[KATARIBE 30226] [HA06N] 『雨センサー 3』

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Date: Fri, 6 Oct 2006 21:03:00 +0900
From: "Toyolina and or Toyolili" <toyolina@gmail.com>
Subject: [KATARIBE 30226] [HA06N] 『雨センサー 3』
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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[HA06N] 『雨センサー 3』
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登場人物
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 蒼雅紫 http://kataribe.com/HA/06/C/0573/
 品咲渚 http://kataribe.com/HA/06/C/0636/


「どうぞ、使ってください。これ、お母様が編んでくださったのです」
 金曜日。塾の帰りに。いつものように、渚の家に着くなり、紫は二つめの鞄
から、大きなひざ掛けを取り出した。
 丁寧に畳まれていて、大事に使っているのが見て取れる。部室や教室で、最
近よく使っているものだ。
「え、でも、うちが使ってええの?」
 大切そうなものだから、こう問うたのも当然。
「はい、大丈夫です。こうすると、二人で入れます」
 にっこり笑って、両隅を両手に持って、ばあっと広げる。紫が両手を伸ばし
たよりもやや幅が広く、ひざ掛けというよりむしろ、小振りな毛布のようだ。
「でかっ」
「はい、とても大きくて暖かいです」
 にこにこと、嬉しそうに、少し得意げに答える。
「ですから、ご一緒しましょう」

 部屋に入ると、紫は嬉しそうに渚の隣に座った。ひざ掛けに二人が収まるよ
うに。それでもやはり、縦横ゆとりがあって、崩して座れば、脚全体がすっぽ
り覆われる。
「なんか、毛布みたい。山小屋で暖まってるとか、そんな感じや」
「普段は、二つに畳んで使っているんです。広げたのは初めてで……」
 どうやら、紫自身もこうして使ってみたかったらしい。

 眼前のローテーブルに教科書やらを広げることもなく、ひざ掛けの上から、
渚の膝をゆっくりさすり始める。
 少し戸惑う渚と目が合って。紫はやはり微笑んでいる。
「こうしていると、思い出します」
「うん?」
「従姉の梓姉さまも小さい頃に、怪我をなさったそうなんです」

 口調も手つきもとても優しくて、労る気持ちがひざ掛けを通して、拡散して
古傷を包むように思えた。渚は瞳を閉じて聞いている。
 実際、紫の手が動くたびに、少しずつ痛みが消えていくようだ。

「寒い日は、時々古い傷が痛むと」
 かみしめるように、俯きながら、紫は続けた。
「そんな時はわたしが、いつも痛む腕をさすってあげたんですよ」
 薄目をあけて、渚が笑う。
「ゆかりんの手、癒し系やなあ……うん、今日寒かったね」
「渚さま、とても辛そうでした。もっと早く気づいていれば」
「ん……、いつも痛いとか、そんなことないから。ただ……ちょっと動きづら
いだけなん」
 語尾が少し鼻声になっている。

「だから、お風呂でマッサージなさってたのですね……。普段も、今日のよう
に、痛むのでしょうか」
「んー……しょっちゅうちゃうけど……たまにかな。雨降りそうなときとか……
寒かったりすると……」
 だんだんと、語尾が消え入りそうになっていった。

 気づいていないのか、紫は撫でさすりながら続ける。
「痛むときは、ぜひおっしゃってください。これくらいしかできませんけれど」
「うん……ありがと……」
 ことん、と。
 紫の肩に、渚の顔が寄りかかった。
 すうすうと、小さな寝息が、かすかに開いた口から漏れているのが聞こえる。
「渚さま……ひゃっ?」

 かくん、と。
 脱力した渚の顔が、紫の胸元へずり落ちた。
 幸い、クッション的役割を果たすには、紫はすばらしい素質を持っている。
 渚の顔面は落下せずに済んだ。

「み、渚さま……」
 まだ胸元で寝息をたてている渚を起こさないように、ゆっくりと抱き寄せて。
「今日は、お勉強はお休みですね」
 後れ毛のあたりを軽く撫でながら、紫も瞳を閉じた。


時系列と舞台
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10月初旬、品咲家にて。


解説
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ゆかりんママお手製のひざ掛けが二人の仲をさらに。
とかそんな感じで一つ。


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Toyolina
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