[KATARIBE 30250] [HA06N] 小説『お盆の日・ 2006 』

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Date: Wed, 18 Oct 2006 00:53:51 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30250] [HA06N] 小説『お盆の日・ 2006 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年10月18日:00時53分51秒
Sub:[HA06N]小説『お盆の日・2006』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
流します(唐突に)

えっと、以前のログを使ってますが、かなり変えたりもしたので、
チェックお願いします>ひさしゃ。

先輩のおかーさんお借りしましたー

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小説『お盆の日・2006』
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登場人物
-------- 
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。去年十月に入籍
 義母
     :相羽尚吾の母親。既に亡くなっている。

本文
----

 一緒に来ようね、と、去年言ったんだけど、それはとても無理そうだったか
ら。
「相羽さん、お墓参り行ってきていい?」
 腕枕のまま尋ねると、相羽さんは少し眠そうな声でうん、と言った。
「構わないよ、全然」
「お盆だから……」
「そだね」

 親不孝という点では、人後に落ちない自信はあるけれど(そんな自信はなく
ていいに決まってる、絶対)、それにお墓にも滅多に行かないんだけど、でも
お盆くらいは行っておきたい。

「……ああ、そいえば、さ」
 なんて考えてると、やっぱり眠そうな声で、相羽さんが付け足した。
「あいつら……連れてってやってよ」
 ひょい、と、指で示すほうには、
「……ベタとか?」
「あいつら、母親が飼い始めたからね」
「…………あ」
 ああ、そういうことか。
「うん、そうする」
 頼むわ、と、言いかけた語尾がぼんやりとして。
 そのまま、相羽さんは寝息をたてだした。


           **

 大き目の、籐っぽいもので編んだ籠に、ベタ達と雨竜を入れて。
 一緒に軍手とゴミ袋、そしてお墓の近くで買った花。

「……ほら、出てこない。出てくるなら手伝わせるよっ」
「きゅっ」
 ……気持ちはすごく有難いんだけど、そこで出てきてよいしょよいしょ雑草
を抜かれると、ほんと目立つというか何と言うか……

「あら、かわいい」
「っ」
 不意の声に、慌てて顔を上げると。
「………………あ」
「こんにちは」

 相羽さんによく似た、切れ長の綺麗な目が笑みを含んでこちらを見ていた。



 赤と青のベタ達が、その人の手の上で舞っている。
「まあ、大きくなって」
 目を細めて、その人は笑っている。

 改めて……綺麗な人だと思う。
 すらりとした立ち姿。長い髪。切れ長の目。

「……それで、今日はお一人?」
「あ……はい、あの、相羽さ……いえ、尚吾さん、仕事が忙しくて」
 おやおや、と、その人は肩をすくめた。
「代わりに真帆さんが?」
「あ、あの、私が言い出したことで」
 慌てて説明した、積りなんだけど。
「そんなことまで奥さんに甘えるかしらね」
 ……全然聴いてくれて無い気がする。
「ああ見えて甘えん坊でしょう、あの子」 
 はー、とこれ見よがしに溜息をついて、彼女は額を押さえた。 
「……あの、甘えん坊というか……」 
「小さいころからそうなのよ、幼稚園の頃なんかいつもむーっとしてて、でも
担任の保母さんや私にはべったりの甘えっ子で」
「…………」
 確かになんか最近ほんとにべったりな気はするけど、でも甘えているのはあ
たしの方のような気がするというかなんというか……

「……あの、いいん、でしょうか」
 もそもそ、と、言った途端、それこそ間髪入れない勢いで返される。 
「いいんじゃないでしょうか。それより真帆さん迷惑してません?」
「迷惑とかは、全然……!」 
 それはない。それだけは絶対無い。
「むしろ、あたしが迷惑かけるばっかりで……」

 言ってみて。断言して。
 ……その通りだから、少し落ち込んだ。

「そんなことはないでしょう」
「いえ、あの……」

 ふと、思う。
 この、優しそうな人に……話してみようか、と。
 幸久さんと美絵子さん。本宮さんと奈々さん。達大さんと六華。豆柴君と尊
さん。
 千差万別、それぞれ全く異なる人達が、でも

「……あの、あんまり、甘えるってのは、私は……やったことがなくて」 
『初恋は成就しないもんだって言いますからね』
 この前偶然行き合わせて、達大さんと話した時に、達大さんがふと言った言
葉。いささかならず、その言葉には凹んだのだけど。
『あ、え…………真帆さん、もしかして』

 その後を、達大さんは言わなかった。
 だけど、いつも如才ない達大さんがそう口走ってしまうくらいに……多分、
あたしみたいなのは珍しいんだろうと思う。
 だけど、ほんとに、今までそういう……何ていうか、こんな風に人に近づい
たことが無いから、どうしても。

「いつ甘えたら迷惑とか、迷惑じゃないとか、そういう判断がつかないので」

 待機の日、一緒に外に出た時に伸ばされる手を止める。その度に相羽さんは
ちぇ、と、小さく呟いて苦笑する。
 だから、時々躊躇する。そんなことをする奴が、この人に手を伸ばしていい
んだろうか、と。
 いつだって手を伸ばしていいんだよ、と相羽さんは言ってくれる。いつだっ
て構わない、拒むことなんかない、って。
 だけどやっぱり、一瞬考える。いいんだろうか、この人だって、今はどうかっ
て思うことがあるんじゃないかって。
 ……だから。

「…………甘えてもらうと、それが判るから……ほっとしてます」
 何だかでも、言い訳でしかないから……ついつい下を向いてぼそぼそ言うと、
相羽さんのお母さんは、ほう、と溜息をついた。 
「……バランスなんでしょうかねえ」 
 え、と、訊き返す前に。
「真帆さん、甘えるのは得意ではないのですか?」 
「……なんか、慣れてなくて」 
 ふう、と、相羽さんのお母さんは溜息をついた。
「甘えられるというのは、ある種。甘えても平気という信頼なんじゃないかと
思います」 
「……はい」 
「ここまでなら甘えてもいいかしら、みたいな」 
「……あ、いえあの、もう、大概にしておけってくらい甘えてるんです!」 
 特に、7、8月。相羽さんは仕事で忙しくて、なかなか帰ってこなかったか
ら、帰った時には、気恥ずかしいくらい甘やかされてた。
『甘やかしたいから』
 あっさりと、相羽さんは言うけど、でもそうしたら、どうしてって訊く、そ
ういうのも……と、なんだかぐるぐる考えるばかりだったのだけど。
 
「そういう匙加減が、まだ真帆さんにはつかめてないのではないでしょうか」 
 だけど、相羽さんのお母さんは、その一言で事態を整理してみせる。
「……う」 

 匙加減と言われても。
 どう考えても、あたしは相羽さんに甘えすぎているだけなのだし。
 なのに……

「そうですね」
 ふ、と、その人が口元に手を当てた。ちょっと考え込んでから。
「二月に一日くらい『ものすごく甘えてもいい日』を作ってみるというのは」 
 ほわん、と、浮き上がるベタ達を軽く指先であやすようにしながら、にっこ
り笑って付け加える。
「うちはそうしてましたよ」
「……はー」
「うちは夫が少々朴念仁な人でしたから、この日だけは絶対に甘えてください
という約束をさせて」 
「……はあ」
 って……相羽さんって朴念仁の欠片もなさそうな人なんだけど。一体それ誰
に似たんだか。
「そうやってみたら?」
 にこっと笑って、そう提案される。
 ……んだけども。

 だけどそれ、この前一度、相羽さんが提案してくれたんです。既に。

「……あの、お義母さん」 
「はい?」 
「あの、それ……ええと、相羽さんからこの前提案されて、やってみたんです、
けど」 
「はい?」
 ことん、と首を傾げて、お義母さんはこちらを見る。
 何だかその目元が……相羽さんにそっくりで。

「相羽さんの甘える、の、一番下と、あたしの一番上とを比べると……相羽さ
んのほーが、上だったような……」 

『明日一日なんでも真帆の言うこと聞くよ』
 そうやって言われて……こちらが言ったのが、最初に『耳元でこそっと言う
の禁止』、次に『動くの禁止』。夜中の12時になった途端、相羽さんは今ま
で我慢した分とばかりにしっかりと抱き締めてきた。

「あら」
 ちろり、と、流し目が……妙に迫力があったりするとこまで、相羽さんによ
く似てる……とか思わず一歩後ずさりながら考えた、ところで。
「うちもそうでしたよ」 
 ころころと笑いながら、あっさりと続けられた。

「え」 
 ってことは、お義母さんが提案して、お義父さんがセーブしてた、ってこと、
なのかな。
 それってでも……つまり、この人と相羽さんって、似てるのは顔だけじゃな
いってことなのかな、とか色々と……。
「あの、あの、じゃ、どうなさったんですか?」 
「無理は禁物ですもの」
 やっぱり至極あっさりと。
「あの人の最上の甘え方で、そのまま受け入れるだけですよ」 
 それでも、思い出すだけで幸せそうに、その人は言う。
「…………それで、良かったんでしょうか」 
「ええ」 

 でも、と、思う。
 12時になった途端、待ち構えていたように延びた手。
『甘えて欲しいんだけどね、俺にだけは』
 一日、甘え放題にして、でも多分、相羽さんには足りないのかな、と。
 ということは、いつもいつも、相羽さんには手加減して貰ってるのかもしれ
ない。まだ足りない、まだって、いつも思わせてるのかもしれない。
 
「………………すみませんっ」 
「あやまることはありませんよ」 
「でも、至らないばっかりで……」 

 お義母さんは、ふと横を向いた。

「……あの子、ずっと一人にさせてしまいましたから」 
「でもそれはっ」 
 それは、この人のせいでもなんでもない。
「だから、余計に甘えっ子になってしまって」
 そう思うと……余計に切ない。家族が無かった時間を、埋めるにはまだまだ
あたしでは足りてないようで。
「………………それでも」
 約束したのに。この人に言ったのに。
「去年、最後に、お義母さんが仰ったのに、あたしはまだ」 
 ふうっと、相羽さんのお母さんは笑った。
「……ゆっくりでいいじゃありませんか」 

 その言葉も、その響きも。
 確かに……相羽さんによく似ていて。
 涙が、こぼれた。

「真帆さん」
 頭に触れる、優しい手。
「ゆっくり、幸せになってください」 
「………………はい」

 はたはた、と、首筋に柔らかく触れる、これはベタ達の鰭。
 慰めるように……


「……あの」
「はい?」
「あの、ここの雑草、取っちゃいますね」
「あら」
 お義母さんは笑いながらこちらを覗き込む。
「手伝いましょうか?」
「え、あ、いや、いえっ!」
 なんぼなんでもお盆で帰ってきた方に、自分のお墓の掃除の手伝いって、あ
んまりだし……
「どうかそこで、ベタ達と遊んでてくださいっ」

 ころころ、と、その人は笑う。
 ベタ達は、ぽうんと跳ねるように空中を泳ぎまわる。
 雨竜は抜いた雑草とまだ抜いていない雑草の間を、何度も走り回ってる。


 お盆の一日。
 そんな風な、日。


時系列
------
 2006年8月15日

解説
----
 相羽家の、嫁姑の会話。
 なんというか……ほのぼのです。

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 てなもんで。
 ではでは。




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