[KATARIBE 30143] [HA06N] 小説『水の中の鳥の唄・其の六』

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Date: Sat, 9 Sep 2006 01:12:34 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30143] [HA06N] 小説『水の中の鳥の唄・其の六』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年09月09日:01時12分34秒
Sub:[HA06N]小説『水の中の鳥の唄・其の六』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ちっくりちっくり、尺取虫のごとく話を進めます。
……あと……一回、二回、三回(以下略)

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小説『水の中の鳥の唄・其の六』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。あやかしに好かれる。
 雨竜
     :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く。

本文
---- 
 かつて 水は透明で 
 光は柔らかに水底に触れておりました

 かつて 魚は その水の中を泳いでいたものでした
 明るい光の中を 柔らかな金色の鱗を閃かせて

 かつて 鳥は透明な水の中を 自由に飛んでいたものでした
 透明で明るい光の中で 鳥は幾らでも歌い続けたものでした


 かつて 魚が望む唄を 鳥は歌ったものでした……


         **

 魚達がこの鳥を殺した、と。
 その告発を、あたしはどこかで予期していたように思う。

 
(私はこの闇の中で、お前達の為に歌ってきた)

 白磁の鳥の告発は続く。その高く鋭い、闇の中を切り裂く声で。

(あのとき私は、外に出たいと言った。必ず戻るから、必ずまたここに帰って
くるから、と)
(この闇の中で忘れた歌を思い出すために、より良く歌うために)

  闇の中に、その記憶が蘇る。この暗い水が憶えている記憶が。

(それをお前達は許そうとはしなかった)
(この水に封じ続けようとした)
(この水の中に)

  
  その光景は、告発する。
  白磁の色の鳥は、闇の水より飛び立とうとする。それを幾重にも取り囲み、
 押し留めようとする魚達。それはだんだんと……まるで堅固な壁のように、
 鳥を押し包み、押し隠し……そして。


「……でも何で、殺したの」

 それが、判らない。
 唄が聴きたい、と、魚達は言う。それはわかる。
 だから鳥を、ここに閉じ込める。それも……反対ではあるけど……それでも
その心情はわかる。
 だけど。
 
「そのまま閉じ込めておけば良かったじゃない。……そりゃ出て行かれるのは
厭だったかもしれないけど、でも」

 愚かしい、と続けようとする、言葉を切るように。
 魚達は不思議そうにこちらを見た。

『鳥はもう唄わないと言った』
『絶対に、お前達の為には歌わないと言った』
『だから音を』
『せめて音を』

「……音?」

 高く転がるような……嘲笑が響いた。
 美しいだけに、辛辣な響きだった。

(私を殺したかったのではなく)
(私を分解して 音を作りたかったのだ)

  
  言葉と一緒に、水の記憶は鮮明になる。

  白磁の鳥に向かって、真鍮の魚が首を伸ばす。がぶり、と、腹の辺りの白
 いにこ毛に噛み付き、紅い糸を引きずりながら、その毛を咥えて離れてゆく。
  

(気が付かなかったかね)
 高く、鋭い……ぎりぎりで皮肉になり損ねたくらいの声が続く。
(闇の中に、光るものがなかったろうか)
「……言われてみれば」

 闇の中に、本当に微かに響いていた旋律。
 闇の中に、本当に密かに輝いていた小さな羽根。


『もう歌わないと言ったのだ』
『もう声も出さないと言ったのだ』

 魚達はどこかしら不満げにあたしの周りを漂っている。まるで不当な告発を
受け、当たり前のことを説明せねばならなくなったとでも言うように。

『もう厭だと言われたのだ』
『どれだけ経っても歌わないと』
『どれだけ過ぎても』

 だから。

『だからこの水の中に鳥を散らした』
『だからこの水の中に鳥の音を埋め込んだ』

 左目を埋める、その過去の風景。

 噛み付き、引きちぎり。
 四散し散らばる鳥の身体を、魚達はまるで慈しむように受け取り、ゆらゆら
と水の中に散ってゆく。
 薄い薄い貝の破片が互いにぶつかって立てる音。そんな儚げな音が、彼らと
共に闇の中に消えてゆく。

『皆無よりは良いと思った』
『聞けないよりはよほど良いと思った』

 魚達は、やはりどこか不思議そうにこちらを見ている。

『だから鳥を、水の中に隠した』

 当然、といわんばかりの表情で言われて……あたしはとりあえず、その部分
の説得を放棄することにした。多分どれだけ言っても無駄なのだ。


「じゃ……でもどうして」
 肩の上の雨竜は小さく首のあたりに縮こまっている。
 頭の上の鳥は、微動だにしない。
「どうして、あたしを呼んだ……いや、どうして鳥が生き返ることを望んだ?」

 魚の丸い目が、不思議そうにこちらを見る。

『唄を聴きたかったから』

 ……いやそでなくて。

「だって、二度と歌わないって、この鳥さんは言ってたんでしょ?」
『うむ』
「それだから、殺して散らばせて、せめて音だけ残そうとしたんでしょ?」
『そのとおり』
「……じゃ、なんでその鳥を、また元に戻そうとしたのよ」
 論理的に考えておかしいだろうと思うのだが、魚達はやっぱり不思議そうに
こちらを見ているばかりである。
『唄を聴きたかったから』
「だーかーら!」

 頭の上で、嘲笑うような鋭い声があがる。極力それを無視して、あたしは魚
達に向き直った。

「唄を聴きたいは判った。でもね、普通、一噛みずつばらばらにされて、殺さ
れた鳥って……それまで歌う気があったとしても、歌うの止めると思うんだけ
ど?ましてその前から歌わないって言ってるんだから」
 どれだけ生き返らせても(正確に言うと、あたしの傍でしばらくの間実体化
するだけなんだけど)、この鳥が魚の為に歌うわけがない。あたしにはそう見
えるのだけど。

『歌ってくれる』
『今度こそ歌ってくれる』

 返事はごくあっさりとして……かつ、なんとも論理的でないものだった。

『歌ってくれる』
『必ず歌ってくれる』
「……なんでよ」

 あまりに自信満々な答えに、ついつい相手をからかいたくなってそう言った。
けれど……返事は思わずこちらが絶句するような代物だった。

『一度ばらばらにされた者は、痛みを憶えている』
『もう一度と言われて、それは無理だろうというくらいに』

『だから』

 つう、と、丸い目が幾つも幾つも。
 あたしのほうを向いた。

『鳥は嘘をつかない』
『鳥はそういう嘘はつかない』

『だから今度こそ』

 ぴい、と、呼子の音に似た高い警戒音と一緒に、鳥はあたしの懐に飛び込ん
できた。
 と同時に、魚達が。

 あたしの懐の鳥を目掛けて、飛び掛ってきた。

時系列
------
 2006年5月半ばから6月にかけて

解説
----
 過去にあった惨劇。そして魚のあまりに利己的な願い。
*****************************************************

 てなもんで。

 まだまだ続きます。
(というか、続きませんといってみたい(号泣)

 ではでは。
 


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