[KATARIBE 30179] [HA06N] 小説『各陣営のつぶやき 〜青梅家』

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Date: Mon, 18 Sep 2006 17:50:17 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30179] [HA06N] 小説『各陣営のつぶやき 〜青梅家』
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2006年09月18日:17時50分17秒
Sub:[HA06N]小説『各陣営のつぶやき 〜青梅家』:
From:久志


 久志です。

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小説『各陣営のつぶやき 〜青梅家』
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登場キャラクター
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 根津忠之(ねづ・ただゆき)
     :探偵さん。依頼人より調査をしている様子。蝙蝠状態
 青梅靖人(おうめ・やすひと)
     :青梅家当主。本宮・戸萌のっとりを目論む。
 山岸藤吾(やまぎし・とうご)
     :本宮家遠縁、山岸家の老人。

黒幕会議
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 居心地の悪い部屋だった。
 しかし別段、薄汚れているわけでも不衛生なわけでもない。
 広々とした部屋の内装は新築とも見紛うばかりに奇麗に整えられ、置かれた
調度品はすべてひと目見れば上質なものとわかる、それもごてごてした印象で
はなくバランスのとれた配置と調和を考えたものであり、そのまま物件紹介の
モデルルームにつかえそうなほどだった。
 根津は居心地の悪さを押し隠すように、手にしたカップを傾けた。挽き立て
の深い香りと苦味のある味わいが口の中に広がる。

「調査状況のほうはどうだ、根津」
「はい、先ほどお渡しした資料どおりです」
 向かいのソファに座った男、青梅靖人が頷きながら厚手の封筒の中身を確か
める。本宮尚久に対する調査資料。それぞれ家族の個人情報から事務所の経営
状況、交友関係に至までの詳細内容が記されている。
「あの男の調査はやはり難航しているか」
「……はい、なかなか隙がなく、申しわけありません」
「そうか」
 小さな舌打ちの音。忌々しげに資料をテーブルに置いて腕を組む。
「忌々しい男め」
 青梅家当主、青梅靖人。根津に本宮尚久の調査を依頼した顧客であり、本宮
本家のっとりを影で目論む張本人でもある。青梅姓を名乗っているが、本来は
先々代の本宮当主の末子であり、妾の息子という立場ゆえに追い出されるよう
に青梅に養子に出されたという過去を持つ男だ。まだ四十半ばという年頃なが
ら年季を摘んだ古狸のようなふてぶてしさと、目の奥に溢れるギラギラとした
野心が垣間見える、隙あらば獲って喰わんという緊張感を感じる。
「相変わらず、人を食った男だ」
 歯を鳴らして眉をしかめる青梅に相槌を打つように、脇のソファに座った白
髪の老人が苦々しげにつぶやく。
 山岸藤吾。本宮家の遠縁に当たる山岸家の筆頭でもある老人。
 青梅家、山岸家。いずれも本宮家と繋がりがあるものの、本宮本家、戸萌家
と比べると数段格が劣るのは否めない。
 その青梅、山岸共に目を顰めて睨む男。
 テーブルの調査資料に添付された写真。
 清潔感のある黒々とした髪を丁寧に整え、右に寄せられた前髪の下から覗く
目は意志の強さと溢れんばかりの生命力を感じる。目元や口元に歳相応の皺が
見られるものの、実年齢から考えると随分若々しい。
 本宮尚久。
 本宮本家長男という申し分ない生まれでありながら、全てを捨てた男。
 家柄にも才能にも人望にも何もかもに恵まれ、親族問わず周り中から必要と
されながらも、自らの恋路の為に全てを捨て、しかし出奔した後でさえも頼ら
れる存在であるという。

 本宮本家に生まれながら、本宮男子の名である久の字も許されず追い出され
るように養子に出された青梅靖人。本宮縁者として名を連ねていながら、未だ
に本家を出奔した尚久に信頼の劣る山岸。
 彼らが本宮尚久に対して抱いている思いの深さを言葉の端からひしひしと感
じる。

「引き続き、調査は続行いたします。必ずご期待に沿える結果を得られるよう
尽力します」
「うむ、徹底的に調べ上げろ」
「はい」
「それに奴の鬼子どもの動向も探っておいたほうがいい」
 苦々しげな山岸老人の言葉。
「はい、現在小池国生との関連を中心に洗っております」
「ふん、葬儀屋風情がでしゃばりよる」

 震えないよう意識を集中させながら、手したカップをそっとテーブルに置く。
哂う男二人を眺めながら、根津は手をもみ合わせて手の平に滲んだ汗を拭う。
その緊張感は、この場の男たちに対する嫌悪感ではなく。
 あの男――本宮尚久に対する恐怖だった。
 逆に、人間らしい嫉妬から企みをめぐらせている青梅と山岸老のほうがまだ
理解の範疇内にあるといってもよかった。

『――逆鱗――と』
 顎の下をとん、叩く手。

 一瞬根津は身体を振るわせた。
「どうした、根津?」
「いえ、何でもありません」
「まあいい、調査は続行しろ。奴の弱味を押さえるんだ」
「かしこまりました」
 弱味は既に理解している。ただ、それは命取り以外の何者でもなく。

 先ほどからずっと感じている居心地の悪さの原因。
 この部屋でなく自分自身の後ろめたさであることに根津はまだ気づかない。

時系列 
------ 
 2006年02月初旬。
解説 
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 探偵さん、黒幕会議に参戦。黒の系譜に比べると薄いそうです。
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以上。



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