[KATARIBE 30217] [HA06N] 小説『侵蝕』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Mon, 2 Oct 2006 01:24:09 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30217] [HA06N] 小説『侵蝕』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200610011624.BAA83091@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 30217

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30200/30217.html

2006年10月02日:01時24分08秒
Sub:[HA06N]小説『侵蝕』:
From:久志


 久志です。
もっと書き込みたかったけど、文章力が足りなかったですよ。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『侵蝕』
==============

登場キャラクター 
---------------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。

赤い影
------

 石畳に響く足音。
 連続する写真のようにちかちかと赤く瞬く鳥居の影。

 どこまでも続く赤いトンネルの中を駆け抜ける。
 走って、走って、走り続けて。
 走っていくうちに、自身が少しづつ引き伸ばされていくような希薄感を感じ
ながら、半ば熱に浮かされたように、石畳を蹴って走り続ける。

「真帆」

 どれだけ走ったか。
 どこまできたのか。

 一つ、鳥居を抜けて。石畳を踏みしめて足を進める。
 無限に続くかのように立ち並ぶ鳥居の影に混じって、闇も中からひらひらと
落ち葉のように降り注いでくる赤い影。
 腕に、肩に、頭に、背中に。音もなく降り積もってくる。
 降り積もってくる、なにか。気がついたら、身動きも取れないほどに。

『お前が……必要だ』

 誰よりも必要で、半身で、何にも換えられなくて。
 なのに自分はいつもあいつを待たせて泣かせてばかりいて。

「……真帆」

 目の前で踊る、赤い影。
 霧雨のあの日、煙るような雨の向こう、うつぶせに倒れた父親を助け起こそ
うとした時、手のひらに感じたべたっとした感触。

 赤。

 ひらひらとまとわり憑く、赤い影。いつの間にか腕に服に体にじっとりと降
り積もり、体を赤く染め上げていく。

 赤。

 まぼろしのように目に浮かぶ、両手一杯に広がった血と真っ赤な……石榴の
ようにはじけた……肉。
「ぐっ……」
 思わず背筋を這い上がった吐き気にをこらえる。一瞬、崩れそうになった膝
に力を込める。
 これは夢だ、真帆の夢の中。現実じゃない。
 再び走り出そうとして、ふと右足に違和感を感じる。石畳の上を踏みしめて
いるはずだったのが、全く違う柔らかいものを踏みつけたような奇妙な感覚。
弾力のある柔らかさとも違う、降り積もった落葉を踏みしめたような、朽ちた
木が重さに耐えかねて軋むような。
「きゅぅっ!」
 ふいに甲高い声をあげて雨竜が腕を揺する。
「どうした?」
 問いかけに答えはなく、顔をあげて真っ直ぐに見上げてくる黒い瞳。尋常で
ない何かを見たような見開いた目。
 雨竜の傍ら、青と赤のベタ達も全く同じ目でこちらを見ている。つぶらな目
を見開いて、微かに怯えるように。
「どうしたんだ?」
 思わず手を差し伸べようとして、凍りついた。

 差し出そうとした手。
 その手が指先から錆びついたような赤黒い色に染まっていた。
「な……」
 赤黒く変色した手。皮膚はあちこちひび割れてささくれ立ち、指先はどす黒
く染まって爪との境目すら見えない。目の前で広げた手の平、渇ききった皮膚
が引き攣られるように捲れ上がる。
「一体、何が」

 その、指先が。

 音もなく石畳に転がった。

「……っ!」
 思わず手首を掴む。変色した左手の薬指と小指が根元から千切れ、傷口から
滲むように泥のように赤茶けた汁が染み出し、同時に全身の内側から軋むよう
な音が体の中から響いてくる。

 赤茶けた汁に洗われるように傷口から覗く白い骨。
 踏みしめた足の内側から響く、ぐにゃりとした何かがずれるような感触。
 カラカラに乾いた喉の奥からこみあげてくる――鉄臭い匂い。

「ごほっ」
 灰色の石畳の上に広がる赤黒く淀んだ赤。なおもおさまらずこみあげる吐き
気と鼻につく臭気。
 一瞬、目の前が歪む。

 ぶちまけられた血の赤。
 ひらひらと降り積もってくる赤い影。
 一つ、降り積もるたびに肌を服を通して染みこんで――

「きゅぅっ!」
 ゆさゆさと必死で肩を揺さぶりながら叫ぶ雨竜の声。首筋にばたばたと触れ
るヒレの感触。

「まほ……」
 喉の奥から響く声がかすれたように途切れる、何度息を吸い込んでも息苦し
さが止まらない。耐え難い渇きを覚えながら、ゆっくり体を起こし足を踏みし
める。足の内側から感じる――骨の軋む音。

「……どこに……いる」

 こんなところで倒れるわけにはいかない。
 探さなければ。

 たった一人の。

 俺の半身を。

「……まほ……」


時系列 
------ 
 2006年8月頃
解説 
---- 
 夢の中、体が腐り始める相羽。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。 

 ホントにまほまほうるさい先輩です、はい。





 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30200/30217.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage