[KATARIBE 30261] [HA06N] 小説『白魚の奇跡・ sideB 』

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Date: Sun, 22 Oct 2006 23:50:08 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30261] [HA06N] 小説『白魚の奇跡・ sideB 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年10月22日:23時50分07秒
Sub:[HA06N]小説『白魚の奇跡・sideB』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
千本鳥居の続きです。
ひさしゃんの流されました話の、真帆ばーじょんです。

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小説『白魚の奇跡・sideB』
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登場人物
-------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。去年十月に入籍
 赤ベタ・青ベタ・メスベタ
     :相羽家で飼われていたベタの霊。真帆の能力で実体化する。
 雨竜  :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く。


本文
----

 相羽さんが何か言っている。
 灰紫の口元が、確かに動いている。
 にごった色の片目が、こちらを見ている。

 何なのか……わからない。なにもかも。

 腕を掴む相羽さんの手は冷たくてべたついているくせに、どこか乾いている
ような感触もあって。
 その、慣れない感触が余計に……この人がもう死んでいるって証のようで。

 相羽さんが、動いている。
 半分崩れた顔が、その度にぼろぼろと、やはり崩れていく。
 そのことが……余計、に

「足りなかった、追いつかなかった、出来なかった…………っ」 
 息の最後まで吐いて……でも臓腑を抉るような辛さは、これっぽちも変わら
ない。
 変わるわけが無い。この人は……だってこの人は。

「……お……が どらないと……な……」 
 口元が、動く……と同時に、相羽さんの口から、血が。
 どこか、ぬるぬるとした……半ば固まったまま、ごぼっと。
 
 あたしの白衣の膝に落ちる、血。
 その一滴一滴が……今それでも、こうやって目の前に居る相羽さんを、現世
から引き離すものに見えて。
「いやぁぁぁぁぁあっ!」

 目を閉じる。もう何も見たくない。
 この人が……死んでいるのに、この人が、もう一度ゆっくりと死にゆく様な
んて。
 みたく、ないのに。

「もどれ……おれがくさりはてるまえに」 
「……いや」 
「……ここは、おまえのゆめのなかだ」 

 ゆめってなに。
 頭を振る。ゆっくりと振ると、ほどけた髪の毛が、一緒に揺れる。
 そのかすかな重み。
 ……ゆめって、なに。

 かろうじて黒目の残る目が、こちらを見ている。
 相羽さんのその目が……尚更悲しくて、悲しくて、悲しくて。
 ゆっくりと、相羽さんの口が開いた。

「おまえがもどらなけれれば……おまえも、おれもきえる……」 

 うそだ、と思った。
 いや、戻らなければ消える、のかもしれない。だけど。
 どこに戻るか判らないけど、戻ったら、相羽さんは消える。だってもう死ん
じゃってる。
 でも、多分あたしは残る。あたしは生きてるから。

「戻るって、何」 
「めをさませ」 
「夢の中って、何」

 時々、相羽さんは言う。俺を信じられない?って。嘘をつかないよって。
 だけど、もし、そのためにあたしが助かるなら、この人は絶対嘘をつく。
 それくらいは……あたしにだってわかってる。
 ……だのに。
 
 だのに戻れって、それどういうこと。
 あたしはもう、ここで滅びたほうがいいのに。
 
 相羽さんが居なくなるなら、せめて一緒にここで。
 ……なのに。

「おれは……ぜったいにしなない」 
「…………嘘つきっ!!」 

 死なないよって、相羽さんは何べんも言った。背中に手をまわして抱き締め
て、額越しに聴こえる心音と一緒に。
 俺は死なないよ。大丈夫だよ。

 ……嘘っ!!

「……まほ」

 かすれて小さくて、いつもの声と全然違うのに。
 困ったような、どうしよう、みたいな。そんな。声。
 かすれて小さくて、時折途絶える声なのに、でもそれは相羽さんの声に他な
らなくて。
 それが……余計に辛い。
 死んじゃったのに
 消えてゆくのに
 置いていくのに…………っ

 腕を掴む相羽さんの手が、儚くて悲しくて。
 もう見たくなくて、顔を覆った。

 消えてゆくなら……もう……っ


 ……その時。
 相羽さんは黙っていた。
 あたしも、泣くばかりだった。
 だけど……その時、ふっと、視野のどこかが明るくなった。

「あ……」
 小さな、驚いたような、声。
 顔を上げると、相羽さんの全身から、淡く光が射していた。
 まるで……目の前の、白い光が写ったように。

 小さな星のように、白く明るい光。その光の中に重なるように、ひらひらと
はためく鰭。そう思ってみると、白い光は、ほんのりと紅を帯びているように
も見える。メスベタの身体の、色そのままに。

 そして、何より。

 灰紫に腐り、爛れていた顔が、さらさらと元に戻ってゆく。
 赤紫に溶けた肉の間から覘いた白い骨を、肉が包み皮が覆う。
 白濁した目の黒目が元に戻り、いつもの生き生きとした光を帯びる。
 欠けていた手の指が、ゆっくりと伸び、復元してゆく。
 その指がゆっくりと、驚いた自分の顔に伸び、確かめるように頬に触れた。

 ……あいば、さん。

「……真帆」 
「…………っ」 
 飛び込んだ腕の中、相羽さんは崩れることも消えることもなかった。
 廻された腕が、暖かかった。
「……死んじゃったと思ったっ……」 
「死なないよ」
 頭を撫でる手。何度も何度も、今までずっと触れてきた手。
「真帆、一緒に戻ろう」 
「…………だいじょぶ、なのね?」 
「大丈夫」 
 しがみついていた手を、ぎゅっと握る手。
「もう、死なないのね?」 
「絶対に」 
 裏返りかけた声を、一瞬で抑える声。言葉の中のほんとう。
 抱き締める、腕。

「死なないよ、絶対」


時系列 
------ 
 2006年8月頃
解説 
---- 
 『白魚の奇跡』の真帆視点。
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 てなもんです。
 あと、一回か二回、かな。

 ではでは。
 


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