[KATARIBE 30139] [HA06N] 小説『水の中の鳥の唄・其の五』

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Date: Fri, 8 Sep 2006 00:44:47 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30139] [HA06N] 小説『水の中の鳥の唄・其の五』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年09月08日:00時44分47秒
Sub:[HA06N]小説『水の中の鳥の唄・其の五』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@行き当たりばったり です。
ばったり倒れるところでしたが、何とか話の続きが見えてきましたので。

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小説『水の中の鳥の唄・其の五』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。あやかしに好かれる。
 雨竜
     :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く。

本文
----
 大事なものが手元から消えるとしたら、どうしますか。
 それを握り締めようとは思いませんか。

 ……たとえ、大事なものが、それを望まなくても。

           **

 闇の中で、その鳥は白金の色に染まって見えた。
 輝いている筈のその身体は、でも闇の中では微かにセピア色がかっていて、
ぼんやりと淡くその存在を表す程度にまでその光を落としている。
 身体は鴉よりは小さく、鳩よりは少し大きい。それがはたりと一度羽根を広
げ、そしてまた閉じた。
 そうやって動き終わった後も、否動いている最中ですら、その鳥はどこか置
物じみて見える。羽根のテクスチャまで丁寧に作られた、白磁の置物に。
「きゅぅっ」
 肩の上の雨竜が、肩の上で身を起こす気配。そして恐らく、臨戦態勢になっ
た……そんな気配。

(ずいぶん待った)

 ふ、と。
 嘴から細い銀糸が流れる。それが同時に音というか意識というか……とにか
く意思疎通可能な『何か』の形となって耳に流れ込んでくる。

(ようやくこの中から出てゆける)

 銀の鈴を振るような、というけれど、本当に鳥の声で、それがきちんと意を
通じることの出来る文を紡いでいると、その形容が誇張でないと実感する。声
に聞き惚れて、その内容もどうでも良くなるような……ってそれはあれだ、サ
ルマンとかの魔法みたいな……
 ……あ。

「魚達が探していたよ」
 あたしがここに居る理由はそれなのだから、まず伝えねばと思ったのだけど、
案の定、鳥はすいと横を向いた。
 その動きはとてつもなく綺麗で滑らかで、どこか釉をかけた陶磁器のようで。
 だからこそ返って異様なものに見えた。

「……逃げたいの?」
(無論のこと)
 まん丸な黒い目。およそ表情の浮かびようのないその目が、その時は憎憎し
げな光を宿した。
(誰がこのようなところに留まりたいものか)

 肩の上の雨竜と、なんとなく目を合わせてしまった。多少不気味だったとは
いえ、魚達の鈍重で、けれども怖いほどに一途な心情に対し、この言葉は何と
も……あまりにこう、容赦ないというか、むごいような気がしたから。

(待っていたのだよ、この時を)
 不意に鳥の声が変わる。どこか甘やかな、どこか……そう、媚びるような。
(私はここから逃げ出したかった)
(ほんとうに……欠片も残さず逃げ出したかったのだよ)

 それは奇妙な表現だった。
 けれども、白磁の置物を連想させるその鳥には、妙に似合っていた。

 そしてもう一つ。

  ――だから。下手人のわからねえ奴の葬式に出るんじゃねえっての

 幸久氏。生まれついての異能の為に、幽霊がはっきりと見える人。彼から
そう言って注意されたことがある。

  ――そうやって不用意に、死んだ奴を蘇らせてんじゃねえよ

 彼が居なかったら、そもそも気が付きもしなかった能力。もしその故に、魚
達があたしを捕え、鳥が『待っていた』と言うのならば。

 ……つまりこの鳥は。


(だから私は)

 言いかけて、鳥は鋭い動きで首を廻して周囲を見、そのままふわりと飛び上
がった。すぐにとす、と、あたしの頭の上で音がする。
 雨竜が不服げに、きゅう、と呟いた。

「何いった……」

 『鳥だ』
 『鳥だ』

 声は光になり、光は声になる。丁度水滴が水面に落ちて丸く広がるように、
その低い、よく響く声は鈍い金の輝きを押し広げながら伝わってくる。

 『鳥だ』
 『鳥だ』
 『長く待っていた』
 『ほんとうに長く待っていた』

 何匹も何匹もの魚達が、緩やかな動きとは裏腹に相当の速さで近づいてくる。
既に数匹は丁度あたしの膝の高さで、ぐるぐると周りを巡っている。

『鳥だ』
『鳥だ』
『長かった』
『ずっと待っていた』
『ずっとその声をま』

(――――うるさいっ!)

 頭上から声が響いた。その声は魚達のそれとは異なり、峻烈なまでの勢いで
彼らの起した波を切り裂いた。

(私はもう歌わない)
(私はもう、お前達の為になど歌わない)

 頭の上に避難されているから、鳥の様子は見えない。けれどもその声は、立
て続けに地を撃つ雷に似て、魚の真鍮色の鱗を切り込むように撃ち据えた。

『どうして』
『どうして、鳥』
『どうして歌ってくれない』
『どうしてこれほど待った私達に』

 ざわざわ、と魚達はあたしに近づく。膝辺りを泳いでいたのが、その大きな
身体を無理やりのように弾ませては飛び上がる。最初は低く、垂らしたままの
手の指の高さに届くか届かないかだったのが、何度も繰り返すうちに肘の高さ
になり、何匹かは肩の辺りまで飛び上がるようになった。

『待っていたのに』
『お前の唄を』
『どうして』

(――――ッ!!)

 波に似た繰言、繰言に似た波。飛び上がってもどこかその波は鈍重である。
その、声のような光のような波を、鳥は声なき声で一度威嚇して。

「…………っ?!」
 
 雄叫び、というのだろうか。敵に対し凄まじい勢いで攻撃を開始する、そん
な声が響き渡った。

(歌うものか)
(誰が歌うものか)
(この暗闇に閉じ込めたお前達に)

 白磁の置物に似た、鳩より一回り大きい程度のその鳥が、小さな身体の何倍
もの憤怒を魚達に向けて撃ち込む。
 その言葉は……ある意味ではごく自然に、ごく当たり前のように響いた。
 あたしもそのことを、予期していたのだろうと……思う。

(この暗闇の中に封じたお前達に)
(飛びたいと願った私を閉じ込めたお前達に)

 甲高い、肉厚の銀の鈴を、無闇矢鱈に振り回すような声が。
 けれども一本の矢のように鋭く、魚達に撃ち出される。 

(――私を殺した、お前達に!)


 魚達の動きが、止まった……

時系列
------
 2006年5月半ばから6月にかけて

解説
----
 魚と鳥の間の確執。何を願い何を望むのか。
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 てなもんです。
 すげーありがちですねえ(うふふ)
 …………orz

 で、であであー

 


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