[KATARIBE 30205] [OM04N] 小説『縫紋』

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Date: Wed, 27 Sep 2006 01:38:41 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30205] [OM04N] 小説『縫紋』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年09月27日:01時38分41秒
Sub:[OM04N]小説『縫紋』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
初挑戦、鬼舞の刻です。
……時代やら、人物紹介やらは、まだ無いんでええ(汗)
まあ、とりあえず、試しに書いてみました。

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小説『縫紋』
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 桶にふんだんに汲んだ水は、箒を使う間日向に置く。その間にかなりぬくもっ
てきた水に手拭を潜らせ、きつく絞っては床を拭く。
 小さな庵とはいえ、掃除はやはり時間を食う。かといって一日ずるければ、
やはりあちこち何となくざらざらと残る。板張りの縁側はざらざらとし、裸足
に居心地が悪くなる。落ち着いて細工もできなくなる。
 だから、幾度も手拭をゆすいでは、きつく絞って拭く。

「……ひいさま」
 呆れたような声に顔を上げると、いつもの使いの女が、声のとおり呆れた顔
でこちらを見ていた。
「そのようなこと、私が致しますのに」
 言いながらさっさと手を伸ばし、手拭を手元から攫って桶に入れる。あ、そ
れは、と言う前に、女は布の包みを差し出した。
「ひいさま、今日はこれを、と」
 受け取った包みは、微かに焚き染めた香の匂いを残していた。


 掃除よりもこちらの用が先だと、女は頑として譲らない。
「何があったのですか」
 先に拭き清めた縁側に、薄縁を敷いて座る。横にいつもの箱を置き、風の具
合を見てからそっと開く。
「鬼が、出るのだそうですよ」
 袖を大きくまくりあげて、女はざかざかと勇ましく手拭を洗う。
「鬼が、また?」
「女子が食われたとか」
「…………また?」

 包みを開くと、淡い色の狩衣が重ねられている。
 二枚、と思ったが、その下にもう一枚あるのをうんざりとして見た。

「いつまでに?」
「ひいさまの刺繍が終われば、私がそれを陰陽寮にお届けします。そうすれば
すぐにでも」
 頼む相手が悪いのか、持って来る女が悪いのか……と言ったところで、後者
が悪くないのは良く知っている。かといって前者に文句を言おうにも、言う術
もなさそうなのだが。
「袖のぐるりに、と」
 また、一番長々と。

 箱の中から糸を取る。狩衣のとほぼ同じ色の糸を選び、軽く手で縒りをかけ
る。二つに折って、縒りの甘い糸を作る。
「では、文様は、護りの」
「そうでございますね」
 おやここの汚れは取れないよ、と、呟いて、女はさっさと裏に回った。じき
に藁を束ねたのを片手に握って戻ってくる。その間にざっと狩衣を広げた。

「ああ、その衣は、出来れば玄武にちなむ紋を、とのことでした」
「……おやまあ」
 では亀甲か。

 考えつつも、糸を針に通す。一度目をつぶり、文様を頭に描く。
 そして、目を開き、狩衣の袖に指を走らせて。

 ――――よし

 そのまま、布に目を落とし、針を走らせる。
 その間も、女は掃除を続けている。
 しゃっしゃっと藁束で、汚れを擦り落とす音が心地よい。

 一色で、文様を縫い取る。
 護りの文様。なれば魔を縫い止めるほどのことも必要がない。
 今のこの陽光を、糸に含ませ縫い止めるほうが、余程に鬼への護りとなる。
 亀甲の六角。その厚い縁取りの中に縫い止められた陽光は、鬼の目を時に灼
く光ともなろう。
 ……否、ならねばならぬ。


「その一枚でも出来ましょうか」
 不意に覗き込まれて、思わずのけぞった。女はおやおや、と、困ったように
首を傾げた。
「出来ましたら、私が受け取って届けますが」
「そんなに急ぐの?」
「かなりに」
 片袖は、掃除の音を聴きながら縫い終わった。あとの片袖を縫い終わるには、
日の射す時間はあまりに短い。
「……やはりどうしても、明日にはなりそうです」
「で、ございましょうね」

 あっさりと言われて、気が抜けた。

「大丈夫でございます、ひいさま。陰陽寮には、どれだけ急いでも狩衣一枚二
日はかかると申してあります。それ以上早く縫い取りをなさるなら、それはも
うひいさまが、陰陽の方々の身を案じてのこと、と、よくよくいうておきまし
たから」
 そして、一日でも早く仕上がれば、約束に色をつけて取り立てるのだろう。
 そういう世故に、彼女はとても長けている。そのことにどれだけ助けられて
きたかわからない。
「……では、出来るところまでやってしまいましょう」


 狩衣一枚。両袖に文様を縫い取りして。
 すこし気の利く女子ならば、この程度のことは出来るだろう。それをわざわ
ざここに預けるには、確かに理由がある。

 私の縫い取りは、どうやら魔を防ぐらしい。
 否、時に魔を……封じもする、らしい。

 あれはまだ幼い頃、この女の母から縫い取りを教わった時。
 真似をして一目一目縫う、その手元にひゅっと何かが流れ込んだような手応
えがあった。
 その夜、鬼が現れた。
 慌てた乳母は、手近にあったこの布を鬼に投げた。
 鬼はぎゃっと叫んで…………消えた。

 以来、考えると様々なことがあった。縫い取りをする場所も、今ではこの小
さな庵の縁側と決まった。
 それでも、以来、陰陽寮からの言付けは絶えず……そして今も、そのお陰で
ここに私達は暮らすことを得ている。
 どれほどのことが出来るのか、知っているわけではないけれども。


「ひいさま、そろそろ中にお入りなさいませ」
 女が高く、そう呼んだ。

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 てなもんです。
 藁束使ってみました。

 であであ。
 


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