[KATARIBE 30156] [HA06N] 小説『裏部室でお茶を』

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Date: Wed, 13 Sep 2006 00:01:09 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30156] [HA06N] 小説『裏部室でお茶を』
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ふきらです。
裏部シリーズ。
台詞の修正とかありましたらよろしくおねがいします。

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小説『裏部室でお茶を』
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登場人物
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 関口聡(せきぐち・さとし):http://kataribe.com/HA/06/C/0533/ 
  片目は意思と感情を色として見、片耳は異界の音を聞く。 

 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/ 
  高校生で歌よみ。詩歌を読むと、怪異がおこる。 

 品咲 渚(しなざき・みぎわ):http://kataribe.com/HA/06/C/0636/
  高校三年生。創作部書記で突っ込み専科の関西人。 

本編
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 いつもの裏部室にいつもの二人。
 文化祭で出す歌集のタイトルも決まり、聡は様々な色の和紙を前にして表紙
のデザインをどうしようとかと試行錯誤していた。
 その斜め前には夕樹が机に向かっている。短歌を書き留めているノートを開
いて、どういう順番で載せるかを紙に書き出していた。
「……なんかさ」
 作業していた手を止めて、聡が顔を上げた。
「ん?」
「ここに来ると、緑茶と和菓子を食べたくなるんだよなあ」
 やけにしみじみと言う。
 夕樹はそれを聞いて微笑んだ。
「……それは何となく分かる」
 そして、辺りを見回す。
「和菓子はともかくとして、急須とかは置いとけるんじゃないかな」
「そうだね。あと、湯呑みとお茶っ葉くらいはいいかな。あと、おかきのかん
かんとか」
 二人がそうして話しているときである。
「お茶請けはもっと甘いのがイイナ」
 ロッカーが開いて、そこからにょきっと渚が頭を覗かせた。
「うわ」
 夕樹が驚いて声を上げる。
 聡がロッカーの方に振り向いた。
「…………だから先輩、そこでストップせずに、最後まで入ってください」
「そういってくれるの待ってた……」
 よく見ると、渚の体が震えている。どうも向こうではつま先立ちで踏ん張っ
ているらしい。
「まあ、甘いって言ったら……あれだ、あれ」
 ええと、と名前が思い出せない様子で空中に人差し指で円を描く聡。
「甘納豆?」
 夕樹が適当に言ってみる。
「いや、干菓子で……お盆なんかに売ってるあの甘いの」
「ああ」
 聡が何のことを言っているのかは夕樹にも分かったが、その名前は彼も思い
出せない。
「ちょっとこの姿勢は無理が」
 相変わらずロッカーでぷるぷると震えている渚。
「そういうのでいいですか、先輩?」
 聡はロッカーに近寄ると、彼女の手を掴んでよいしょーと引っ張った。
「うん、わがまま言うてゴメンネ」
「いえ、面白いから僕はいいです」
 渚を引っ張り出した聡は彼女に椅子を勧める。
「まあ、今日のところは、ここらで」
 聡は鞄からおかきの袋を引っ張り出すと、口を開けて二人に差しだした。中
に入っているのは海苔巻きのおかき。
「これはこれはご丁寧に」
 渚はぺこりと頭を下げて、袋からおかきを一つ取り出す。
「勉学のお供にどうぞ」
「……いつも持ってるの?」
 夕樹もおかきを取り出しながら、聡に尋ねた。
「いや、昨日ねーさんに貰った」
 そういえば、とおかきをポリポリとかじりながら渚が言う。
「うちに、なんかノダテ? するセットあるんやけど」
「……それはまた典雅な」
「ママがこれでおしとやかになりなさい言うて買ってくれたんやけど、持って
こよか?」
「ええと、僕は嬉しいですけど……品咲先輩、お茶立てられるんですか?」
 聡が少し不安げな表情を浮かべる。
「そう見える?」
 いじわるげな笑みを浮かべて渚が尋ねる。
「……」
「うち的には夕樹くんに期待してるんやけどね」
 渚が夕樹の方を向く。
 聡も「ああ!」と納得したように声を上げて、彼の方を向いた。
「は、はい?」
 二人の視線が自分の方に向いて、夕樹はうろたえた。
「なにがどうなったら僕が期待されて、それで納得されるんです?」
「……お茶、好きそうだし、和菓子も好きそうだし」
 と、聡が答え、
「ふんいき……」
 と、渚が答える。
「いや、お茶も和菓子も好きだけど、それとできるのは別だし。それに雰囲気
って……」
 夕樹は呆れたような表情を浮かべる。
「なんか、好きなら自分で作ろうって、茶せん持ってちゃっちゃとお茶を立て
てそうな雰囲気はあるよね」
 聡の言葉にうんうんと渚が頷いた。
「ちゃんと、『3日で覚えるかんたん茶道』っていう本もあるし、あれ、みん
な出来るようになりそー?」
 あれ、と首を傾げる。
「もう、いっそみんな自己流でするのでいいんじゃない?」
 そう言って、夕樹がお茶を点てる真似をした。
「こう、適当に」
「…………まあ、茶せんでちゃんとお茶を溶かせば、美味しい抹茶になりそう
だし」
「うん、なら持ってくるねぃ」
「じゃ、僕、干菓子持ってきます。たしかうちにあったから」
 聡と渚がとんとんと話を進める。
「じゃあ…… って、持ってくる物なんかないや」
 夕樹の呟きに聡が反応した。
「……あれだ、夕樹君は、掛け軸!」
 その言葉に夕樹は再び呆れたような表情を浮かべる。
「どう考えたら、そんな展開に?」
「……ふんいき?」
 渚がぼそりと先ほどと同じ言葉を呟く。
「いや、以前、親戚のねーさんに『千利休 本覺坊遺文』って映画を見せても
らったんだけど」
 ビデオでだけどね、と聡は付け加えてから続けた。
「お茶の場には、掛け軸って必要みたいだよ」
 だからといって、なぜ自分にふるのか、と夕樹は問いたかったのだが諦めて
溜め息をついた。
「……まあ、無い訳じゃないけど」
「さっすが高瀬君だ」
 嬉しそうに聡がパチパチと手を叩く。
「っていうか、それより品咲先輩が僕のことを何だと思っているのかが気にな
ります」
 夕樹は渚の方を向いた。
「何って言われても……ウーン」
 急に尋ねられて難しい表情を浮かべる渚。
「でも、わかるなあ、品咲先輩の『ふんいき』っての」
 うまく言葉にできずに困っている彼女に聡が助け船を出した。
「便利ワードやけど、そうとしか言いようがないしなー……」
「趣味が歌詠みで、本に熱中して、無口で、真面目で」
 聡が微笑みを浮かべて言う。
「日本の古典に詳しそうに見えるから、割と自然にそう連想する…… っての
は僕の印象だけど」
「むう…… 悔しいけど反論できない」
 夕樹が肩を落とし、聡が微笑んだ。
「う、うん、歌よむし、本スキやし、うん、そんなかんじ!」
 渚は聡の言葉を繰り返そうとしたが、ちゃんと言えずに無理矢理まとめた。
 そんなわけで裏部室に野点の道具とお茶缶と干菓子が揃うことになったので
ある。

時系列と舞台
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2006年8月末。裏部室にて。

解説
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ますます裏部室が枯れていきます。

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