[KATARIBE 30149] [HA06N] 小説『水の中の鳥の唄・其の七』

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Date: Sun, 10 Sep 2006 23:09:17 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30149] [HA06N] 小説『水の中の鳥の唄・其の七』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年09月10日:23時09分16秒
Sub:[HA06N]小説『水の中の鳥の唄・其の七』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@いきあたりばったり です。
いきあたりばったりな書き方は、うまくいけばたのしーたのしーですが、
上手くいかないとまさに「ばったり(死亡)」となります。
今回はどう考えても後者で(撲殺)

……バカなことゆーてないで、続き流します。

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小説『水の中の鳥の唄・其の七』
=============================
登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。あやかしに好かれる。
 雨竜
     :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く。

本文
---- 

 鯉には歯がある、と、どこかの漫画で読んだ覚えがある。
 だからこの魚に歯があってもおかしくないとは思う。
 でもそれが、こう尖ってるとは思わなかった。

『鳥の唄を聴きたい』
『唄を聴きたい』
『唄を聴きたい』

 すとん、と、懐に入り込んだ鳥を追って、魚達がぶつかってくる。無論目的
は鳥だし、どうも基本としてこの魚達は余計な乱暴をしたがらないらしく、こ
ちらには大した怪我はなかったけど、それにしても何度か、小指の幅ほどずつ
腕や肩を噛み千切られた。

「きゅぅっ!」
 やっぱり腕の中で、雨竜が怒ったように叫ぶ。腕の内側で、何やらとかとか
とぶつかり合う感覚があった。
「……ちょっと、喧嘩してる場合かっ」
「きゅぅぅっ!」

『鳥を出せ』
『鳥を渡せ』
『鳥を出せ』
『鳥を渡せ』

 内側からは、鳥と雨竜の喧嘩、外には魚達。
 ……痛い。

「……ねえ」
 頬をかすりかけた魚を何とか追い払って、鳥に尋ねる。腕やら肩やら、目立
たないところなら何とか隠せても、顔に傷を作ったら、相羽さんから心配され
るのは目に見えてる。
「逃げられ、ないの?」

 背中に、どん、と魚がぶつかる感覚。同時に鋭いものが食い込むような痛み。
 あたしにはそこから逃げる手がない。

(逃げる?)
「あたしは、この魚を追い払う能力なんてないからね?」
(逃げられないのか?)
「さっき試したけど、頭をぶつけた。結界か何か作ってないかな、魚達」
(それでか)
「…………っ」

 首の後ろに、鋭い傷みが走った。
 腕の間から、どこか鳩笛に似た鳥がするりと抜け出すのを、止める気力もな
いまま、あたしは見送った。
 数瞬の時間差をおいて、どよめく様に響く、魚達の声。

『鳥だ』
『鳥だ』
『唄だ』
『声だ』

 それらを薙ぎ払う風羽の音。
 そして高く響く……雄たけびのような鳥の声。
 
 闇の水の特に暗い一角に、亀裂が入ったのが判った。

「……掴まって!」
 伸ばした手に、鳥はひょんと掴まる。そのままあたしは落下した。
 頭のほうに。出来るだけの速さで。

「きゅうっ」
 落下する感覚。頭の先に重力の方向。制御は殆ど無しの、自由落下。
 ……の筈が。
「何、これっ……」
 黒い闇の水が身体を取り巻く。魚達との距離は、近づかない代わりに遠ざか
りもしない。
 背中の傷を、抉るように水が流れる。
 腕の傷から、糸を引くように血が流れるのが目の端に映る。
 流石に……ちょっと痛い。いや、それ以上に。

「逃げられない、じゃないか」
(魚の結界だからだろうか)
 鳥の口調(というのもなんか変だけど)も、何だかあやふやになっている。
「追いつかれはしないみたいだけど」
 だけど、追いつかれない為には全速力で走るって、それじゃまるで鏡の国の
アリスだなあ……って、何を莫迦な。

「でも、逃げられるよ、あなたは」
 えいえい、と、肘の辺りで雨竜が暴れている。それを何とか押さえ込みなが
ら、あたしは鳥に向き合った。不思議そうに首を傾げる白磁の鳥に、付け加え
て説明する。
「あたしから5m離れればあなたは元に……幽霊に戻るし、それでなくても執
着しているものが無くなれば、それはそれで自由になれると思うんだけど」
 
 奈々さんのお父さんも、相羽さんのお母さんも、ポケモンの人形を探してい
た坊やも……そして相羽さんの赤ちゃんも。
 心残りが消えた時には、透明になり、消えていった。たとえ残っていて欲し
いと、あたしが願っていたとしても。
 だから、この鳥の心残りが無くなれば、多分今すぐにでも消えることが出来
るのだ。そしてこうやって魚から逃げられている(このペースなら逃げている
のは確かだ)なら、この鳥には心残りはなかろう、と思った。
 ……のだけど。

(それは、困る)
「へ?」
(お前の声で、今の私は繋がれている)
「……は?」

 鳥はふわりと翼を広げた。
 白く艶のある羽が、闇の水の中でひどく目立った。

(ばらばらにされた私の身体を、お前の声が繋いだ)
(だから今、私の身体は全て、破片も残さずここに在る)

 マルセリーノの歌にあわせて、細い糸が流れ出したのを思い出す。確かにあ
の細い糸は、鳥の部分を繋ぐように流れ絡み付いていたっけ。

(私の身体が残る限り、あの魚達は音を聴こうとするだろう)
(私の身体の奏でる音を、あの魚達は後生大事に守ろうとするだろう)
「……それは、わかる」
(私は)
 そこで、鳥はぶるりと身を震わせた。白磁のつるりとした表面から、黒い丸
い目に浮かべる光まで、全てが嫌悪に彩られるほど、その一瞬の感情の流出は
激しかった。

(私の欠片すら、あそこには残したくない)
(私の音の一音すら、あの魚達には残したくない)

 黒い目が、こちらを見やる。きついほどの光を宿したまま。

(莫迦げたことに、あの魚達は、私の身体の音では満足できなくなった)
(だから私を呼び出し、また歌わせようとした)
(約定で縛りつけ、声を残す。最悪でもまた私を四散させ、音に戻せばよい)
(だが)

 透明な声に、異なる響きが混じった。
 嘲笑、と、多分それは言うのだろう。

(私にもまた、それは好機となり得た)
(私の欠片、その全てを一度集め、一つにする)
(何一つあの連中に残さないように)
(今度こそ、あの連中に)

 はっとした。
「……もしかして、あなたがこの水の中に残ってたのは」
 こうやって、成仏(って仏になるってことじゃないけど)もせず、この水の
中でぐらぐらと怨みだけを増殖させていた理由は。

(私の欠片も、魚に残したくなかったから)
(残ると考えただけでも)
(その音を聴くと思っただけでも)

 ぶるぶると身体を震わしている鳥を見ながら、何となく納得し……また同時
に、何だかひどくかなしくなってしまった。
 かつて、この鳥は、望んで水の中に残り、喜んで魚達に歌を歌っていたのだ。
 水の中に残る、その昔のひどく明るい記憶。
 そのことさえも、今の鳥には腹立たしいことなのだろうか。

 
 後で考えたら、未だ魚達の領域に居るのに、何て呑気な、と思う。だけど一
見あたし達は順調に魚達から逃げていたし、このまま自由落下を続けて、何と
か逃げている間に何か手を考えよう、と、漠然と思っていたのも確かだ。
 だけど。

「…………っ!!」

 どん、と、後頭部に重量のある何かがぶつかる感覚、そして首筋をざくりと
抉られる……激痛。

「きゅぅうっ!」
 何匹もの魚達が、頭の上、落ちてゆくその方向からぶつかってくる。雨竜が
ふっとばされかけ、鳥の乗っている手が魚の尾で強打された。
 ピアノを拳で殴りつけたような不協和音。
 鳥の、悲鳴。

 あたしの手の上に乗る鳥。殺到する魚。
 
 多分、互いに殺到したせいだろうか、数匹の魚が互いにぶつかり、その大き
な尾で跳ね飛ばされた。
 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、ぽかり、と、包囲陣の一角が開いた。

「――――逃げてっ!」

 腕を振り、鳥を跳ね飛ばす。と同時に、こちらは全力停止する。こちらに向
かっていた魚達が、どさどさとまとめてぶつかってきた。

「逃げて!」

 その距離は、5m。
 たあん、と白い翼が開いて。


 鳥は、最後にこちらを見たようだった。
 丸い丸い目は、少しだけ笑っているように見えた。
 それは自由になれた嬉しさだったのか、魚に何一つ残さなかった自分への満
足だったのか。
 ただ、一度こくり、と、頷いた、後に。

 開いた喉から溢れた鮮やかな音の奔流、と。

 全てを焼き尽す…………


 …………光。


時系列
------
 2006年5月半ばから6月にかけて

解説
----
 逃走する鳥と真帆たち。そして。
*****************************************************

 てなもんです。
 あーうー

 つーかうん、落ちついて話せばわかるっ(汗)>A先輩(笑
 であであ。
 
 


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