[KATARIBE 30200] [HA06N] 小説『羅刹』

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Date: Sun, 24 Sep 2006 21:08:03 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30200] [HA06N] 小説『羅刹』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年09月24日:21時08分03秒
Sub:[HA06N]小説『羅刹』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
真帆側の風景、続けます。

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小説『羅刹』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。去年十月に入籍

本文
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 どれだけ走ったろう。
 どれだけ走り続けたろう。
 
 24時間耐久レースとか、そういうのをどっかで聞いた事がある。無論あた
しがそんなに長い間走っているわけじゃないだろうけど。
 
 足が上がらない。
 歩くほうが早いかもしれない、と、ふと思う。
 一歩一歩、足を前に出し、一歩一歩、また足を引きずる。どれだけその動き
が鈍重になっても、それは歩くのとは違う動きで。
 それだけに……

(……だって無理だ)
 頭のどこかでそんな風に。
(これじゃ、百度は愚か一度だって)
 常識。いやそれ以上、それ以前。
(無理だ…………)

 引きずりながら足を前に出し、またそのまま足を前に出す。
 考えた途端足は重くなる。慌てて頭を空にする。
 空にした頭のまま、ただ、もう自動的に。


『…………諦めようとは思わぬかえ?』

 不意、に。
 そんな声。
 あどけない子供……まだ男とも女ともつかない時期の、高い子供の声。

『御前様が頑張ってないなら言わぬわな』
『だが、御前様は頑張ったろう?』

 足どりが、なおのこと重くなる。そのまま足を止めて、手を見た。
 左の掌は石で刺した傷がまだ残る。
 右の掌は転ぶのをかばって、大きくすりむいている。ついでに転んだ時に小
指をひどくぶつけた。動かすと痛い。

『一度は行き着くかも知れぬよ。御前様が頑張りに頑張れば』
『だが、それで一度。そこを戻ることが出来るかね?』

 怖くて、後ろを振り越えることが出来ない。どれほどの距離を、次に戻らね
ばならないか、考えるだに恐ろしくて。

『なあ御前様、この場で御前様も殺してあげるよ』
『それだけ傷付いたのだ。御前の旦那様も、文句は決して言うまいよ』
『そもそも、我から傷付いて倒れたのだろう?』
『ここまで頑張ったのだ。御前様がここで死ねば、恥は誰にもばれぬよ』

 ずるずると足をひきずっていた。
 いつまでも足は重かった。
 どこまで行っても苦しかった。

『……なあ』
 すい、と、気配が肩の上辺りに凝る。
『諦めぬかね?』

 苦しい、では足りなかった。
 もう身体のどこも、一度止めてしまえば動かなくなると思った。

 だけど。

「……相羽さんは、どうなるの?」
『とは?』
「相羽さんは……どうなるの?」

 肩の上の気配は、ほんの一瞬黙った。
 そして。

『それは死ぬよ』

 ぎん、と、眉毛の上から鼻腔、顎に至るまで一撃で叩ききられたような衝撃。

「…………いや」
『なんと?』
「絶対に、いや!!」

 この道を百度行って戻って。それが無理だろうくらいはあたしにだって判る。
 だけど、もし、あたしが走り続けるなら。
 何があっても走り続けるなら。
 とにかく前に進むなら。

 少なくとも相羽さんが死ぬかどうかは、判らない。
 どれだけ僅かの確率でも、相羽さんは生きているかもしれない。

 無限に僅かの可能性でも、あたしの手でそれを止めることなんて出来ない。

「絶対に……絶対に!!」
 いや、そんな理屈はどうだっていい。

 相羽さんが死ぬのはいやだ。
 何がどうあってもいやだ。

 身勝手だろうがわがままだろうが、相羽さんが死ぬのだけは…………!!


「…………いや!」

 力の入らない足を、持ち上げてまた前に押し出す。
 肩の付け根が泣きたいほど痛い。
 
 わがままだ。
 勝手だ。
 理屈なんて無い。
 そんなものはかまやしない。

 だけど。

「絶対に…………いや!!」

 ひきずる足が、石畳の間をかすめる。
 ぐらり、と、そのまま身体が揺らぐ。
 身体が叩きつけられる音を、他人事のように。

 それでも、それでも。

「絶対に……絶対、に」

 いや。


 ふう、と、肩のあたりで溜息の気配があった。

『御前様、旦那様の為にはどれだけでも走るのだね』
『……ただ、一人の為には』

 とても奇妙な、声。
 そこに含まれる……不思議な……

『だけど……の為には』

 ふっと、声がかすれた。
 そのまま声も、気配も立ち消えて。


 振り返ることはしなかった。
 振り返ったらそのまま動けなくなりそうだった。

 莫迦……みたい。否。
 相羽さんなら何ていうかな、と、考えて。

 おかしくておかしくて……笑うどころじゃないのにおかしくて。
 せい、と、喉が鳴る。その音と一緒に、身体を起こした。


「……ぜったいに」
 あのひとが死ぬことだけは。

 許さない。


時系列
------
 2006年8月

解説
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 夢の中の誰か、真帆との取引に失敗す。
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てなわけで。
ではでは。


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