[KATARIBE 30234] [UB01N] 小説:『少年と新聞』

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Date: Thu, 12 Oct 2006 00:13:34 +0900
From: Paladin <paladin@asuka.net>
Subject: [KATARIBE 30234] [UB01N] 小説:『少年と新聞』
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 ぱらでぃんです。

 Sawさん。キャラ借りました。

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小説:『少年と新聞』
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登場人物
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 ジョミン   :フラワーポットを目指した少年。

 モトヤ    :フラワーポットを拒んだ中年。

 マリアン   :フラワーポットに馴染んだ老年。
         http://kataribe.com/UB/01/C/0007/

 ツカサ    :フラワーポットに馴染んだ少女もどき。
         http://kataribe.com/UB/01/C/0006/

本文
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 漆黒の海を蹴って白波を上げながら進む船の上で、少年は天へ伸びる光芒を
凝視していた。
「あっちに住んでりゃ毎日見るもんだが、珍しいかい」
 いつの間にか後ろに老婆が立っている。ドレッドヘアにゴーグル、目が痛く
なるような色をした服という珍奇な格好の老婆だが、海賊であるこの船の船長
までが敬語で話しているということは、服装以外も只者ではないのだろう。と、
少年はこれまでの経験を踏まえて考えていた。
「眠れなくて。ええと、ミズ」
「餓鬼は気を遣わなくていいんだ。もっとも、こんな船使うようだし堅気じゃ
無いんだろうがね」
 忘れたのか知らなかったのか、名前を呼びあぐねている少年を制して老婆は
言い、沿岸警備の連中にも面子てえもんがあるから甲板に出るのは暫くおよし。
と、よく通る早口でまくし立てて船室へと引っ込んでいった。
 その勢いに圧されてか少年は船縁から手を離して錆をリサイクル合成樹脂製
ジャケットの裾で拭うと、あるはずがない繊維に絡みつくことのできなかった
錆が風に吹かれ、水面に消える。
 少年はそのまま船倉へ戻り、ここ数日自らの定位置としている積荷と積荷の
間に身を落とすとジャケットの隠しから新聞紙を出し、それに包まって波音と
機械の駆動音を子守唄にまどろみ始めた。
 こうやって身を処すたびに、彼は叔父のことを思い出す。
 正確には叔父では無く、そも血縁すら無いはずなのだが、彼は少年の叔父で、
少年は彼の甥だった。
 モトヤ・リューミンと名乗っていたその叔父は、旅の途中、ある街で少年を
拾ったと言った。理由は特に無いとも。
「だから、お前さんは幸運だってことを自覚していたほうがいい」
 叔父はことあるたびにジョミンと名付けた少年にそう言っていた。浮浪児が
ひしめく中で彼はたまたまモトヤの気分が乗っていた時に現れた。それは凄く
幸運であり、また人は幸運の持ち主というものに対して敏感であると。
「目立つんだよ、そういう奴は」
 目立てばしなくてもいい苦労がやって来る。モトヤはそういうことを殊更に
嫌っているようであった。一つの場所に留まらず、路銀を稼ぎながら世界中を
放浪し、その道々でジョミンに様々なことを教えてきた。
 新聞を利用することもその一つだった。どこに留まっている時でもモトヤは
毎日新聞を買っていた。
「情報だけじゃないんだよ」
 ニュースサイトではいけないのかとジョミンが訊ねた時、叔父はそう言った。
その土地の雰囲気を掴むため、店員と話す機会を作るため、そして。
「顔を隠すように読んでいれば視線が隠れる。違和感無く気配を消せるのは、
何かと有用だ」
 さらに、防寒具や布団の代わりにもなるので新聞は重要である。と、珍しく
モトヤは感情を露わにして語ったので、ジョミンもそういうものかと納得した。
事実、野宿で何度も助けられていたというのもある。
 そんな事を考えているといつの間にか寝ていたようで、射し込む朝日が彼の
目を開いた。寝てる間に到着し、積荷を降ろしにかかったらしい。ジョミンも
少ない荷物を背負って甲板へ出る。
「どうも、ありがとうございました」
「気にするな。モトヤの野郎にも借りが返せて安心して眠れるからな」
 フラワーポットへ行きたいと言ったジョミンにモトヤは強く反対し続けた。
しかし、彼が何度も何度も言いつづけるうち、叔父は自分と別れるのを条件に
彼がフラワーポットへ行く事を許し、この船長に甥を託した。
 静かに、しかしお互い強情に一ヶ月の間話し合って出た両者納得づくの結論
だった。が、モトヤが珍しく自己を主張して強情に行きたくないと言い続けた
理由はついに語られなかった。
「あの街は、嫌いだ」
 ジョミンが何を言ってもモトヤはそう言って顔を背けるだけだった。
 船長の昔語りを聞いているとそういう叔父と別れる前の数週間を思い出して
しまうので、慌てて上を向いたまま挨拶を終わらせ、浮島の土を踏む。老婆は
既に下船していまっていたらしく、影も形も見えなかった。
 街の雰囲気を頼りに少し歩くとパラソルの下に売店があり、デッキチェアに
張られた布を不自然にたわませて寝そべった少女が店番をしていた。
「サンドイッチと水。それから、新聞を」
「ああん」
 少女が眉を歪める。
「さてはあんた、素人だな」
「え」
「ここではな、ゴミになる新聞は出してないんだ」
 ジョミンは一瞬呆気に取られた表情をしたが、次の瞬間、モトヤがこの街を
嫌う理由が判った、気がした。

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