[KATARIBE 30178] [HA06N] 小説『各陣営のつぶやき 〜戸萌家』

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Date: Mon, 18 Sep 2006 14:58:15 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30178] [HA06N] 小説『各陣営のつぶやき 〜戸萌家』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年09月18日:14時58分14秒
Sub:[HA06N]小説『各陣営のつぶやき 〜戸萌家』:
From:久志


 久志です。
なんとかお家騒動をひと段落させて窓香のほうに移りたいところ。

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小説『各陣営のつぶやき 〜戸萌家』
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登場キャラクター
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 戸萌克五郎(ともえ・かつごろう)
     :葛海・葛樹らのお父さん。不動産・建設会社社長だったりする。
 高山くん
     :克五郎の腹心、第一秘書っぽい人。

移動中
------

 信号が黄色から赤に変わる。
 ブレーキを踏み、緩やかに止まった車の中。運転席にに座った高山正勝はミ
ラーに目をやった。ゆったりと広い後部座席に少し恰幅のいい体躯をシートに
沈ませた中年の男。重量感のある体、しかしそれは決してたるんだ肉による重
みではなく、がっしりとした骨太さを思わせる安定感を感じる。
「高山クン、どうだね?」
 どっしりした外見とは少しそぐわない語尾の柔らかい声が高山の耳に響く。
「はい、この調子ならば到着まであと三十分程ですね。道の状況、現在位置か
ら計算しても充分間に合うペースです」
「そうか、この後信金さんとの予定もあるから余裕をもっていかないとね」
「はっ、かしこまりました。既に先発で橋本課長と山本主任が資料を交えた説
明をおこなっております」
「よし、後はボクがまとめ上げるだけだね。そういえば今度の新築抽選会の応
募状況はどうかな」 
「はい、広告掲載即日から問い合わせが殺到してます。抽選会も受付開始二日
目で第一次、第二次抽選会共に予約は全て埋まっております」
「よし」
 メガネの淵を軽く直して満足げに頷く顔。少し腹の出たどっしりとした体に
少し白髪の混じった髪をオールバックにまとめ、銀縁フレームのメガネをかけ
た男、戸萌克五郎。吹利の地で古くから地元密着型不動産会社として経営して
いる戸萌不動産社長にして同系列関連会社の戸萌建設の社長も勤めている。
 戸萌家とは吹利の名家である本宮家の筆頭分家に当たり、分家といえどその
格式は本家と同格に扱われている。克五郎は戸萌の当主加津子の長男に当たり、
いずれは関連企業経営だけでなく、その財と実権も握ることになる。その勢い
は、後継の出奔により当主不在状態にあたる本宮本家をも凌ぎ、もっとも成長
性が望めるといってもいい。
「……社長、まだ少し時間に余裕があります」
「そうかい」
 ハンドルを握った片手を離して高山が口を開く。その手は注意深く運転席と
助手席の間にあるドリンクケースに伸び、その蓋を開ける。
「少し体をお安めになってはいかがでしょう? 到着しましたらお起こしいた
しますので」
 その中に隠されていたと思われる小さなマイク付きヘッドホンを取り出し、
片手で器用に耳に装着し、マイクを口元に近づける。
「そうしようかな、じゃあ頼むよ高山クン」
 バックミラーの向こう、同じくイヤホンマイクをつける克五郎の姿が見える。
「はい、では音楽などかけましょう」
 カーオーディオのスイッチをが入り、ジャズピアノの曲が広い車内に響く。

『社長、聞こえますか?』
『聞こえているよ』
 ジャズピアノの音に隠れるように、骨伝導ヘッドホンを通じて聞こえる声。
『時間はあと三十分ほど余裕があります』
『わかった』
 注意深く周囲をうかがいながら、車を右折させエンジンをかけたまま路肩に
止める。
『青梅はどうだ』
『はい、この所本宮本家や尚久様の周辺を中心に情報を集めている様子です。
恐らくはこの車にも』
『小物が』
 普段の大人しい克五郎の物腰からかけ離れた、吐き捨てるような言葉に高山
は一瞬身をすくめた。
『このようなやり方で戸萌がつかめるとでも思っているのでしょうかね』
『無駄さ、小物につく者は所詮小物以下でしかない』
 鷹揚に首を振ってシートにもたれかかる。
『……戸萌の、本宮の人間であるということに対する期待とは重いものだよ』
『はい』
『先達が長年積上げ、得てきた信頼の賜物だ、それ故、本宮の当主であるとい
うことは、即ち名君でなければならない』
 胸ポケットから煙草を取り出し、一本火をつける。
『こそこそ裏で嗅ぎまわるような輩が王道を踏めるものか』
『社長、どうなさいますか?』
 吐き出す白い煙。
『泳がせておけ、こちらも防衛線を張る。せいぜい夢を見ておくがいいさ』
『はっ、かしこまりました』
 ふと、うって変わって克五郎の口調が変わる。
『そういえば、この間の葛樹のフェンシング部の練習試合のビデオちゃんと撮
れてるよねっ?』
 一瞬にして親ばか全開口調に思わずこけそうになった。
『……はい、デジタル編集して保存用、観賞用と両方録画してございます』
『うんうん、よかった。後でじっくり見るとしよう』
 止めた車の中でハンドルを握ったまま、克五郎の公私の落差の激しさに思わ
ず溜息がでる高山だった。

時系列 
------ 
 2006年01月下旬。
解説 
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 戸萌家・克五郎の思惑。やっぱりシメは親ばかで落とす。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。



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