[KATARIBE 30270] [HA06N] 小説『夢の獏・夢の果て』

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Date: Tue, 24 Oct 2006 00:15:24 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30270] [HA06N] 小説『夢の獏・夢の果て』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年10月24日:00時15分24秒
Sub:[HA06N]小説『夢の獏・夢の果て』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@いっき、いっき、です。
んなはずいもん長々書けるかーとの勢いで書きました。
先輩側の視点、史兄の風景はたのんます>ひさしゃ。
千本鳥居の話、真帆側の、一応の区切りです。

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小説『夢の獏・夢の果て』
========================

登場人物
-------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。去年十月に入籍
 赤ベタ・青ベタ・メスベタ
     :相羽家で飼われていたベタの霊。真帆の能力で実体化する。
 雨竜  :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く。


本文
----


 赤と青の小さなベタ達が、ふわりと周りを巡る。最後に相羽さんの両肩に、
丁度蝶の舞い降りるように止まった。
 小さな雨竜がきゅうきゅう鳴きながら、相羽さんの頭の上から顔を出す。
 ごく淡い紅を帯びたメスベタは、くったりと漂いながらこちらに来る。それ
を両手で受けて。
 丸く囲む相羽さんの手の領域。みんないっせいにふわりと浮き上がって。

 幾つも並ぶ鳥居の上の空は、白く輝いていた。
 空なんて、走ってる間中、見てやしなかったな、と、その時気が付いた。

 ゆっくりとその光に向けて浮かび上がり。
 ゆっくりとその光に呑まれる、その一瞬前。


 それはちいさな、小人だった。
 光の中で、その小人はぴょこぴょこと跳ねていた。

『余地ガナイ、余地ガナイ』 

 朱の帽子と朱の服。小さな手に黒い手袋を嵌めて。
 服の色合いに比べて、その顔はひどくあどけない、まるで小さな子供のそれ
に良く似ていた。

『余地ガナイ、余地ガナイ』 
 
 その子供の後ろについて、獏が二頭、やっぱりぴょこぴょこと跳ねていた。
 白と黒のくっきりとした色が、光の中で、それでもくっきりと鮮やかだった。

『余地ガナイ、余地ガナイ』 

 小さな子供の丸い目が、その瞬間真正面からあたしを見据えた。
 小さな口が、攀じ曲がるように開いて。

『オ前ナンカカラ        』 
 

 ――――え……



 血の気が引くように真っ白だった視野が、ゆっくりと暗くなり。
 瞼が重い、と、実感しながら目を開いた。
 ゆっくり開いた目に、見慣れた天井の…………

「…………あ!」 
 相羽さんは。ほんとにあれは夢だったのか。
 一瞬に凝縮した疑問の勢いで、跳ね起きる、と。

「……真帆」 
 抱き締める腕の強さ。伝わる心音の確かさ。
 全身の力が抜けるのが判った。

「真帆……」
 かすれることも、喉にからむこともない……いつもの声。 
「…………相羽さん、ほんとに、生きてた」
「生きてるよ」 
 いつもの、少し笑いを含んだような相羽さんの声。
「……よかったっ…………」
 手を伸ばして、相羽さんにしがみついた。
 それでも無くならない、それでも確かにここに居る。
 心のどこかが砕けてしまったように、泣けて泣けて仕方なかった。

「……無事だよ、二人とも」
 頭を何度も撫でる手。その温かみ。
「……うん…………うんっ」 
 泣き止まないと、と、思った。相羽さんが心配するからって。
 だけど。

 触れても居なくならないことへの安堵。
 呼吸音。心音。
 それだけが……もう。

         **

 ぺったりと枕の上につっぷしているメスベタの口元に、水で溶いた蜂蜜を少
し垂らす。と、丸い口がぱくりと動いた。
「……ありがとうね」
 スポイドとかがあればいいんだろうけど、今すぐには無い。だから指先に少
しずつ点けて、口元に垂らす。咳き込まないように、少しずつ。
 夢の中で、相羽さんが元の姿に戻ったのは、確実にこの子のおかげだ。
 赤と青のベタ達も、やっぱりおなかが空いたと見えて、隣で、紅葉饅頭をつ
くつく突付いている。ぷくばた鰭をひらめかせる気配に、メスベタはゆっくり
と頭をめぐらして。
 でし。
 ほんとうにかすかに、あたしの指を頭でつついた。
「食べたい?……食べられる?」
 ごく小さくちぎって、まず外側の『皮(というかカステラ様の部分)』を口
に落とす。その後餡子を小さく分けて、口元にもっていく。
 ゆっくりと、メスベタの口が動く。でも、それだけ食べるとどうやら草臥れ
たらしく、またぺたんとつっぷしてしまった。
「おやすみ」
 やっぱりベタ達と一緒に紅葉饅頭を食べていた雨竜が、きゅう、と小さく鳴
いた。


 二人でお茶を飲んで、一緒にお菓子を食べて。
 なんだかそれらが、すうっと自分の中に入ってゆくような感覚。
 安堵と…………そして、あと一つ。

「相羽さん」
 触れていないと不安だった。離れると怖かった。
 湯呑みとお皿を片付けるだけで、何だか不安で仕方なかった。だから、戻っ
たとたん、ついつい相羽さんに手を伸ばして。
 そのまま、くるんと抱き締められる。
 ひどく……安堵、した。

「…………あのね」 
「何?」 
「あの時、最後に……小さな子供と、獏とが見えたの」 
 ゆっくりと頭を撫でる手。
「そして……いわれた。『余地がない、余地が無い』」 
「ああ、俺も聞こえた」 
 どきり、とした。
 まさか。
「……最後の、言葉は?」 
 一瞬胃の腑が冷えるような感覚に、身体を起こして顔を上げる。
「……いや、それは聞こえなかった」 
 一瞬、息を吐いて……でも気が付く。
 でも、それでも、言わなきゃならない。

「あのね」

 夢と現の狭間の一瞬に、投げつけられた、一つの言葉。
 視野を真っ白に染めるほどの……あの時の鈍い衝撃。

「……『お前なんかから、生まれてやらない』……って」 

 相羽さんは何も言わなかった。
 ただ、背中にまわされた手に、力が篭るのが判った。
 怒りでもなく、軽蔑でもない。
 そのことが…………有難くて、でもだから辛くて。
 一旦止まっていた筈の涙が、またこぼれた。

「旦那の為なら走るって言われた」 
 耳元の、ひどく冷たい声。
「だけどって言われた」 
 相羽さんは何も言わない。ただ、背中を撫でる手が暖かくて。
「…………でも、そうしか、しようがなくて……っ」 

 多分。
 あの時、ベタ達や雨竜が、あたしを止めても、もし本当に相羽さんが消えて
しまうようなら、あたしは消えることを選んだと思う。
 それは今でも確信する。それしか選べないと思う。

 だけど。

 (オ前ナンカカラ、生マレテヤラナイ)

 ぐらぐらと、揺さぶるように……その言葉が今更重くて。

「いいよ」 
 いいよ。いいんだよ。
 責める響きなんて、欠片も無いまま。
「そんときゃそいつにいってやるよ、俺がみんな抱えて走ってやるってさ」 

 (オ前ナンカカラ、生マレテヤラナイ)
 どういうことか、考えることさえ怖かった。
 だけど、そんなこと微塵も……相羽さんの声に、無かった。

「……ごめんなさいっ……」 
「いいよ」 

 何もかもがごちゃごちゃになって、ただ泣くしか出来なくなったあたしを、
相羽さんは一言も責めなかった。
 泣いて泣いて、ただもう情けないくらいに泣いて。

 それがその日の、最後の記憶だったと思う。

時系列 
------ 
 2006年8月頃
解説 
---- 
 夢から醒めた、相羽家の風景。
**************************************************

 てなもんですが。

 しかしこう……
 真帆ってば全く、一切、これっぽちも、目を覚ました時にそこに居た、
史兄に気が付いてない(^^;;;

 …………(ふぉろーふかのー)

 てなわけで、でわでわ。
  


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