[KATARIBE 30116] [HA06N] 小説『水の中の鳥の唄・其の四』

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Date: Sat, 2 Sep 2006 00:05:32 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30116] [HA06N] 小説『水の中の鳥の唄・其の四』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年09月02日:00時05分31秒
Sub:[HA06N]小説『水の中の鳥の唄・其の四』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ほんに遅々としてすすまない……

というわけで、続きです。

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小説『水の中の鳥の唄・其の四』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。あやかしに好かれる。
 雨竜
     :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く。

本文
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 どれくらいの時間だろうか、あたしは闇の中で座り込んでいた。
 膝の上の雨竜の、頼りないような重みが、心細いようなそれでいてほっとす
るような。
 頭から背中にほわほわと生えた毛を指先で撫でながら、考えていた。

 ベタ達はどうしているだろうとか。
 腕時計の、文字盤すら見えない闇の中で、時間ばかりが流れる気がすること
とか。
(相羽さん、まだ電話してないかな)
(電話してたら……どうしよう)

(『鳥を見たい』)
(『唄を聴きたい』)
 
 あたしに鳥を呼び戻す力がある、と、魚達は思っているようだった。
 あたしに何が出来るか、けれども魚達は言わなかった。

 このどろりと重い闇の中で何が出来るというのだろうか。

(何が、出来るのかな)
(……相羽さん)

 こぼれるように、思う。
 
(帰れなかったらどうしよう)
(心配してたらどうしよう)

 急降下する思考を振り払うために、右の手を振り払った。
 振り払う手に、ほんの少し風の感触があった。
(あたしに出来ることって何)


 どれだけそうやって、沈黙する闇の中に座っていたかわからない。
 きゅう、と、小さく鳴く声。そして指の下で、頭を巡らす気配。
 そして数拍の間を置いて……あたしも気がついた。

(……音)

 ばらばらに散ったジグゾーパズルが、ゆっくりと集まり、下の絵に戻る。そ
れが音に置き換わったように、最初は間遠に、それも一音ずつ脈絡なく響いて
いたものが、まず幾つかの音の塊となり、そして段々それが互いにくっ付き、
まとまってゆく。
(それこそ、ジグゾーパズルをはめ込むように)

「……きゅぅ」
 膝の上で、雨竜が身を起こした。

 闇の中、音は小さな光の粒になって散っている。それが……音が繋がるのと
同じ速度で繋がり、まず細い線、そして幅のある線、そしてゆっくりと面を構
成してゆく。

 ひどく単純な旋律。
 ひどく澄明な音。
 ひどく懐かしい音の流れ。

 ……この曲には覚えがある。

 
 小学校の頃、友達が演劇部に入っていた。
 発表会ってのに誘われて見に行った時、彼女は一夜魔法で動き出した人形の
役をやっていた。
 そして、悲劇に終わった最後、流れた曲。あまりに風景にぴったりで、その
後小学生なりに探したのだけど。

(マルセリーノの歌だ)


 途切れ途切れのその旋律を、なぞってみる。歌詞はよく覚えていないけど、
短調の柔らかな韻律はよく覚えている。
 
「きゅぅ」
 雨竜につっつかれて、いつの間にか歌っていたことを自覚した。
 そして同時に。

 すぐに気が付いたわけじゃない。ただそれでも。
 
 あたしの声もまた、細い細い糸になっている。それが闇の中に散らばる破片
を、適当な位置で繋いでいる。
 小さな、一小節程度の、白金色の音の並び。
 そしてその音が伴う、微かに端の丸まった小さな欠片。

「……羽根」

 金の欠片のような羽根が、闇の中を揺らめくように渡ってゆく。それが一つ
一つ集まって。
 小さな羽根は集まって、まるでびろうどのような質感の表面を作る。どこか
見慣れた、でもやっぱりどこか違和感のある形を。
 綺麗に畳まれた翼。丸い目にははっきりと、意思と知性が現れていて。

「…………あなたが」

 つい、とその鳥は首を傾げた。
 まるで促すように。まるで笑うように。

「魚の探している……鳥?」

 闇を柔らかく撓めるような声が、その返事だった。

 
時系列
------
 2006年5月半ばから6月にかけて

解説
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 闇の中にようやく現れた鳥。
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 てなもんで。
 ではでは。



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