[KATARIBE 30153] [HA06N] 小説『残り香』

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Date: Tue, 12 Sep 2006 01:14:22 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30153] [HA06N] 小説『残り香』
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ふきらです。
裏部シリーズ。文化祭の後日談。
とりあえず、なので書き換えるかもしれません。

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小説『残り香』
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登場人物
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 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/ 
  高校生で歌よみ。詩歌を読むと、怪異がおこる。

本編
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 文化祭が終わった次の日。いつも通りの一日が戻ってきたが、まだ何となく
ふわふわとした雰囲気が校舎を包んでいた。特に文化系のクラブは一年で最大
のイベントが終わったという安堵感からか、更に気の抜けたような気配が漂っ
ている。
 創作部も例外ではなく、裏部室では夕樹が一人、椅子に座ってぼんやりとし
ていた。机の上には文化祭で売れ残った歌集が4冊。まさかこんなに売れると
は思ってもいなかった。
「これも関口君のおかげだよね……」
 そう言って一冊を手に取りパラパラと捲る。
 適当なページを開いたとき、不意に部屋が暗くなった。
「へ?」
 真夜中に浮かぶ月。教室にいるはずなのに辺りは砂漠で、月の光のせいか至
る所でキラキラと光っている。
 一体何が起きたのかを理解する前にその情景は消えていった。
 数秒後には何の変わりもないいつもの裏部室。
 夕樹は目を瞬かせた。
「これは……」
 明らかに彼の能力である歌詠みの効果の発現。しかし、短歌の情景を思い浮
かべたわけでもなければ、短歌を口ずさんだわけでもない。そもそも、ある短
歌を明確に脳裏に浮かべてはいない。
「何で?」
 夕樹は眉をひそめて、先ほどまで捲っていた歌集に目を落とす。何気なく開
かれたページに書いてある歌を見て、ほんの少しだけ納得した。

  偽物のダイヤの欠片が埋められた砂漠を月が照らしています

 確かに、先ほど広がった光景はこの歌から読み取れるもの。
「でもなあ……」
 まだ疑問は残る。
 夕樹の能力は「歌を読む」ことによって発現する。だが、先ほどの現象はそ
うではなかった。
「この歌集が原因……?」
 そう呟いて夕樹は歌集のページを繰っていく。
 何枚か捲ったところで、再び辺りが暗くなる。
 今度はどこにもありそうな通り。両側は家の壁がそびえ立っていて、街灯が
ポツンと点っている。
 その下に段ボールがあって、そこから一体の人形が顔を出す。
 そして、それは夕樹の方を向くと口を開いた。
「あのね……」
と、しゃべり始めたところで、元の景色に戻る。この間も数秒。
 夕樹は先ほど開いたページを見た。そこに書いてある歌は

  道端に捨てられている人形が身の上話を語る夜です

「なるほど」
 どうやら歌集の歌がその景色を展開しているようだ、と夕樹は推測する。さ
ながら彼の能力が歌集に残っているかのように。
「……って」
 納得したのも束の間、他の歌集でも同じ現象が起きている可能性があるとい
うことに思い当たり、夕樹は盛大に溜め息をついた。
 椅子に腰掛け、頭を抱える。
「どうしよう……」
 とは言え、もうどうしようもない。
 夕樹はもう一度「偽物の」の歌が載っているページを開いた。
「……あれ?」
 今度は何も起きない。首を傾げつつ「道端に」のページを開くが、同じく何
も起きなかった。
「一回限りなのかな?」
 別の歌集を取って、パラパラと捲る。この歌集では「偽物の」のページを開
いても何も起きなかったが、その代わりに他の歌のところで情景が展開され
た。
「うーん。一回限り、しかも数秒だけ、か……」
 難しい表情を浮かべて、夕樹は天井を仰ぎ見る。
「これくらいだったら誰も気にしない、といいなあ……」
 そう言って夕樹は歌集の表紙を優しく撫でると、机に突っ伏した。

時系列と舞台
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2006年9月。文化祭の次の日。

解説
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ある意味、新しい使い方を発見できたとも取れそうですが本人はそうは思って
ないようで。

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