[KATARIBE 30187] [OM04N] 小説『笛の音を愛づ〜その二』

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Date: Thu, 21 Sep 2006 00:56:56 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30187] [OM04N] 小説『笛の音を愛づ〜その二』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
[KATARIBE 30184] [OM04N] 小説『笛の音を愛づ』の続き。
短いのは、息が切れたから。
とりあえず、次で終わります。

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小説『笛の音を愛づ〜その二』
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登場人物
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 秦時貞(はた・ときさだ):http://kataribe.com/OM/04/C/0001/
  鬼に懐疑的な陰陽師。

 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

本編
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 時貞が図書寮の人から相談を受けた日の夜のことである。望次は彼の屋敷の
門の前に立っていた。
 空には半分になった月が浮いている。
「入るぞ」
 望次は門をほんの少し開けて体を滑り込ませた。
 屋敷は相変わらずひっそりと静まりかえっている。人の気配はほとんどしな
い。
 これが他の陰陽師の屋敷であれば、人の代わりに式神が身の回りの世話をし
ているということも考えられるが、時貞はそうではない。
 彼が式神を使わないのか、それとも使えないのかは望次ですら知らない。少
なくとも、彼は自分の目の前で時貞が式神を使っているのを見たことがなかっ
た。
 誰も出てこないが、時貞のいる場所は分かっている。望次はいつものように
庭へと向かった。
「お……」
 屋敷の角を曲がったところで、望次は小さく声を上げた。
 小さいながらも手入れの行き届いた庭が広がっている。そこに小さな青白い
光が二つ、三つと宙に漂っていた。
 縁側に目をやると、時貞が片肘をついてぼんやりと庭を眺めている。望次は
庭を回り込むようにして、彼の側へと近づいた。
「あれは何だ?」
 挨拶も無しに望次が尋ねる。
「ん? 単なる暇つぶしだ」
 時貞はそう答えて、一つ手を叩いた。
 浮かんでいた青白い光がふっと消える。
 月明かりの下、小さな紙片がひらひらと落ちていくのがかろうじて見えた。
「それにしても」
 時貞が望次を見て苦笑を浮かべる。
「なんだ?」
 望次が眉をひそめた。
「いや、ひょっとしたら間の悪いときに来たことになる、と思ってな」
「んん? どういうことだ?」
 彼が首を傾げると同時に、誰かが屋敷の門を叩く音が聞こえた。望次は顔を
音のする方に向けた。
「何だ、人が来る約束があったのか」
「約束というわけではないがな」
 そう言いつつ時貞が立ち上がる。
「では、俺は帰るか」
 振り返った望次を「まあ待て」と時貞が制止する。
「なんだ?」
「事によってはお主に手を借りねばならぬかもしれない」
 不思議そうな顔を浮かべる望次をその場に残して、時貞は入り口へと向かっ
た。
 向かっている間も門を叩く音はひっきりなしに続いている。よほど急いてい
るらしいと、時貞は一瞬苦笑いを浮かべた。
 そして、笑みを引っ込めると門を開けた。
「ああ、時貞殿」
 立っているのは昼間に相談を持ちかけてきた男。駆けてきたのか肩で息をし
ている。
「その様子だと、うまくいかなかったという感じですね」
「ああ。あの方が屋敷から出るところで、止めてみたんだがな事も無げに弾き
飛ばされてしまった」
「弾き飛ばされた? そんなに力が強い方でしたか」
「いや、力で飛ばされたという感じではなかったな。何と言えばいいの
か……」
 男はしばらく腕組みをして考え込んでいたが、すぐに顔を上げた。
「……って、そんな事を考えている場合ではない。とにかく、力ずくでも止め
られないのであれば、俺にはもうどうすることもできん」
 男は時貞に向かって頭を下げた。
「頼む。あの方を救ってくれぬか」
 時貞は聞こえないほどの小さい溜め息をついた。
「分かりました」
 その言葉に男はがばっと頭を上げる。
「連れがいても構いませんね?」
 あ、ああと男が頷くのを見て、時貞は振り向いた。
「ということだ。ついてきてくれるよな?」
 庭の方から望次が難しい顔をして姿を見せる。
「そういうことだったのか」
 腕組みをして溜め息混じりに彼は言った。
 その様子に時貞はくっくっと笑う。
「話は見えませぬが、事は急ぐのでしょう?」
 望次は男に向かって言った。
「うむ」
 男が答える。
「さて、行きましょうか」
 時貞の言葉に二人は頷いた。

解説
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……結局いつもの二人に。

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