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Date: Fri, 06 Oct 2006 04:19:13 +0900
From: Paladin <paladin@asuka.net>
Subject: [KATARIBE 30224] [HA06NJ] 小説:『魔法少年匿名希望・前史』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20061006024804.2399.PALADIN@asuka.net>
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ぱらでぃんです。
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小説:『魔法少年匿名希望・前史』
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登場人物
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アオキ ：地球圏統合軍の少尉。
ナボコフ ：地球圏統合軍の将軍。軌道解放戦線事件の生き証人。
本文
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地上施設を襲った爆撃の震動が、大地を鳴動させた。
「トップガン、というか」
アオキ少尉を凍土の下、冷凍チャンバー層へ向かうエレベータに案内すると、
ナボコフ将軍は大きく息を吸い、吐く。
経年劣化した機械の肺からひょうひょうと外で吹きすさぶ寒風のような音を
出しながら、狂って。いや、そう狂ってもいなかったかと将軍はひとりごち、
アオキに視線を落とす。
「軌道解放戦線を知っているかね」
「コロニー群の自主独立を掲げていたテロ組織、軌道で既存の地上国家権力や
統合軍相手にテロを繰り返していた。程度しか知りませんが」
「そうか。活動内容については報道管制も敷かれていたしな、君らの世代では
知らずとも無理は無かろう」
「輝ける雪〈ブライトスノウ〉と薄暮の空〈ダスクスカイ〉も構成員だった。
ほどの知識はあります」
「ならば少々話は早くなる。軌道解放戦線は軍隊経験のある二人を実行部隊に
雇い、彼らは全てのミッションを彼ら二人のみで実行し、完遂した」
私の体もその時半分ほど持っていかれてな。そう言って将軍は銀色の禿頭を
撫ぜ、苦笑する。
「その時」
アオキが脳に埋め込まれたデータベースにアクセスしている間、狭い空間を
機械の駆動音が支配する。
「しかし、将軍は当時月軌道艦隊に所属されていたはず。テロの対象は」
そこまで言ったところでアオキは将軍の視線に気付き、口を閉じる。
「公にはされておらず、軍内部でも関連情報は凍結されているがな。統合軍や
各国政府に対する小規模な破壊工作は表向き。彼らは」
彼らは、たった二機で月軌道に駐留していた統合軍艦隊を壊滅させた。
将軍はそう言った。
「彼らはテロリストと云うより、独り軍隊だ」
独りで斬り込み、独りで戦線を保たせ、独りで敵軍を殲滅する。そう言い、
将軍はアオキの脳に接続して彼の脳が記録していた映像を再生する。
アオキは呆けた表情で、将軍を見ている。
艦隊が発する最期の輝きが雪のように降り、爆発が月の空にあるはずのない
薄暮を演出する。
「化け物、だ」
「だが残念なことに、この化け物の話には続きがある」
壊す物はもう無いじゃないですか。と言うアオキに将軍は哀れむような目を
やり、続ける。
「彼らは全てが終わると、そのまま月面の統合軍基地へ投降した」
「何故」
「もう壊す物が無い。などと言っていたらしいが。その頃私は宇宙を漂流して
いたからな、真偽は判らん」
アオキは何も言わず、将軍を凝視している。
「永久凍結刑になったのも、罪状や実験素体という価値もある。だが、彼らが
軍を脅迫した。というのが直接の原因だ」
彼らは月面統合軍に照準をあわせたまま、自分たちを永遠に氷の中で生かし
続けることを求めた。
「壊したりないから、もっと壊せる相手が現れた時に目覚めさせろ。それが、
最後の要求だったらしい」
ごうん。と重い金属音が響き、二人が目的地へ着いたことを知らせる。
「文学には詳しくないが、神曲で悪魔は嘆きの川で氷漬けになっていたか」
十重二十重にかけられたロックを解除しながら、将軍は呟く。
「ならば、ここは」
地獄かもしれんな。
将軍はそう言い、最後の扉を開いた。
時系列
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2006年夏？ 宇多楓の漫画、魔法少年匿名希望の本編へ至る物語。
関連作品
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http://kataribe.com/HA/06/G/200604/0032/ HA06:CG:魔法少年匿名希望
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