[KATARIBE 30085] [HA06N] 小説『ブレーキ音』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Tue, 22 Aug 2006 23:14:43 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30085] [HA06N] 小説『ブレーキ音』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200608221414.XAA92420@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 30085

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30000/30085.html

2006年08月22日:23時14分43秒
Sub:[HA06N]小説『ブレーキ音』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
犬坂くんの事件を見ていて、ふっと思いついた話。
問題点等、そもそもこの話変だよ却下、ってとこまで含めて、チェックお願いします>そーにゃ

*******************************
小説『ブレーキ音』
=================
登場人物
--------
 軽部片帆(かるべ・かたほ) 
     :毒舌大学生。相羽真帆の妹。異能に近い記憶力の持ち主。
 
本文
----

 いやなものを見た、と、片帆は思った。
 いやな……むごいもの、を。


 高校生の男女が自転車に乗って、路地を歩く片帆の横を通り過ぎていった。
 二人乗りは危険というが、なかなか減るものじゃない。少なくともこの二人
の場合、後ろの女の子が立ち上がっているわけでもなく、不必要なスピードを
出しているようにも見えなかった。ただ、丁度横を過ぎるところで自転車がブ
レーキをかけ、そのせいでか後ろの少女の足がかっくんと跳ねて、片帆にぶつ
かりかけたくらいのことである。
「ご、ごめんなさいっ」
 ききっと響いたブレーキの音に重なるように、自転車の後ろからショートカッ
トの女の子が声をあげた。大丈夫ですよ、と手を上げて答えたが、相手には見
えたろうか。
 まあ、そんな具合の、よくある自転車の二人、が。

 片帆の二、三歩先で、その自転車は自動車通りに出る。二人乗りにしては、
結構なスピードと動きで左に曲がる。
(あれ?)
 その動きのどこかに違和感がある。でも、それがどことも判らないまま、彼
らに続く形で自動車通りに突き当たった片帆が、これは右に曲がりかけたとこ
ろで、かなり大きなダンプが向かいから走ってきた。
歩道で歩いていても結構な圧迫感に、ふと自転車の二人乗りなんて危ないなあ、
と、思った、その途端。

 つんざくような警笛。
 振り返った視線の先で、まるで紙細工のようにくにゃりと曲がり、やたらと
大きなタイヤの中に引き込まれてゆく自転車。
 後部座席の女の子は、少し離れたところに倒れている。運転していた男の子
は。

(一瞬見える、ぐんなりと投げ出された頭)
(頭に対し、無理な方向に投げ出された手)


 真横のコンビニから、人が飛び出してくる。電話だ、救急車は、警察は、と
声があがる。
 トラックの運転席から飛び出してきた運転手の顔。
 駆け寄ったものの、手を触れるのも怖い、といわんばかりに、男の子を囲ん
で動かない数人の背中。
 ゆっくりと、顔をあげた女の子の眼鏡の、レンズの部分に入ったひび。
「ぬさか、くん……」
 口が動いて、視線が動いて。
 そして女の子は勢いよく立ち上がろうとした。

 飛び出したおばさんと一緒に、女の子を支えた。どこが痛い、大丈夫、と矢
継ぎ早に尋ねるおばさんに、女の子はなかなか反応しなかったが、立ち上がっ
た途端、
「いたっ」
「ああ、足だね。無理しちゃいけないよ」
「どこ打ったかわからないんだから、じっとして」
 口々に言う言葉が、どれほど届いているのか。

「犬坂くんっ!」
「じっとして!」

 友人なのか、彼氏なのか。
 どちらにしろ……彼女にも半ば判っているのだろう。
 後ろの座席の彼女と違い、運転していた男の子がどうなったのか。

 どう、なったのか。

 けたたましいサイレンの音。来たぞ、と口々に叫ぶ声。
「さあ、あなたも乗って」
「い、犬坂くんは?!」
「無論乗るから。一緒に行くから」

 担架を持って走り寄る人たち。そのうち二人がこちらに来る。
「この方ですか」
「はい」
 痛むところは、等、矢継ぎ早に訊かれながら、その人達は女の子の手を取っ
た。
「検査の為、病院へ」
 ゆきます、との声にかぶさるように。

「きこえますかー?!」
「わかりますか?!」
 それは、男の子に呼びかける声。
 返事というより、反応を見極めるため……と思われる、やたらに大きな声。

 意識を喪った相手の、生死を読み取ろうとする、声。


 来た時と同様、慌しく救急車は去ってゆく。角を曲がって消えてゆく姿を何
となく見やっていた時に。

(…………!!)

 ふい、と、片帆は思い出す。
 事故の一瞬前に感じた違和感。

 横をすり抜ける時に、確かに彼はブレーキを使っていた。それと一緒に、ブ
レーキの音……それは決して大きな音ではなかったものの……が聞こえていた。
 けれども、彼らが車通りに出るところで左に曲がった時。

(ブレーキの音はしなかった)
(安全運転をしていた割に、曲がった時のスピードは速かった)

 無闇にスピードを出す連中なら、コーナーをブレーキ無しに曲がろうとする
かもしれない(その結果はそれはそれで大変なことになりそうだが)。けれど、
さっきの自転車は、決してそんな無謀なスピードではなかった。後ろに女の子
を乗せていたせいか、丁寧にブレーキをかけていたあの男の子が、車道に出る
間際の曲がり角で、ブレーキをかけないなんてことがあるだろうか。

 何度か頭の中で、記憶を巻き戻す。何度確認しても同じ結果となる。
 色の白い少年の顔。その後ろの眼鏡をかけた、可愛らしい少女の顔。
 すれ違って、ここでダンプにぶつかるまでの距離は、せいぜい50mくらい。
 たったそれだけの間に、それも別に何をしたわけでもないのに。

(ブレーキが壊れたかどうかした?)

 眉根にしわを寄せて、片帆は考え込む。
 あまりにタイミングの良い故障。
 つまりそれは。

(偶然?)
 それとも。

 
 ………………故意?



時系列
------
 2006年

解説
----
 ここでは名前が出てきてませんが、犬坂鳴君と戸萌葛海嬢の事故の場面です。
 記憶力:13を巻き戻して、怪しい事実を片帆は見つけますが……
*******************************************

 てなもんで。
 であであ。
 


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30000/30085.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage