[KATARIBE 30090] [HA06N]小説『水の中の鳥の唄・其の二』

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Date: Wed, 23 Aug 2006 23:31:31 +0900
From: furutani@mahoroba.ne.jp
Subject: [KATARIBE 30090] [HA06N]小説『水の中の鳥の唄・其の二』
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2006年08月23日:22時43分05秒
Sub:[HA06N]小説『水の中の鳥の唄・其の二』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
遅々として進みませんが、とりあえず少しずつ。

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小説『水の中の鳥の唄・其の二』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。あやかしに好かれる。
 雨竜
     :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く。

本文
----
 
 高く軽やかな声が聞こえる。
 人の声ではないと思う。もっと笛のような……否、もっと鳥の、それも相当
美しく歌う種のような。
 けれども鳥の声にしては、それは明確な旋律と、反響する柔らかな和音を伴っ
っていて。
 鳥の声をサンプリングして、シンセで曲を弾く。そう考えると相当人工的な
ような、でもこの声には人工的なものはない。

 高く軽やかな、それでいて哀調を帯びた声が闇の中できらめく。様々な高さ
で響いていた声が、ふと、懐かしい旋律を奏でた。
 どこかで聞いたことのある、やはりどこか哀調を帯びた旋律を。

 闇の中に星のように散らばる、透明な声…………

           **

 鼻を抓まれても判らない暗闇、というのを、久方ぶりに実感した。
 目元に手をやって、目が開いていることを確認する。鼻にさわり、頬から顎、
喉、肩、手、と手を下ろす。
 ……つまりそれくらい何も見えない。
「……きぅぅ」
 耳元の声。そしてもう片側の肩の上、ちくり、と小さく刺さる棘のようなも
の。
「ああ、ちゃんと居るんだね」
 手を伸ばして、触れる。小さな鱗を連ねた、ざらざらとした手触りは、この
2ヶ月の間にかなり馴染んだそのもので。
「しっかりつかまっててね」
「きゅぅっ」
 
 手足を、動かしてみる。
 圧迫感らしいものは無い。上下の感覚はあるが、それが正しいのかどうかは
微妙である。息苦しさも、そういえば湿度も、不快と思うほどではない。
(雲というわけではない、と)
 まあ、それは見当がついていたけど、改めて確認。
 で、あるならば。

「落下」

 口の中で呟く、と同時に頭を下にして落ちる感覚が蘇り……そしてすぐに何
かにぶつかる感覚が続いた。

「え?」

 決して硬いものじゃない。けれどそれより先に、あたしは落ちていくことが
出来ない。
 ゆっくりしゃがんで、足元を探る。こちらもいつのまにか、奇妙な手ごたえ
の何かに固められている。
 きゅぅ、と、耳元で雨竜が鳴いた。

「……大丈夫」
 そっと手で撫でる。指先に、小さな竜の身体が震えるのが伝わってきた。
「大丈夫だよ」
 言葉ほどに確信は無い。けれど大丈夫と言わなければ、この小さな竜は怯え
るばかりだろう。

 闇はとろりと深くなる。
 雨竜に触れようと伸ばした指も、その闇に捕えられて見えない。

 ふっと。
 少しだけ、怖くなる。
 と同時に、少しだけ……ほっとする。
(相羽さん今日帰ってこないから)
(明日までになんとかすれば)

 なんとか……できれば。


 そのまましばらく、闇の中で座り込んでいたように思う。
 目を開いても、目を閉じても、変わらないような闇の中……否、目を閉じて
いたほうが、まだ何か見えるような気すらしてくる闇の中。
 闇に慣れてゆく中、同時に思考のどこかが虚ろになるのがわかる。その虚ろ
の中に。

(おと)
(この沈黙の中以外では、気のせいとすら取れないほど微かな音)

 あまりに微か過ぎて、その旋律を聞き取ることすら難しい。その音は、けれ
どもひどく懐かしかった。

 闇の中。
 ただ耳を澄ます。ただひたすら耳を澄ます。
 音にのめりこめばのめりこむほど、己のどこから虚ろになる…………

「きゅっ」

 不意に。
 肩の辺りで鋭く鳴く声。それと同時に突き刺さる細い爪。
 そして……ようやくあたしは気がついた。

 どこか真鍮を思わせる色調の、まるで鎧のような鱗。一枚一枚がその身体に
対して妙に大きい。丸い、黒の碁石のような目をこちらに向けたまま、その魚
は闇をまるで紗のように纏いながら、ゆらゆらと近づいてきている。
 それも、複数。

(魚……?)

 光魚かと思ったが、それにしてはあまりにその動きは鈍重で、その姿はあま
りに大きくて。
 子供の描く絵のように、どこか抽象的な……それでいて魚と判る形をしてい
て。

 丸い丸い目が、一斉にこちらを見た、途端。

「……つうっ」

 きぃん、と、耳の奥が圧迫される。丁度飛行機が急激に飛び立った時のよう
に。慌ててあくびを繰り返して息を抜くが、なかなかうまくいかない。
「きゅぅっ!」
 正座している、その膝の上に雨竜が落ちてくる。やはり耳が痛いのだろう、
小さな前脚で耳をぎゅっと抑えて。
 一瞬、丸い魚の目が、こちらを見据える。そして。


『……これなら、きこえるだろうか』

 ぼうん、と、今度は張りの甘い太鼓を、軽く叩いたような声が聞こえた。

「ええ、聞こえるけど」
『それならば、良い』

 いつのまにか魚達は、あたしのぐるりに近寄っていた。恐らく体長は50cm
程度、結構大きくて……少し怖い。
 膝の上に落ちた雨竜が、喉元にしがみついた。

『闇に捉えられる者ならば、我らの願いを叶えて呉れる筈』
「……願い?」
『そう、願い』
 思わず眉根にしわが寄る。大概こういう場合、無茶が続くのが相場ときたも
のだ。
 そして悲しいかな、彼らはその『相場』を無視する気はないようだった。

『鳥を』
「え?」
『鳥を、見たい』
 ……鳥?
『我らの鳥を、今一度見たい』


 ふっと、耳の奥に音が蘇った。
 鳥の声に似た、けれども確かな旋律を伴う声。

 それでもその声のどこかには。

 あざけるような色が……聞き取れた。


 
時系列
------
 2006年5月半ばから6月にかけて

解説
----
 固体のような闇の中で、真帆と雨竜が出会ったものは。
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 てなもんで。
 ではでは。
 




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