[KATARIBE 30181] [HA06P]エピソード『狐の婿入り(疾走編)』

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Date: Mon, 18 Sep 2006 22:39:33 +0900
From: Aoi Hajime <gandalf@petmail.net>
Subject: [KATARIBE 30181] [HA06P]エピソード『狐の婿入り(疾走編)』
To: kataribe-ml@trpg.net
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こんにちは葵でっす、更に続いちゃったりしますが
あるぇー?シリアスっぽくなってる……

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エピソード『狐の婿入り(疾走編)』
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 如月 尊(きさらぎ・みこと):吹利商店街で花屋を営むお嬢さん。見た目
                は17,8だが実は三十路。
                本業は退魔師。
                ただいま年下彼氏(↓)とおつきあい中。
 http://hiki.kataribe.jp/HA06/?KisaragiMikoto

 本宮和久(もとみや・かずひさ):県警好感度No.1を誇る好青年お巡りさん、
                 ただいま年上彼女(↑)とおつきあい中?
 http://hiki.kataribe.jp/HA06/?Motomiyakazuhisa


疾走
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 煌々と輝く満月の下を音も立てず軽やかに白い影が駆け抜けてゆく。
 そんな速度で駆け抜ければ人目に付くはずだが、誰一人気付かない。
 もしその時。
 ――時折たわむ電線や、軽いきしみ音を立てる屋根を注視すればあるいは見
つけられたかもしれない。
 巫女衣装を身に纏い、二尺四寸余の刀を帯びた少女(注:三十路)を。

 SE:ずっだぁん

 あ、屋根飛び損なった。

 尊      :「いったー……あいたた……なんか今、ものすごっっっく
        :不愉快な事聞こえた気がする……」

 屋根を飛び損なって捻った足をさすりさすり再び駆け出す。
 頑張れ、尊、和久君の命運は君の双肩にかかっている。
 (注:正しくは筆者の思惑にかかってます)


一方そのころ
------------

 ――尊が稲荷神社に駆け向かっている頃。
 カメラをもう一方の主人公、和久君の方に切り替えてみましょう。

 和久inずだ袋  :「もがー(放せー!)」

 ハイ、やっぱりまだ袋詰めのままでした。


稲荷神社
--------

 尊       :「っ……っと」

 電柱の上からふわりと着地して目前の鳥居を見上げる。
 昼間は参拝に来るお年寄りや境内で遊ぶ子供などでそれなりに人影もあるの
だが。

 尊       :「……ぱっと見は『ただの』お稲荷さん、か」

 主要幹線からも離れ、周囲の人家も少ない境内はシンと静まりかえり虫の声
一つしない。

 尊       :「静かすぎるのが気に入らない、な」

 無意識に左腰に帯びた漣丸の柄頭を撫でつつゆっくり鳥居を潜る。

 尊       :「!」

 一般人には何も感じられ無いかもしれないが力を持つ者にだけ聞こえる声が
耳に届いた。

 曰く。

           『 カ ・ エ ・ レ 』

 と。

 尊       :「ふ……ん、どーやら掛け合っても素直に返してくれる
         :気は無いみたいね」

 声を聞いても表情一つ変えず。
 誰もいない筈の境内のあちこちから注がれている視線を感じつつ、あくまで
知らん顔で境内を進んでいく。

 尊       :「そっちがその気なら……こっちも久しぶりに本気で行っ
         :ちゃおっかな〜」

 境内の中央でピタリと立ち止まり、にぃっと紅唇を吊り上げ微笑みを浮かべ
る。
 チロリと覗く舌で唇を舐める様は白々と差し込む月光すら色あせる凄艶な微
笑みであった。

 尊       :「……さて『入口』は何処かなっと」

 ゆっくりと辺りを見回すと、拝殿の横、玉垣に立てかけられている古い色褪
せた鳥居が目にとまる。
 どうやら、新しい鳥居を立てた際取り外されたらしいのだが。

 尊       :「なるほどねぇ、上手い隠し方だけど……あたしの目は
         :誤魔化せないわ……よっ!!」

 それは一瞬だった。
 古い鳥居の前に立った尊がなんの予備動作もなくいきなり腰の漣丸を抜き打っ
たのだ。
 風斬りの音すらさせず腰間から迸った銀光が眼前の闇を切り裂いた。
 それは古鳥居の中の何もない空間を薙いだだけ、と見えたのだが、漣丸の薙
いだ所から裂け目が広がり、その裂け目の向こう側に違う景色が見え始めた。

 尊       :「やっぱり、か」

 完全に裂けきった空間の向こうには、見えるはずの無い道が見えていた。
 このとき、古鳥居の反対側から見たら、前に立つ尊と境内の中を空かして見
ることが出来たであろう。
 だが、境内側、尊の眼前には立てかけられている玉垣も向こう側の景色も見
えず、ただ暗い道が続いて見えた。

 尊       :「さぁて、いよいよ本番ね」

 尊は、右手に引っ下げた漣丸を鞘に収め、なんの躊躇いも無くぽっかりと口
を開けた空間に飛び込んでいった。


無限回廊
--------

 ひたひたひたひた、と、湿った土を踏みしめる自分の草履の音だけが先ほど
から耳に届く。
 身体の疲労感覚では、かれこれ三十分近く走っている気がするのだが。
 ふと、尊の足がピタリと止まった。
 唐突に今入ってきた道を含め、八方向に分岐する分かれ道に出た。

 尊       :「分かれ道か」

 そう独りごちてぐるりと辺りを見回す。
 どの方向に伸びる道も、毒々しいまでの深紅に塗り上げられた無数の鳥居が
連なり回廊を形作っている。
 どの道も鳥居、鳥居、鳥居、鳥居……。
 どの入口もぼんやりとした明かりに透かしてみれば前にも後ろにも同じ道が
続いているのが見える。
 正確に数えた訳では無いが、十本毎にしつらえられた雪洞に照らされたそこ
は、まさに鳥居で作られた無限回廊であった。

 尊       :「まったく、どんだけ走ればい……っ!?」

 ふと取り出した懐中時計の時刻は回廊に飛び込んでからまだ数分しか経って
いない。

 尊       :「……やってくれるわね、侵入者避けの罠(トラップ)
         :か、道は八方……」

 そこまで呟いて、はた、と気付く。

 尊       :「八方向……遁甲八門陣!」

 きりっ、と奥歯を噛みしめ厳しい表情で進路を睨む。

 尊       :「あちゃー……迂闊だったわねえ(苦笑)こりゃ」

 ――奇門遁甲八門陣。
 古来中国より伝わる方位術であり、施術者が一定の法則に基づき仕掛けた陣
にかかれば、外部から見ればなんのことも無い器物が陣中の人間には無限回廊
に見えたりする。
 一旦陣に入ったが最後、開、休、生、傷、杜、景、死、驚の八門の内、開、
休、生の吉門を抜けなければ生きて抜けることは不可能。

 尊       :「……確率八分の三、か、あんまり分の良い賭けじゃ無
         :いわね」

 言いながら、懐から札を取り出す。四角い和紙を二つ折りにして斬り込みを
入れた、いわゆる「形代」と呼ばれる呪符だ。

 尊       :「在庫は四枚、門は八つ、出口は三つ、ま、どれか一つ
         :位は当たるでしょ」

 さっと、四枚の形代を右手に広げ、漣丸の柄から抜いた小柄で人差し指をスッ
と撫でる。

 尊       :「つぅ……」

 小柄の切っ先が指先を撫でた瞬間、走る痛みに柳眉が寄せられる。
 ぷくり、と指先に盛り上がった真紅の玉をちょん、ちょん、とそれぞれの形
代に押し当て染み込ませてゆく。

 尊       :「いたた……痛いからコレ苦手なのよねえ……って言っ
         :てる場合じゃないか」

 形代に染み込ませた後もジワジワと血の滲む指先をチロリと舐め、改めて形
代を持ち直す。

 尊       :「オンバザラ アラタンノウ オンタラク ソワカっ」

 尊の手から放たれた札が四つの門の前に打ち付けられる。
 と。
 地面に打ち付けられた札が燐光を発し、みるみる膨れあがり人の姿となった。
 全身から燐光を発しつつ、顔に掛かる髪を物憂げに書き上げるその姿はまさ
に今の尊の姿そのものであった。
 ただし。
 一糸まとわぬ姿である事を除けば。

 尊       :「はいはい、さっさっと行った行った、急いで吉門を探
         :しなさい……っとに、和久君には見せられない術よねぇ
         :(苦笑)」

 四人の『影』は『本物の尊』の声にゆっくり頷くと夢見るような足取りでそ
れぞれの門に入っていった。
 数瞬後。

 尊       :「っ!?」

 ビクリ、ビクリ、ビクリ、と、立て続けに三回、尊の身体に衝撃が走った。

 尊       :「あいたた……三つは喰われた、か。 影とはいえ……
         :痛い事は痛い……わね」

 痛みに膝を着き、息を荒げつつ最後の一つの門を睨む。
 残るは一つ。
 が、暫く待っても何も怒る気配は無かった。

 尊       :「開、休、生、どれだかわかんないけど、とりあえず行
         :ってみますか!」

 尊は、意を決すると左手で漣丸の鯉口を斬り、影の入っていった門に飛び込
んでいった。

時系列
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 2006年8月31日

解説
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 おかしい、コメディ路線の筈なんだが、なんだこのシリアスっぽい展開はっw

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Aoi Hajime  gandalf@petmail.net

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