[KATARIBE 30309] [HA06N] 小説『暗幕の影』

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Date: Wed, 1 Nov 2006 01:29:18 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30309] [HA06N] 小説『暗幕の影』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年11月01日:01時29分17秒
Sub:[HA06N]小説『暗幕の影』:
From:久志


 久志です。
文化祭ネタ、ちょっとだけでも書いて見る。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『暗幕の影』
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登場キャラクター 
---------------- 
 蒼雅巧(そうが・たくみ)
     :剣道部部長、兼地下探検部。生真面目な少年。
 弧杖珠魅(こづえ・たまみ)
     :SS部元副部長、ちょっぴり悪女っぽい。巧と付き合っている。
 薗煮広美(そのに・ひろみ)
     :剣道部部員、兼漫画研究動向会。かなり腐女子。
 蒼雅紫(そうが・ゆかり)
     :創作部部員。巧の従妹(実は双子の妹)

準備中のひとコマ
----------------

 吹利学校高等部、放課後。
 授業を終えてから随分と時間が立ったというのに、そこかしこの教室から話
し声や何かを作る音、布の擦れあう音が響いている。

「ねえ、ここの展示どうする?」
「もう少しこう、ちょっと補強しよう。おーいガムテープとってくれー」
「ちょっとまって、いまこれ押さえてるから」

 文化祭を間近に控え、そこかしこのクラスや部活で出し物や展示などの準備
で連日遅くまで生徒達が活動している。
 蒼雅巧は飾り付けの準備に追われている後輩達を眺めて、昨年の地下探検部
での喧騒を思い出し、微かに笑った。
 巧の所属する剣道部の出し物。他の和裁部、洋裁部、調理部の三つと提携し
衣装を雰囲気を凝らした甘味処として、男子部員は裏方と大道具、女子部員は
小町と称し大正風の衣装着て女給を勤めるという。和洋裁縫部の気合の入った
衣装と調理部の気合の入ったデザートメニューとで、前評判は上々だった。
 着物の裾を捌きつつ、準備が整った会場に並べられられたテーブルの位置と
番号を確認する。どういうわけか本来裏方となるはずの巧も着流しを着て給仕
をすることになっている。
『センパイは女子生徒の受けがえぇんで、がっちり給仕と宣伝役に回ってもら
うことになっとりますから』
 と、いうのは一年後輩の桃実匠の弁だった。
 女子生徒の受けがいいということがどういう意味か巧にはいまいち理解しか
ねたが、給仕と宣伝という役目を託された以上、期待に応えるべくきっちりと
仕事をこなさなければならない。
 ふと巧の背後から甲高い声が聞こえた。
「あ、巧センパイ。お店のほうの準備はいいんで宣伝とチラシ配りの方お願い
しまーす」
 振り向いた先、両脇に跳ねたみつ編みが目に映った。企画担当の二年女子、
薗煮広美の顔。トレードマークの二つお下げを上下に跳ねさせながら、あちこ
ちでせわしなく指示を飛ばしている。
「わかりました。こちらの割引券つきのチラシですね」
「はい、お願いしますっ」
 お辞儀した弾みで二つに結んだお下げがぴこんと跳ねた。

宣伝中
------

 着流し姿で廊下を歩きながら。
 歩く先々で、嬉しげに囁きあう声とちらちらと巧の姿を窺う視線を感じる。

「どうぞ、剣道部主催の甘味処『小町』です」
「わー巧先輩〜写真とってもいいですかー?」
「ええ、構いませんよ。どうぞ、チラシも」
「先輩っ、関口くんと一緒じゃないんですか?」
「え?いえ、聡殿は剣道部ではありませんから……」
「あーん、惜しいっ。絶対似合いなのにっ」
「そうよね〜きっと絵になるのにーー」
 何ゆえに彼女達がはしゃいで、喜んでいるのか。また関口聡の話題が出てく
るのかは、巧には理解しかねた。
「では、是非お店にもいらしてください」
「はーい、絶対いきまーす!」
「お店いったらツーショット撮らせてくださいねー」
 手を振る女子に軽く会釈を返しつつ、釈然としないものを感じる巧だった。
 あちこちの教室に顔を出す道すがら、そこかしこで女子生徒に騒がれながら、
巧は実験科三年の教室へと足を運んでいた。
 なんとはなく、着流しの襟を正し小さく息を整える。
 教室の引き戸に手をかけて手を止める、心なしか鼓動が早まるのを感じなが
ら巧は戸を引いた。

「あ、巧にいさまっ」
 あちこちに暗幕をはった教室の中、巧の従妹の紫が長い髪をなびかせて勢い
よく振り向いた。
「紫、文化祭の準備の方は進んでいるかい?」
「はいっ、教室のお手伝いのほうは終わりましたので、これから創作部のほう
の仕上げに参ります」
「そうか、頑張りなさい」
「はいっ」
 軽く紫の頭を撫でて、教室の中を見回す。
 目指す人物の顔は暗幕の影からふいに現れた。

「巧じゃないか、部活の出し物か?」
 あちこちにかかった暗幕の影から顔をだしてくすっと笑う姿。
「珠魅殿」
 ほのかに頬が熱くなるのを感じる。
「似合ってるじゃないか、凛々しいぞ」
「いえ、そんな。珠魅殿のほうは部活の方はよろしいのですか?」
「ああ、元部長と部長の二人が頑張っていてね。私はクラスの出し物の方を少
し手伝っている」
「そうでしたか」
「…………」
 頬を染めながら言葉を続ける巧と歳に似合わぬ妖艶な笑顔を浮かべる珠魅と
を少し複雑な顔で眺める紫だった。
「あの、では私は部活に参りますね」
「そうかい?創作部は当日私も見にいくよ」
「はい、にいさま」
 どこか逃げるように紫は教室を後にした。

暗幕の影で
----------

「甘味処『小町』か、なかなか良さそうだな」
「ええ、珠魅殿も是非いらしてください」
 暗幕の中に半分隠れたままの姿で、巧が手渡したチラシを眺める珠魅。
「巧は給仕なのだろう?」
「はい、珠魅殿がいらっしゃったら私が給仕いたします」
「ふふ、嬉しいな」
 実験科三年五組の教室は、紫が出て行った後、他に戻る人の姿もなくガラン
としていた。
「他の皆様は?」
「ああ、買出しに言ってるようだ。部活に向かった者もいるしな」
「そうでしたか」
 二人きりの教室、あちこちに張り出された暗幕に囲まれた中で。
「……まだ、戻られないのですね」
 巧はかすかな息苦しさと喉の渇きを感じていた。
「ふふ、巧。こっちを見てみないか?」
「え?」
 どこか心をくすぐるような声にどきりとした。
「占いコーナーのセットなんだ、よくできてるぞ」
「そう、ですか」
 珠魅が手招きする暗幕の中、黒で統一された中で所々に硝子の飾りを散らし
た机と水晶玉、周りには魔術グッズが並べられている。
「本格的ですね」
「ああ、なかなか凝ってるだろう?」
 ふと、珠魅の手が巧の背をなぜた。
「……珠魅殿」
 一瞬体を硬くして、珠魅を見る。
「どうした?巧」
「あ、いえ。なんでもありません」
 慌てて顔を逸らす巧の姿を見て、口元に柔らかい笑みを浮かべる。
「ふふ、巧の着流し姿。なかなか色っぽいぞ」
「珠魅殿、何を……おっしゃいます」
「正直、少し妬けるな」
「お戯れをおっしゃらないでください」
 離れようとした巧の袖を掴む手。
「珠魅殿……」
 暗幕の影、心持ち見上げる風で目を閉じる珠魅。
「そ、そんな、ここは学び舎です」
 ぱち、と。片目を開けて一つウィンクする。
「ですから、そのような……」
 きゅ、と袖を握る手に力がこもる。
「……珠魅殿」
 遠くで聞こえる文化祭準備の喧騒。
 二人しかいない教室、暗幕の影。


「お待たせ、珠魅さん」
「買ってきたよー」
「お帰りみんな」
「あれ、蒼雅くん。部活の宣伝?」
「はい、剣道部主催の甘味処を…………」

 微かに巧の耳が朱に染まっていたのに気づいた者はいなかった。

時系列 
------ 
 2006年秋
解説 
---- 
 文化祭準備中、なにやってんだお前ら。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。




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