[KATARIBE 30099] [HA06N] 小説『水の中の鳥の唄・其の三』

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Date: Sat, 26 Aug 2006 23:17:16 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30099] [HA06N] 小説『水の中の鳥の唄・其の三』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年08月26日:23時17分16秒
Sub:[HA06N]小説『水の中の鳥の唄・其の三』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
こちこち少しずつ流してます。

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小説『水の中の鳥の唄・其の三』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。あやかしに好かれる。
 雨竜
     :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く。

本文
----
 空の上の闇の水。
 闇の水の中の、真鍮製の魚達。

 彼らの待ち望む、水の中の鳥。

         **

 意思が通じる相手は、基本的に怖くない。
 無論、相手が悪意を持っているなら、それはそれで怖い。でも、少なくとも
相手に悪意がある、ということがこちらに伝わるなら、それが全く伝わらない
相手よりも怖くはない。

『鳥を見たい』

 そう言いながら近づいてきた魚達は、丁度猫くらいの大きさで、確かに怖く
ないと言えば嘘だろうけど。

「って……どうしてあたしに言うんです?」
 肩の上で、雨竜はすくみあがっている。それが判るくらいには、この魚達は
光を伴ってやってきているのだ。
 ぐるり、と、円を作るように取り囲んだ魚は、暫くそのままじっとそこに止
まり、ゆらゆらとその鰭を動かしていた。闇の中に細かい波が鰭の残像のよう
に広がってゆくのが見え、さてこの魚は答えてくれる気がないのかなとこちら
が思い出した頃、ようやく返事らしきものがあった。

『鳥を見せてくれるから』

 ……残念ながら少しも意味が判らない返事だったけど。

「その鳥って、何……というか、どういう……」
 問い質しかけて、言葉に詰まった。魚達の不気味なほどの平らかな表情……
……それは魚であるからというだけではなく……は、何を言っても届かないも
ののような気がした。
 だから。

『鳥は』

 不意に返った声に、こちらもかなり驚いた。真鍮のボタンに似た大きな眼が
こちらを向いている。

『むかしこの水の中に居た』
 ぼうん、と、柔らかく振動する鐘の音に似た、透るようで柔らかな声。
『わたしたちのために歌ってくれた』
 声が通るたびに、淡い金の色の漣が立つのが見える。幾重にも重なり、その
声が闇を少しずつ押しのけてゆく。
『とてもとてもきれいな声だった』
『とてもとてもきれいな唄だった』

 くるりくるりと、魚が回る。
 くるりくるり、と、魚が光を呼ぶ。

『とてもとてもきれいな唄だった』

 何度も繰り返されるその声は、闇の中に細い糸のように流れてゆく。それを
何となく目で追ううちに、ふとあたしは不思議なものを見た。

 何も無かった筈の闇の中に、微かに、本当に微かに光るもの。それは細い糸
のような魚達の声を反射してしているように見えた。
 けれど。
 
『とてもとてもきれいな唄だった』
 何度も繰り返す、その言葉と残像。反射した声は、けれどどこか歪んでいて、
微かにハウリングを起こしているように聞こえた。

『だから』

 細い声の糸をくるくると絡み付かせた魚が、不意にまたこちらを見た。

『その鳥を見たい』

 ……ええと。

「あのね、その鳥がどんな鳥かも、あたしにはわからないんですけど」
 魚の目は小さな鏡に似て、あたしの言葉を跳ね返しているように見えた。
『見たい』
「……それは、わかるけど」
『あの唄を』

 なんか頭痛してきたな。

「あの、ねえ……せめて教えてよ」
 目の前に近づいてきた魚と、視線を合わせて問う。
「その鳥は、でも、逃げたの、ここから?」

 ふい、と。
 魚の声が止まった。

(……え?)

 魚達は、ふい、とあたしから離れた。まるで何かとても怖いことを聴いたか
のように。

「逃げたの?……それとも」
『おまえならば我らの願いを叶えてくれる筈』
 問いを押し潰すように、声を揃えて魚達は言う。
『おまえならば鳥を見つけられる筈』
『見つけられる者だけが、闇の水を見つけるのだから』

「きゅぅっ!」
 不意に肩の上で、雨竜が鳴いた。鋭い……まるで何かを糾弾するような。そ
のまま目の前の魚に飛びつきそうだったので、慌てて抑え込んだ。
「きゅぅぅっ!」
「駄目、離れたら駄目!」
 水の中とはいえ、こんな特殊な場所で、この子が下手に居なくなった日には
もう一度見つける自信なんてない。
「きゅぅ……」
 悔しげな声で、雨竜が呟いた。

『鳥を見たい』
『鳥を見たい』

 波のように魚達は繰り返す。乱暴をされるわけでもなかったが、それにして
も圧迫感は相当だった。

「ちょっと、待って」
 こちらだって帰りたいのだ。
 ベタ達はおなかをすかせて待っているだろう。せめてテーブルの上に出して
おいたお菓子を食べていてくれると有難いんだけど。
 相羽さんからは、連絡が来るとしたら夜中だからまだ大丈夫だけど……ああ
でも、こんなところで長々捕まって、夜中の電話に出ないなんてことになった
ら余計心配かけてしまう。
 考えているうちに、段々こちらも腹が立ってきた。

『鳥を見たい』
『唄を聴きたい』
 
 まるで子供の繰言のように、魚達は何度も繰り返す。

『鳥を見たい』
『唄を聴きたい』
『鳥を見たい』
『唄を』

「そちらが教えてくれないなら、少しは黙って考えさせてよ!」
 
 ぴたり、と魚の声は止まり、そして周囲はすとんとまた闇に戻った。


時系列
------
 2006年5月半ばから6月にかけて

解説
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 真鍮色の魚達との問答。鳥とは一体何なのか。
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 てなもんです。
 ではでは。
 
 


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