[KATARIBE 30168] [HA06N] 『 BFC 鐘継視点 (仮 ) 』

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Date: Fri, 15 Sep 2006 02:03:41 +0900 (JST)
From: Saw <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30168] [HA06N] 『 BFC 鐘継視点 (仮 ) 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年09月15日:02時03分41秒
Sub:[HA06N]『BFC鐘継視点(仮)』:
From:Saw


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小説:『BFC鐘継視点(仮)』
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登場人物
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比企鐘継(ひき・かねつぐ):探偵。
糸屋のアリス(いとやのありす):人形。
杣木悠里(そまき・ゆうり):バイト。
帽子屋(ぼうしや):ブローカー。
比企玉緒(ひき・たまお):魔女。

時系列と舞台
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 春。BFC前。 

本文
----
1
--
 聖書協会と書かれたご立派な表札の下に引っかけてあるプラスチックのプレ
ートを花柄のハンカチで軽く拭き取る。黒地に金で入れられた「比企探偵事務
所」の文字は100円ショップを回れば作れそうな位に安っぽかったがまあしゃ
ーない。
 所々サビの入った伸縮式の門扉を押しのけ押しのけ、聖書協会事務所とかい
う胡散臭い煉瓦造りのビルの脇に入っていく。後から取って付けたような鉄の
螺旋階段を登って二階へ。ハッキリ言って下が胡散臭すぎて上の探偵事務所ま
で普通の客が来ることは滅多にない。その分家賃が馬鹿げた安さなんで差し引
きゼロってことになってる。思考停止した現状肯定がうちの基本的営業方針。
 事務所の鉄扉のノブに手をかけたところで一息。階段登ったくらいでしんど
くなるほどなまっちゃいないがこの先の展開を考えると気が重かった。空を見
上げる。徐々に春めいてきた日差しが心地いい。ジャケットからラッキースト
ライクを一本抜き取り奥歯で噛みつぶすようにくわえて着火。
 紫煙を吐き出しながら勢いよく扉に手をかける。
「おう、ただいま」と、オレ。
 来客用のソファに腰掛けた杣木悠里がいじっていたと思しき携帯を腿と腿の
間に隠して立ち上がる。若干噛みつつお帰りなさいませという返事。「ませ」
ってなんやねん、メイド喫茶か。別に仕事なんてないんだからサボってたこと
気に病む事なんてないのにと思う。我が事務所のマスコット二号にして(一号
はオレ)、助手兼事務員のユーリちゃん。その正体は天然物の女子高生だって
んだから我ながら良く捕まえてきた。グッジョブオレ。仕事にはまださっぱり
使えないが探偵事務所に女子高生がいるって言うのは大きなアドバンテージだ。
主にモチベーションの面で。
 その女子高生がおそるおそる口を開く。オーケイ、言いたいことはわかって
る。
「あの所長、ちょっといいですか? 先月のバイト代なんですけど」
「適わんわ! あの腐れ親父。娘が自分で帰ってきたっつって日当ケチりよっ
た!」
「え、それって今週かかりっきりだった奴ですよね? え? じゃあ今週の収
入って?」
「いや、家出中の娘さんの痴態をちーとばかし脚色して漏らしたら二割増しで
払ってくれたわ。やっぱ最後に物言うのは地道に足で稼いだ情報と営業努力や
ね」
「そですか。そんならいいんですけど。じゃ、そのお金でバイト代──」

 オレは大袈裟にため息をついてみせる。十も年上の男の態度の急変に動揺を
見せるユーリ。その反応は新鮮で可愛い。
 和んだところでまずは現状整理。電気ガス水道代のツケに交際費その他諸々
でほとんど吹っ飛んで人件費は後回しってのは経営者としてあまり自慢出来る
状態じゃない。そしてその後回しで払おうと思ってた先月分の給料を昔付き
合ってた女に借金の返済で踏んだくられて来たってのはもっと自慢にならない。
大体本当に金なんて借りたのか? そこからして怪しい気もしてきたが取られ
ちまったモンはない。
「あの、所長?」
「あー、腹減ったな、なんか食うか」
「……」
 だからそんな訝しむような目でこっち見るなて。高速で今月を切り抜ける資
産運用法を開発にかかる。競馬で持ち金を10倍にすればオッケーと弾き出した
自分の脳髄にさっさと見切りをつけ、今突然錬金術使えるようになんねーかな
ーと言う台詞が口をつく。虫を見るような目で見られた。
「ちょっと待ってな」
 胸ポケットから悲しいくらいうすい財布を抜き出して5000円札を抜き出して
テーブルにそっと差し出す。
「……なんですこれ?」
「そらお前、今週分のバイト代や」
「すくなかないですか? え、ていうか今週? 雇用契約変わってません? 
そもそも先月のは?」
「先月のなんてもうとっくに振り込んだで。悠里が嫁に行く時のための隠し口
座に」
「何そんなの勝手に作ってるんですか! ていうか作ってもいないでしょ、嘘
言うな!」
「阿呆! 作ってるモン。ホントにあるモン、吹利くまさん銀行にあるモン!
 見てへんのにないとか言うなっちゅーねん! ……まあ、アレや、そっちの
口座の金は今後必要な時に引き出したるから今は今週分で我慢することをオス
スメします」
「百歩譲って今週分だとしても足りない件」
「正直コレで精一杯。よく頑張ったオレ。自分を誉めてあげたい気分ですって、
ああ! 勝手に人の財布覗くな! 男子の財布には夢と打算と安全弁がつまっ
てんねんで!」
「うるさいなー。なんだ、結構あるじゃないですか。あと壱万円もらっときま
すよ」
「それ今月の飯代やねんて!」
「パンの耳でも囓ってればいいでしょ」
「ウワーイ、助手の子が荒んでいくヨ?」
「誰のせいですか。大体所長は無駄遣いばっかりしてんだから」
 よし、とりあえず先月分を有耶無耶にし、尚かつ今後の給料の支払いを流動
的にする既成事実を作ることに成功。とはいえ愛すべきバイトにこんな事を続
けるのは流石に気が滅入るので久々に大きな仕事に手をつける決意を固めてみ
る。都合良くそんな大物が来れば。

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