[KATARIBE 30255] [HA06N] 小説『正夢』

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Date: Sat, 21 Oct 2006 21:59:11 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30255] [HA06N] 小説『正夢』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年10月21日:21時59分11秒
Sub:[HA06N]小説『正夢』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ちびちび少しずつ続けます。

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小説『正夢』
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登場人物
-------- 
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。去年十月に入籍


本文
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 丁度送電線の横を通った時に聴こえるノイズのような、ざらざらとした音。
 耳の中に満ちたその音は、いつの間にか視野までもざらざらと、ノイズのよ
うな何かで埋めた。
 よく言われる、テレビ放送の時間外の、あの砂嵐。
 あんな、ふうに。


 肩が動かなかった。
 前に出ようとしても、何かが塞き止めるように、肩を抑えていて。

「……とお、してっ」
 ざらざらと砂を撒いたように、点滅し細分化し、ぐるぐると廻る視野。ざら
ざらと擦れるようなノイズ。

「おねがい、どうしても、いかないと……っ」

 手を振り回しても、
 ざあ、ざざあ。
 ノイズの中に、僅かに生まれる、波のような強弱。
 
「ここを、百度行き来しないと」
 誰が聞いているのだろうか。
 誰が、聴いているのだろうか。
 聴いていても、それを聞き入れてくれる、だろうか。

「……あたしの一番大切な人が」
 死んでしまう、と、口に出すのが怖くて、言葉を止める。何て言えば、何て。
「な、治らないんです」
 一体誰に言っているのだろう……と、自分でも思う。
 ざあざあと、時に強弱だけはあるものの、耳を覆い尽くすノイズ。その中で、
自分の言葉すら、どこか希薄になるだけなのに。
「助けたいの。何も出来ないから、出来なかったから!」 

 くたくたに疲れて帰ってきた。
 その人に何一つ出来なかった。
 泣くばかりで、泣いて余計に気を腐らせるばかりで。
 ……なのにその人が死んじゃうって、そんな莫迦なこと。そんなありえない
こと。
 
 そんなことがあったら。
 
 無限に連なる赤い鳥居。一つ一つがそれでも、誰かに捧げられたものである
筈ならば。
「……治して下さい」
 動けない。前に進めない。もうそう願うしかない。だから。
「相羽さんを……死なせないで」
 ざざあ、ざあ。
 ノイズ。

 誰に願うのか、もうわからない。
 誰が聴いているのか、それさえわからない。
 もう、何もかもぐちゃぐちゃで、頭も動かない状態で。
「お願い、ですから」 
 頭を下げる。肩を掴まえられたまま、手を前について、下げられるだけ頭を
下げる。
 だけど。
 だけど、だけど、それでも。

「お願い…………っ」

 もうそれ以上、声が、出ない。

 ざあ、ざざあ。
 奇妙なその、ノイズの濃淡。


 それはでも、まるで偶然のように。

『……ダイ…ブ……カラ』

 ノイズにまぎれた……否、ノイズの中の奇妙な強弱に似た、声。
 肩を、ぎゅっと掴む……その、鈍いような痛み。

『…………マホ』 

 声は、似ても似つかなかったと思う。本当にざらざらと、砂をこぼす音に似
た、ざらりとした声。

 だけど。

『……悪カッタ』

 声じゃない。無論何かが見えたわけでもない。だけど。
 長く長く続く鳥居の中、たった一つあたしを責めない声。

 何があっても、何を起こしても、あたしを責めることがなかった声。


「…………あいば、さん?」

 ざらざらと、視界を埋めていた砂嵐のようなノイズが溶けてゆく。
 ざらざらと、その得体の知れない何かは、紅い鳥居の中に溶け込んでゆく。
そしてそこから浮かび上がる、見覚えのある輪郭と。

「……え」

 どす黒く、紫に染まった肌の色。

(旦那様の指は腐って落ちるよ)
 肩を掴む手の、指は幾つも欠けている。

(足はとろけて骨が見えるよ)
 足に履いた靴からは、どろりとした膿のようなものがこぼれていて。
 その合間から、半端に白い、厭な色の何かが。

(顔は半分崩れているよ)
 顔半分は皮膚ごと崩れ、目は白濁している。ただ、片目だけが。
 こちらに、視線が。

(もうおそい――――)

「……まほ」

 胃の腑の深いところから、冷たいものがこみ上げる。
 絶望とか人が簡単に使うその言葉の指すことの、その……支えきれないほど
の重さ。
 耳元を掠める、高い、子供の笑い声。

(もう、お前様の旦那様は死んでおると)
 相羽さんが
(ようやく……)

「……い」
 喉の奥から、ようやく声が出る。何かを詰め込んで音が途絶えていたあたし
の喉は、その途端一気に悲鳴を吐き出した。

「いやああああああぁぁっ!!」


時系列
------
 2006年8月頃

解説
----
 夢の中で先輩に会った真帆。しかし。

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 てなもんです。
 ……うう、まだまだっ

 ではでは。
 
 


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