[KATARIBE 30166] [HA06N] 小説『雨センサー 2』

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Date: Fri, 15 Sep 2006 00:24:26 +0900
From: "Toyolina and or Toyolili" <toyolina@gmail.com>
Subject: [KATARIBE 30166] [HA06N] 小説『雨センサー 2』
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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 足痛い話は雨センサーで。修正オネガイシマス>久志さん
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[HA06N] 小説『雨センサー 2』
登場人物
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 品咲渚 http://kataribe.com/HA/06/C/0636/
 蒼雅紫 http://kataribe.com/HA/06/C/0573/


 その日は、昼間から雨がだらだらと降り続けていた。
 窓の外は灰色で、空も灰色。部屋も灰色。
 マンションの高層階は、風の音は時折聞こえてくるけれど、雨音はあまり入っ
てはきていなかった。それでも、左膝の痛みが、雨が降っていることを、あり
がたいことに教えてくれている。
「……あーもう……」
 独り言すら億劫になって、渚は布団の中に再び潜る。膝を抱えると、痛みが
薄らぐかもしれない。痛みと共生するようになって、そう思っていた頃もあっ
たけれど、それが無駄だとわかってからは、ただ雨がやむのを待つだけになっ
ていた。

 膝の痛みが少し和らいできた。
 雨雲は通り去ったらしく、カーテンの隙間から、ぽたぽたと雨樋から粒が漏
れ落ちている。心なしか、空も先ほどよりは明るくなっているから、きっと月
もどうにか顔を出したのだろう。
 ベッドから這い出して、部屋の電気をつける。充電しっぱなしの携帯のラン
プは、とうに消えていて、着信もなかったようだった。エアコンをつけ忘れて
いたせいか、部屋は少し蒸し暑く、背中にTシャツが張り付いている。とりあ
えず、お風呂でも入ってから、コンビニでも行こう。

 特に食べたいものがあるわけでもなく、空腹でもなかったから、野菜ジュー
スとヨーグルトを買った。袋を原付の前かごに入れて、鍵を探していると。
 目の前で誰か転んだ。
 ずべし、とそれは誰が聞いても転んだな、とわかる音をたてて、一瞬遅れて、
ばしゃん、と水が撥ねる音。見覚えのある、制服姿の女の子が、うつぶせに倒
れていた。

 あまりの見事な転び方をしたせいだろうか、周りの誰も声をかけられずにい
た。肘と膝をすりむいていたが、顔はどうにか大丈夫だったようだ。しかし、
制服は泥水ですっかり灰色と茶色をぶちまけたような状態になっている。鼻声
で、目からは大粒の涙がこぼれそうになっていた。そして、肩から下げていた
大振りなトートバッグも、中身を半分まき散らかして、水に浸かっている。
「い、痛いです……」
「……ゆかりん……」
「……ああっ、渚さまっ……」
 水たまりにへたり込んだまま、ぱあっと笑って顔を上げる。
「なんでいきなりコケとんの、大丈夫? 立てる?」
 慌てて駆け寄ろうとしたけれど、左足が気になって、早足で近寄り紫を立た
せる。見事に全身泥水だらけで、ぽたぽたとあちこちから滴り落ちている。
「服は手遅れやなあ……」
「ああっ……ど、どうしましょう……」

 スカートの裾をつまんで途方に暮れている紫。かなり際どいところまで持ち
上げているのは、さすがに往来ではいろいろとよろしくない。それに泥水とは
いえ、夏服のブラウスを透かせるには十分すぎる。差し出したハンカチは、顔
の水気を拭き取るのが精一杯だった。
「と、とりあえず、ウチおいでよ。手当せなあかんし、服そのままで家帰った
ら大変やで」
「は、はい……」
「後ろ乗って。服も貸したげるから、それ着て帰った方がええって。乗り心地
悪いけど、ちょっとやしガマンしてな?」
 原付にまたがって、渚はセルスイッチを押しながら促した。
 原付のセルは少しくすぶっていたが、すぐにエンジンはポコポコと軽い排気
を吐き出し始める。
「は、はい、そうおっしゃられるのでしたら、お言葉に甘えたいと思います」
 深々と頭をさげる。腰まである長い髪の先が、また水たまりに触れる。それ
を目の当たりにして、早く水たまりから引き離す必要があると思った。
「う、うん、ええから、後ろ乗って? お風呂も入らなあかんな、ますます……」
 おっかなびっくり、原付の荷台に腰を下ろして、紫は渚にしっかりと掴まっ
た。そう、しっかりと。ぎゅっと。密着した。ずぶ濡れのままで。
 一瞬、どうしようか、と思ったけれど、声を出す前に、自然と笑ってしまっ
ていた。

「あははははは……ゆかりん、あかんわ、最高……あははははは」
「え、え? な、何かおかしかったでしょうか……?」
「ええねんって。うちも、お風呂入らなあかんなーって、思っただけや……っ、
あーははははははは」」
「……はい、お背中、お流ししますっ。ご一緒しましょう!」
 理解しないまま、嬉しそうに答える紫。その言葉を聞いて、渚はさらに嬉し
くも、おかしくもなって、十秒くらい笑い続けた。思わず足をばたばたさせて
しまったが、膝はもう痛くなかった。
「あー……ほんと、ゆかりん最高……大好きやわ……あはははは」
「はい、私も渚さまが大好きです!」
 原付を発進させても、しばらく渚は笑っていた。足をばたばたさせて。
 二人乗りで、蛇行しながら、違法運転の原付は帰途についたのだった。

時系列と舞台
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秋雨の季節に、家の近くで

解説
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和みました
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Toyolina
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