[KATARIBE 30240] [HA06N] 小説『停滞』

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Date: Fri, 13 Oct 2006 01:40:06 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30240] [HA06N] 小説『停滞』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年10月13日:01時40分06秒
Sub:[HA06N]小説『停滞』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
続き書きました。短いです。

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小説『停滞』
===========
登場人物
-------- 
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。去年十月に入籍


本文
----


 限界だ、もう駄目だ、と、何度も思う。
 だけどそれでも手は前に出る。足は動く。
 無論きつい。辛くてならない。だけどそれでも、前に出るならそれは限界じゃ
ないとも言える。

 ……そこまでの限界しか、知らなかったといえば、いえる。

          **

 一度歩くことを憶えた子供は、はいはいに戻ることはない、という。
 なんかその理由が、判る気がする。

 おかしいと自分でも思う。足が動かない、これは判る。散々走ってきたのだ
から限界にもなるだろう。
 でも、同時に、手も動かない。これが解せない。
 ……そんな莫迦なことを考えてる場合じゃないのに。

 一本一本、数えることこそもう止めてたけど、鳥居はそれなりの速さで後ろ
に消えていってた。進んでいるのかどうなのか、判らなくなるほどの単調な風
景だったとはいえ、少なくとも今と数秒前では、鳥居を通過する前、後、みた
いに、風景は変化してた。
 だけど。

 手をひきずって、前に出る。一緒に足も引きずって。
 そしてまた、反対の手と足を……

 鳥居を一つ通過するのに、どれだけ時間がかかることか。

 白い靄のようなものは、もう、消えて見えなかった。
 それでもぶつかられたこめかみや、弾みで打ちつけた身体は痛い。その分確
かに移動する速度は落ちている。何より、こうやって這うのは……無論疲れて
いるせいもあるけど……歩くのよりも格段に移動速度が遅い。


(まだ、諦めないのかよ)

 ほんわりと、肩の辺りに漂う声。
 子供の声のようにあどけない、少し高い声は、けれども、恐ろしいことを至
極あっさりと継げた。

(もう、お前様の旦那様は死んでおるに)

 ざあ、と、目の前に細かい白黒の線が走ったように見えた。
 
「……うそ」
(うそなものかよ)
 間髪を居れずに、声が返る。
(時間は無いと、いうた筈だよ?)

 ゆっくりと。
 その声の内容が、身体に染み込んでくる。
 ゆっくりと。
 その言葉の意味が、耳に、そして頭に届いてくる。

 …………うそ

「うそ、だよ」
(うそではないよ)
 心外そうに、その声は告げる。

(ここの時間は、お前様の世界のそれとは違うよ)
(旦那様の指は腐って落ちるよ)
(足はとろけて骨が見えるよ)
(顔は半分崩れているよ)
(もうおそ――――)

「うるさいっっ!!」

 怒鳴った声は、自分でも哀れなほどに語尾が震え、しゃがれていて。
 怒鳴った分……確信が失せるような声、だと、自分でも思った。
 
 でも。

「あんたのいうことなんか、信じない」

 気が付いたら、涙がこぼれていた。灰色の石畳の小さなくぼみの上に、それ
は何だかぼんやりと溜まっていた。
「あのひとは、死なないんだから」
 何度も、相羽さんは言った。俺は死なないよ、大丈夫だよ。
 だから。
 だから…………

(はっはぁ!)

 子供の、無邪気極まりない……故に残酷な笑い声が、後頭部左側を切り裂い
て耳に届く。声の割に、妙に古臭いというか……何だか妙な口調で、その声は
勝ち誇ったように告げた。

(そう信じておらるるがよかろうよ!)
「……うるさいっ」

 言葉と一緒に、腕を一つ前につく。石畳を平手で叩くように。そのまま重心
を移動させて、前に………

 …………前に

「……?!」

 両肩を、何かがぐっと掴んで引き止めた。
 目の前が、暗くなった――――



時系列
------
 2006年8月頃

解説
----
 夢の中、停滞する真帆。
**************************************************** 

 というわけです。
 うーん、次のシーンまで書こうかなあ(ふふふ


 ではでは。

 


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