[KATARIBE 30304] [HA06N] 小説『 Big Surprise 』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Tue, 31 Oct 2006 00:02:18 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30304] [HA06N] 小説『 Big Surprise 』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200610301502.AAA86763@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 30304

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30300/30304.html

2006年10月31日:00時02分18秒
Sub:[HA06N]小説『Big Surprise』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
とりあえず書いてます。
というわけで流します(なんだそりゃ)

******************************************
小説『Big Surprise』
===================
登場人物 
-------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。 
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。去年十月に入籍 
 赤ベタ・青ベタ・メスベタ
     :相羽家で飼われていたベタの霊。真帆の能力で実体化する。 
 雨竜  :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く。 


本文
----

 何度も、夢を見た。
 紫に変色した腕を、土の中から伸ばした相羽さん。
 ざっくりと、首と身体がありえない方向に曲がっている相羽さん。

 何でこんな夢ばかり、リアルに見るのだろうと思う。起きて灯をつけた後で
さえ、思い出すのが怖くなるほど……その夢は現実味を帯びていた。

 はたはた、はたはた。
 ベッドの上で膝を抱えて座り込む。
 その肩の辺りで、ベタ達がはたはたと飛び回っている。
「……きゅぅ」
 小さな声をあげる雨竜を抱き上げて、抱え込む。
 ひんやりと、冷たい身体は、抱き上げているうちにほんのりと暖かくなる。
その温かみに、少しだけほっとする。

 金曜日、夜の11時。
「遅いね、相羽さん」
 きゅぅ、と、小さな声が腕の中から返ってくる。
 ぱたぱた、と、小さなベタ達が近寄ってくる。
 赤と青と白。白のメスベタは、でし、と、額に一度ぶつかってから、ぷいっ
と向きを変えて、電話の傍にいってしまった。

 夜、大概10時頃に、相羽さんから電話がかかってくる。
 その声を聞くまで……どうしても怖くて、眠るどころか寝る用意も出来なく
て。
 もしかしたら昨日の夢が、正夢じゃないか。莫迦らしいと判っていても、相
羽さんの声を聞くまでは、そんな思いがどうやっても去らない。

『ちゃんと週末には帰るから』
 週末。多分明日には相羽さんは帰ってくる。仕事がどれだけ忙しくても、日
曜日には必ず戻ってくる。あと一日。あと一晩だけ。
 
「電話、来ないね」
 抱え込んでいた腕の間から、きゅるんと滑るように顔を出した雨竜が、困っ
たようにきゅう、と鳴いた。

 大丈夫、だろうか。
 研修だから大変なことなんて無い。でも…………でも。

 万が一、ってことがあったら。あってしまったら…………

「……っ」
 抱えた膝を、一度爪を立てて掴む。莫迦なことを考えてるんじゃない。研修
最終日近いなら、それはそれで報告書だの何だのの用意がある筈だ。
 忙しくて、当たり前なんだ。

 だから…………

「……お風呂、入れようね」
 段々と12時に近づく時計を何時までも見ているわけにはいかない。組んで
いた腕をほどいて、ベッドから降りた、時に。

 かちゃん、と、鍵の外れる音。
 
 嘘だ、と、咄嗟に思った。
 そうやって玄関の鍵を開けるのは、あたしの他にはたった一人の筈。
 だけどまだ帰ってこない筈なのに。
 
 考える前に玄関に向かう。慌ててスイッチに手を伸ばし、灯を点ける。
 かちゃん、と、扉の閉まる音。そして鍵をかける音。
 何より。
「ただいま」
 そしてにっと笑った……相羽さんの顔。思ってた以上に元気そうで……そし
て同時に、ちょっと得意そうに笑った、顔。
 もう何一つ、心配しないでいいと思った。
 思った途端……何かが弾け飛んだような気がした。
 だから。
「…………おかえり、なさいっ……」 
 しゃくりあげながら、それだけ言うのが精一杯だった。

 ずっと、不安だったのだと思う。
 毎晩声は聴いていた。だけど顔を見たわけじゃない。もしかしたら、本当に
有り得ないとは思うけどもしかしたら、って。
「ほら、どうした?」
 半ば苦笑しながら、でも半ば心配そうに覗き込む目。頬を何度も撫でる手。
その何もかもが、あたしのなかの不安を一気に溶かしてゆく。

 この人の前なら、どれだけ泣いても大丈夫だと思う。
 この人と一緒なら、肩の荷を全部下ろしても大丈夫だと思う。


「しばらく、さあ、休みとれたから」 
 泣きすぎて頭が痛いと言ったら、相羽さんは苦笑して額に手を置いてくれた。
ひんやりと、熱を持った頭が冷える。
「よ……よかった……」 
 過労で倒れて、かろうじて休みが二日。その後……前から決まってたといっ
ても、即研修、即出張。
 そりゃ、警察って忙しいところだと思うけど、これくらいは休みがあってい
いと、あたしだって思う。

「だから、さ」
 額をさらりと撫でる指が、頬にまで下りて。
「急だけど、週明けからどっかいこか?」 

 思わず顔を上げて、相羽さんの顔をまじまじと見てしまう。
 何かの聞き間違いかと思った。

「……え」
「史の親戚のコネでね、温泉宿とってくれるらしくてさ」 
 って……じゃ……
「泊りがけ、で?」
「うん」
 そんな軽く言うけど。
 そんなことって。そんなすごく嬉しいことって。
「警部殿がね。きっちり体休めておけ、ってさ」
 じゃあ。
 ほんとなんだ。絶対ほんとのことなんだ。 
「良かった……っ」
「一緒に、ね」 
 途中で仕事に呼び出されたりしないんだ。
 休みの間、ずっと一緒に居られるんだ。

 手を伸ばして、抱き締める。
 嘘みたい。昨日まであれだけ怖かったのに。何もかももう怖くて怖くて仕方
なかったのに。
「…………よかった……」
 うん、と、頷いて、相羽さんは笑った。


時系列
-----‐
 2006年9月はじめ

解説
----
 ようやく一休みの一歩手前。相羽家の風景です。
****************************************

 てなもんです。
 ではでは。
 
 



 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30300/30304.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage