[KATARIBE 30294] 小説『夢からさめて』

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Date: Mon, 30 Oct 2006 00:52:24 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30294] 小説『夢からさめて』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年10月30日:00時52分24秒
Sub:小説『夢からさめて』:
From:久志


 久志です。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『夢からさめて』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :吹利県警刑事部巡査。人間戦車。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。去年十月に入籍
 赤ベタ・青ベタ・メスベタ
     :相羽家で飼われていたベタの霊。真帆の能力で実体化する。
 雨竜  :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く。

史久 〜待つ者
--------------

 静まり返った部屋の中。
 ベッドに横たわって眠る真帆さんの姿と、その傍らで真帆さんの手を握った
まま寄りかかるように眠る先輩の姿が見える。真帆さんの顔も先輩の顔も驚く
ほどに穏やかで。言い方が悪ければ、まるでそのまま二人とも永久の眠りにつ
いているかのような、そんな風にも見えた。
 手を握り締める。二人の後ろ、僕はただ見守ることしかできない。
 夢に囚われた者を呼び戻す時、夢を見ている者と近しいものであればある程
呼びかけは届きやすい。僕ができることは、呼びかける者に架け橋を作る手伝
いをするだけで。

 先輩。
 真帆さん。
 どうか、無事で。

 水槽に取り付けられた浄水装置のモーターが唸る音がやけに大きく響く。
 経過時間にしてみれば先輩が真帆さんの夢に入り込んでから一時間も経って
いない。しかし、夢での時間は現実の時間とは全く違う。

 先輩は真帆さんを見つけることができたか。
 真帆さんを夢から解き放つことができるか。
 二人が無事に帰ってくることができるか。

 降り積もるような重苦しい沈黙。
 答えはいまだ返ってこない。


相羽 〜光の先
--------------

 目の前で舞う、赤と青のベタ。
 きゅうきゅうとはしゃぐように俺の頭の上でぱたぱたとはしゃぐ雨竜。
 包むように抱きしめた腕の中には、両手の上にぐったりしたメスベタを乗せ
た真帆の姿。顎に触れる髪の感触と両腕から伝わる温かさと柔らかさ。
 手の内に帰ってきた、半身。
 もう、さっきまで降り注いできた赤い影は跡形もなく消え去って。

 ふと、感じる浮遊感。
 抱きしめる腕に力を込めて、宙を見上げる。
 鳥居が立ち並ぶ空のはるか上、白い光が溢れる中へとゆっくりと体が浮き上
がっていく。
 空へ落ちるよりは幾分緩やかに、だんだん間近になってゆく光の中へと俺と
真帆とベタ達、雨竜とが飲み込まれていく。

 光に包まれる一瞬。

『余地ガナイ、余地ガナイ』 

 視界に映った姿。
 
『余地ガナイ、余地ガナイ』 

 くるっとした丸い目の子供のように見える……小人。
 こちらをじっと見て、口を開いた。

『オ前ナンカカラ        』 

 後半の言葉を聞き取る前に、溢れる光に包まれて意識が途切れた。


史久 〜クールに去る
--------------------

 時間にして二時間程。
 ずっと微動だにせず寝入ったままだった真帆さんの瞼が微かに動いた。同時
に真帆さんの手を握ったまま寄りかるように眠っていた先輩の体が微かに身じ
ろぎする。

「……真帆さん、先輩」

 うっすらと目を開けて、そのままゆっくりと瞼が開いて天井を見つめる。
 一瞬置いて跳ね上がるように体を起こした。声をかけるよりも早く、目の前
を黒い影がよぎった。
「……真帆」 

 ええと、はい。
 視界に見えるのは先輩の背中と、その背中に回った真帆さんの腕ですね。

「…………相羽さん、ほんとに、生きてた」
「生きてるよ」 
「……よかったっ…………」
 真帆さんの手がぎゅっと先輩の服を握り締める。涙の混じった少しくぐもっ
た声と、先輩の穏やかな声。
「……無事だよ、二人とも」
「……うん…………うんっ」 
 しっかりと真帆さんを抱きしめて頭を撫でる手。

 ええと、なんというか。
 邪魔、ですね。はい。

 というわけで、無事は確認しましたので、ここは静かにおいとましましょう。
そろそろと、音をたてないように部屋を出る。そろえた靴に足を入れて小さく
つま先を叩く。

「きゅぅっ」
「ん?」
 振り向くと、目の前で雨竜が黒い目でじっとこっちを見ている。目があうと
もう一度小さく鳴いてちょいちょいと小さな手を振った。

「良かったね」
「きゅー」
 ばいばいと小さく手を振って、先輩の家を後にする。

 それにしても、二人とも無事で本当に良かった。

時系列 
------ 
 2006年8月頃
解説 
---- 
 悪夢から醒めた真帆と、帰還した相羽。こっそり帰る史久。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。 






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