ええとね……」
 あれは修学旅行の中日。だから高校二年の頃。
「……多分、相羽さんが中一の頃。この子と一緒に帰ってる時に、高校生の迷
子の道案内したでしょ」
「…………中学の時」
 記憶を辿るような表情の相羽さんに、重ねて。
「修学旅行の途中で道に迷って、集合場所がわかんないってうろうろしてた奴」

 丁度1年から2年に変わる途中、親しかった友達がこちらに引っ越したのだ。
だから中日の自由時間に、同じ班の子にお願いして、こっそり一人だけ抜けて
会いにいったのだけど。
 会えて、一時間かそこら話せて。
 それじゃあね、と、互いに別れて……そして道に迷ったのだ。

 相羽さんは首をひねっている。
「秋。ええと……眼鏡かけて髪の毛後ろで束ねて三つ編みにして、茶色っぽい
鞄を肩からかけて」
 すう、と、相羽さんの表情が変わった。記憶のどこかに焦点が合ったような、
合点がいったような顔つきになって。
「…………方向音痴の二乗」
 そういう思い出し方かっ。

 それが、という顔で相羽さんがこちらを見る。
「……だから、それ、あたし」
「……え?」
「二乗のかたっぽ」
 まじまじと、相羽さんがこちらを見た。


 本当に、偶然だったのだ。
「道に迷ってもう時間無いって慌ててた時に、丁度通りかかったからああデー
トかな、でも背に腹は変えられないっとか思って声かけて」
「いや、まあ、それはよかったんだけどさ」
「したら……彼女がすごくいい子で」

(え、道に迷ったんですか?)
 さらさらとした髪の毛が、首を動かすごとに滑らかな波のように動いていた。
 初秋の陽光を柔らかく跳ね返すその光が、とても綺麗だと思った。
(えー、それじゃ急がないと、バスに置いてかれちゃう……大変ですっ)
 そして彼女の横に居た、無言かつぶすっとした……それもまた綺麗な少年。
 あ、デートなんだな、邪魔しちゃったよな、と思って、それは正直ほんとに
申し訳なかったけど、でも女の子はちっとも気にしているように見えなかった。
(一緒に探します。大丈夫、間に合いますから!)

「……で、ぶすーっとしてた横の男の子をひっぱって、こっちこっちって……」
 こっちこっちってやって……そしてそういえば。
「そしたら男の子が、持ってた地図見せてって言って」
「……どう考えてもそのまま二重遭難しそうだったし」
「うん、結局男の子が連れてってくれたんだよね」

(地図)
(え?)
(あるんでしょ。見せてよ)

 ふさふさとした髪の毛は、少し癖があって、でも柔らかそうで。
 長めの前髪が目を覆うほど、顔を伏せて地図を見ていた彼は、ひょいと顔を
上げると、黙って指差した。

(え……)
(あっちだよ)

 彼女が手を引っ張って行こうとしてたのとは、丸逆の方向を。


「あの時の、時間が無い、助けてくれってやってきた、高校生があたし」
「…………すごい偶然もあったもんだね」
「ほんとに」

 いやほんとにちょっと……というかかなりびっくりした。まさか中学生の頃
の相羽さんと会っていたとは思いもよらず。

「この彼女の写真で思い出しちゃった。すごく可愛い子だったもの」
「しのちゃん……篠宮ちゃんだね。随分前に二人目生まれたって葉書来たきり
かなあ」
 相羽さんは、さらっと言う。
「可愛い子だったけど、それ以上に優しい子だなあって憶えてたの」
 そうか、篠宮さんって言ったのか、彼女。
「……相羽さんも……てか、男の子も、色が白くて綺麗な顔してて、ああ、男
雛と女雛だなあって」
 記憶のそこから浮かび上がってきた、ちょっとぶすっとした顔。それは確か
に相羽さんに似てるんだけど……なんだかまだ、実感として今の相羽さんに重
ならなくて。
「……雛なの?」
 何だか微妙な顔で、相羽さんがこちらを見る。
「だって二人とも、並んだらすごく綺麗だったもの」

 色白で、ほんとに可愛かった彼女と、でも雛人形を連想するほど対等に綺麗
だった男の子と。

「まだ相羽さん……あの頃小さかったでしょ。だから余計に」

 余計に。
 ほんとに、お似合いだなって。
 ほんとに……絵に描いたようにお似合いだな……って。


(うっわあんた、それすごいお邪魔虫)
(仕方ないじゃないか、ほんとに遅刻するとこだったんだから)

 待ち合わせ場所で、班の子達にその話をしたんだった。
 別れる前に、せめて、と、缶ジュースを買って、手渡した。
(お姉さん、気をつけて)
(ほんとに有難うございました)
 笑って手を振ってくれた女の子と、ほんの少しだけ頭を下げた男の子と。

(でも、そんなに可愛かったの?……写真は?)
(撮るかそんな申し訳ないっ)

 かあいい子達見たんだよーと自慢して、うわあ羨ましいと返す友。所謂類友
連中に、大いに自慢して。

(そこで『感謝の代わりに』とかゆーて写真撮って、どうしてあたしらに見せ
ないのよっ)
(ふふーん、目の保養だったんだよーっ)


 あの時……そんなにして、自慢したんだった。
 すごく可愛い子だった……って。

「どした?」
 ふわ、と、気配が覗き込むように近づいた。
「…………あの時、皆に合流した時に、あたし自慢したんだ」
 聴いて聴いてとばかりに。
「ここまでお雛様みたいに綺麗な子達に連れてきてもらったんだ、お似合いだっ
たんだって」

 綺麗なだけじゃない。優しくて、一所懸命で。
 彼と歩いてるのを邪魔されても、嫌な顔一つしないで手伝ってくれて。
 いい子だって……思って……

 不意に、ぐい、と腕を引かれた。バランスを崩したところに、肩に手が廻る。
「また、妙なこと考えてたりしてない?」
 指先が頬を撫でる。
 妙なこと……かもしれないけど。

 する、と、指が顎の下に廻った。
 どうしても視線が下を向くのを、相羽さんの手が持ち上げて。
 至近距離に、相羽さんの顔。どれだけ見ても……慣れることの無い。
 一瞬、目を伏せて……そのまま。

「また、似合わないとかそういうこと考えてたりしたでしょ」
 重ねていた唇を離して、呟くように相羽さんが言う。
「………………友人だと思うし、それはちっとも動かないけど」
 この人が半分だってこと。隣に居て何一つ気を張る必要もなく、ただ安心し
て居られること。それは微塵も揺るがないけど。
 だけど。

(お雛様みたいだったんだよ)

 それくらい、あの時の二人はお似合いで。


 沢山、彼女が居たと思う。
 大概長続きしなかったね、と、以前言ってたことがある。だけど結構次から
次だったんだろうな、と、そこらは話してるうちに何となく。

「大事なのは、俺がどう思ってるかでしょ?」
「…………そう、だけど」
「俺はお前がいい」
 肩に廻った手が、ぎゅっと肩を抑えて。
「他に何がある?」

 そうなんだけど。
 それは……微塵も疑わないのだけど。

「……あの、ね、妬いてるのとは違うんだよ」
「うん」
「だけど自分が、てか主にあたしが……」

 待機の日には、よく一緒に買い物に行く。絶対外では手をつながない、と言っ
ているのに、気が付くと片手がくるんと包まれてたりする。
 そもそも、手をつないで歩くってのは恥ずかしいと思うし、この年でどうよ
と思うから……そこは別に、あたしだからどうこうじゃないんだけど。

 多分とても不釣合いなんじゃないかと思う。この人とあたしと。
 友人として、肩並べて歩くのは多分可笑しくないと思うけど。でも。
 女性として……手をつないでいるってことが。

「…………足りてないなあ、って」

 そもそも女性らしくないのは良く判ってる、とか。
 どれだけ頑張ってもいい奥さんには足りてない、とか。
 心配かけて足引っ張るばかり、とか……

「足りてるよ」
 くるくると廻って落ち込みかけた思考を、ぱったりとその声が止める。肩に
かかった手がそのままあたしを引っ張って。
「だから、そやって自分をいじめない」
 頭を撫でる手。
「…………はい」
 苦笑する気配と、ぽん、と、頭を軽く叩く手。

         **

 中学の途中まで、順調に増えた写真は、けれども中学の途中でふっつりと量
が減った。お母さんと並んで、かなり背の近くなった相羽さんが、照れ隠しに
似た仏頂面でカメラを見ている写真のその次は、もうすっかり子供から少年に
変わってしまった相羽さんで。
「あ」
「……ああ、八尋ちゃんだ」
 小柄で、以前少しだけ会ったことのある彼女は、こうやってみると確かに火
狐ちゃんと良く似ている。写真の中で彼女は、何故か本宮さんと相羽さんの手
をがっちりと掴んで笑っていた。
 掴まれた二人の顔が、なんとなく可笑しい。
 そして……
「……あれ」
「ん?」
「あ、ううん」

 高校時代の途中から、写真は殆ど無くなっている。それまでは相羽さん一人
の写真なんかもあったけど、途中からは……何ていうのか、例えば文化祭での
写真、修学旅行の写真、みたいに『何かの行事のときの写真』ばかりになって
る。それも数はほんとに数枚。

 原因は……明らか。
 だけど……

「あ、これ」
「ああ」
 警察官の制服着て……まだやっぱどこか若い、相羽さん。
 そしてそれが、アルバムの最後。

「…………これ、相羽さん、何年くらい前の写真?」
「警察学校でてすぐの……ああ、交番勤務の頃かな」
 相羽さんが少し笑う。
「同僚が記念だからって撮ってくれた奴」

 それは……そうなんだけど。
 そっから先がない。

 それって、どういう意味なのか。
 考えると……何だか辛かった。

「写真、撮らないんだね」
「そだねえ、ぜんぜん」
 そこから先の、空のページをちょっと繰って、相羽さんは肩をすくめる。
「嫌いなわけじゃないんだけどね」
「うん」

 相羽さんのお父さんが撮った写真は、家族をほっこり包むようで。
 大きくなってゆく相羽さんのその時を、ゆっくり視線の記憶に刻むようで。
 だから、その写真を撮る人が居なくなったら、写真が減るのはわかる。
 わかるんだけど。
 ……だけど。

 どういえばいいか判らなくて、ただ、相羽さんの手に手を重ねた。
「ん?」
 不思議そうにこちらを見た相羽さんは、でもすっと手を翻して、あたしの手
を握り締めた。

 家族が居なくなるにつれて写真が減ってること。
 多分……この人が走ることを決意した時から、写真が無くなっているように
見えること。
 写真の量がそのまま……この人を見守っている視線の数に比例している……
……いや、そうじゃない。
 見守る視線が、無かったわけじゃない。でも。
 この写真の数は、この人が、見守ることを許す視線の数に、比例している。

 そんな、気がして。

「……あの」
「なに?」
「あの、写真とか、あたしも撮らないけど」
 一緒に暮らすようになって、もう一年以上。そういえば写真なんて撮ったこ
と無い。だけど。
「一緒には……いますから」
 言ってみて……つくづく思う。あたしは言葉が絶対的に足りてない。
 じっと見ている相羽さんに……申し訳ないくらいに。
 だけど。
「ありがと」
 耳元の、声。ぎゅっと握り締めた手。
 何だか……涙が出てきた。


「写真、とろか?」
「……え?」
 顔を上げると、相羽さんはにっと笑っていた。
「こいつらも一緒に」
 写真を見ている途中で退屈して、ちびさん達は隣の部屋でかけっこをしてる。
でも相羽さんが指で示した途端、みんなわらわらと近寄ってきた。
「…………あ……うん」

 こくこく、と、うなずくベタ達。雨竜。
 この家の屋根の下で、一緒に暮らしてる、小さな……家族達。

「うん、撮りたい」

         **

 膝の上で、雨竜はちょんと座ってすまし顔になってる。
 赤のベタは左の肩に、青のベタは右の肩に。
 一つだけ残ってた相羽さんのお父さんのカメラと三脚。相羽さんが色々向き
を変えている、その頭の上で、メスベタちゃんはふんぞり返ってる。

「よし」

 相羽さんが何か押した途端、じーっとタイマー音が鳴り出す。相羽さんが横
に滑り込んで座りなおした時に、フラッシュが一度瞬いた。

「わ」
「きゅぅっ」
「あと一枚ね」

 頭に乗っけたメスベタちゃんが、多少滑ったのもそのままに、相羽さんはカ
メラのところに行く。またタイマーをかけて、またするっと滑るように移動し
て。
 で。

「……わっ」
 ぴかっと光ったのと同時に、相羽さんの声がして、思わずそちらを見て。

 あたし達は思わず、噴き出した。

「丁度シャッター下りる時に、ずり落ちるんだもんこいつ」
 やれやれ、と、溜息混じりに、相羽さんは目の辺りで必死に髪の毛にしがみ
ついているメスベタちゃんをつまみあげた。

「写真、頂戴ね」
「もちろん」

 家族になって一年と少し。
 来年も、その次も。

「こうやって写真撮るのもいいね」
 そうだね、と、相羽さんは笑った。


時系列
------
 2006年11月。真帆の誕生日の直後。

解説
----
 真帆の誕生日の数日後、休みの日の風景。
 でも、一枚も写真撮ってないって……それもある意味珍しいかもしれない。
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