[KATARIBE 30084] [HA06N] 小説『ケイトちゃんの大冒険』

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Date: Tue, 22 Aug 2006 01:15:38 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30084] [HA06N] 小説『ケイトちゃんの大冒険』
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ふきらです。
裏部室シリーズ。
台詞の修正とかよろしくお願いします>いーさん

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小説『ケイトちゃんの大冒険』
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登場人物
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 ケイト:
  蒼雅紫が生み出した毛糸のよく分からない生き物。癒し系。

 関口聡(せきぐち・さとし):http://kataribe.com/HA/06/C/0533/ 
  片目は意思と感情を色として見、片耳は異界の音を聞く。

 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/ 
  高校生で歌よみ。詩歌を読むと、怪異がおこる。

本編
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 夏休みの校舎はひっそりと静まりかえっている。
 外はこれでもかと言わんばかりに日が差していて、窓から入ってくる風は涼
しさからほど遠く、生温い。
 しかし、微妙にねじれた空間に存在しているせいか創作部の裏部室は表の熱
気とは切り離されたかのように涼しかった。
 そんな部屋の中で、聡は本を読み、夕樹は広げたノートを目の前に片肘をつ
いてぼんやりと宙を見つめている。
 風鈴がチリンと鳴り、聡が本のページを繰る度に乾いた音が響き、ときおり
夕樹の溜め息や呻きが混じる。
 静かに時間が過ぎゆく中で、この状況に満足していない者がいた。
 ケイトである。
 構ってもらおうにも二人ともそれぞれに没頭していて、「はいはい」と軽く
あしらわれてしまう。
 机の上をくるくると歩き回っていたケイトは、やがてそれにも飽き、引いて
ある椅子を経由して床へと降りた。
 ケイトの低い視線から見えるは机の脚と、椅子の脚と、聡と夕樹の脚。ケイ
トはひょこひょことその間を抜けるように歩いていく。
 やがて到達したのは部室のドア。普段は閉められているが今日は風を通すた
めにほんの少しだけ開いていた。
 ケイトはその隙間の前で立ち止まり、振り返る。二人とも相変わらずの状態
でケイトに気付いている様子がない。
 ドアを見上げ、隙間からそっと顔(?)を覗かせた。
 廊下がまっすぐに伸びている。しばらくそのままの姿勢でじっと見ていた
が、人が現れる気配はない。ケイトは思い切って廊下に飛び出した。
 緩やかな風が廊下を滑ってきて、ケイトの体をふわりと浮かす。慌てて両手
をバタバタさせて体勢を整えると、一歩前へと踏み出していった。


 それから数分後、裏部室で夕樹が溜め息をついて顔を上げた。
 うーん、と背伸びをして辺りを見回す。相変わらずじっとしたまま本を読ん
でいる聡がいる。そして、その周りには……
「……あれ?」
 夕樹の声に反応して聡が顔を上げる。
「ケイトちゃんは?」
 その問いに聡が少し目を見開く。
「…………え、居ないかな、そこらに」
 二人とも顔をきょろきょろさせて、辺りを探す。しかし、ケイトの姿はどこ
にも見つけられない。
「しまった……」
 ドアを見た夕樹が眉をひそめた。
「ドアを開けてたんだった」
「……え」
 聡が立ち上がった。椅子がガタンと音を立てる。
「ひょっとして外に?」
「それ、まずいよ、すごく」
 青ざめた顔で聡が言う。
「と、とりあえず探してみよう」
「うんっ」
 二人は慌てて裏部室を飛び出していった。


 そのころ、やっとの思いで階段を上りきったケイトは目の前の大きな物体と
対峙していた。
 その物体はモップを持ち、じっとケイトを見ている。
「あらやだよう。毛糸くずがこんなに丸まって」
 そう言うと、モップをケイトの方へと近づけていく。
 恐怖を感じたケイトは迫り来るモップをジャンプで飛び越えると、その物体
(というか、掃除のおばさん)の足下をくぐり抜けて反対方向へトテトテと
走っていった。
 掃除のおばさんは動いているケイトを見て、「あらあら」と声を上げただけ
で、さほど驚くこともなく、その後ろ姿を見やるとモップを壁に立てかけて、
廊下の端へと歩いていった。
「それにしても夏休みだからって空調切っちゃって。けちくさいわねえ」
 そう言って、そこにある窓を開けた。
 勢いよく風が校舎へと入り込んでくる。
「あらやだ、ゴミが」
 走っていくケイトの体を風が持ち上げる。バランスを崩されて両手をジタバ
タとさせながらケイトは廊下を転げていった。
「やあ」
 転がっていくケイトの横で一緒に風に飛ばされている綿ぼこりが声を掛けて
くる。
「君はふわふわできれいでいいね、僕もふわふわじゃ引けを取らない自信があ
るが」
 綿ぼこりはその後も何かを言っていたが、毛糸と綿ぼこりでは速度が違う。
二人(?)はあっという間に離ればなれになり、彼の言葉はケイトには聞こえ
なかった。


 人気のない校舎を聡と夕樹が駆けていく。
「……こっちか」
 ケイトの感情を聡が追っているのである。
「あれ……?」
 途中でピタと立ち止まる聡。
「ん?」
 夕樹も立ち止まり、辺りをキョロキョロと見回すがケイトの姿はない。
「何か一気に飛んでいったなあ」
 聡はそう言うと、眉をひそめて先ほど来た方向へと戻っていった。
「風に飛ばされてるのかな?」
 再び後をついていく夕樹が呟く。


「……いたよ」
 二階の教室の窓から体を乗り出して、聡が溜め息混じりに言った。
 夕樹も同じ窓から覗き込んで、「あぁ」と言った。
 教室の窓から数メートル離れたところにある大きな松の木。その幹にケイト
はひしっとしがみついていた。
 聡が窓から精一杯体を乗り出して、手を伸ばしてみたが、ケイトには届かな
い。
 そのとき、横殴りの風が吹いてきて、聡は慌てて体を引っ込めた。ケイトは
樹の幹に体を寄せて風に飛ばされないようにしている。
 どうしよう、と窓の側で悩んでいる二人。
「やあ」
 そんな彼らをじっと見ているケイトに先ほどの風で飛ばされてきた綿ぼこり
が声を掛けてきた。
「そんなところで何をしているんだい? ぼくかい、ぼくは」
 そう言ったところで、再び風が吹いてきて、綿ぼこりの一部が飛ばされてい
く。
 飛ばされていく綿ぼこりが何か言っているが、やはり聞こえない。
「どうしよう……」
 聡は窓枠に手をついて、樹にしがみついているケイトを見つめる。
「ちょうど松だしなぁ…… 何とかなるかな」
 意味不明な夕樹の呟きに聡は首を傾げ、窓枠に近づいてくる夕樹に場所を
譲った。
「『たち別れいなばの山の峰に生ふる』」
 彼の口からこぼれる上の句に聡はあぁ、と大きく頷く。この下の句は、
「『まつとし聞かば今帰り来む』」
 読み終わると同時に再び風が吹く。しかし、今度のは横殴りではなく校舎へ
と吹き込んでくる風。ケイトがそろりと両手を離すと、風に乗って体が教室の
中へと運ばれていった。
 そして、すとん、と夕樹の両腕に収まる。
「やあ、おかえ…… えらい格好だね」
 苦笑混じりでそう言うと、ケイトを聡へと手渡す。ケイトは腕の中でぐった
りとして動かない。
「あーあーあ」
 困ったような表情を浮かべて聡はケイトの体にくっついている松の葉を取り
除いてやる。
「松の葉はともかくとして、ホコリまで付けて……」
「どこ行ってたんだよー」
 聡は体についている綿ぼこりを手でパタパタとはたき落とした。松の葉と一
緒に綿ぼこりが落ちる。
「はははは、今日はまた違ったところから落下するというのも乙なものだよ」
 落下しながら綿ぼこりが言った。
「……ん?」
 その声に気付いて聡が辺りを見回す。しかし、この場にはぐったりしている
ケイトと聡と夕樹しかいない。気のせいかな、と首を傾げたところで夕樹が
言った。
「……何か声が聞こえた気が」
「あ、じゃあ、僕の気のせいじゃないのか…… なんだいったい?」
 二人して辺りを見回すが、まさか綿ぼこりが喋っているとは知るはずもな
い。
「声はすれども姿は見えず」
 夕樹がケイトを覗き込む。
「まさかケイトちゃんじゃないだろうしねえ」
「ケイトちゃんじゃないと思う」
 聡がそう言った。
 ケイトは彼の腕の中でぐずっている。どうやら疲れて眠くなっているのだろ
う。
「やれやれ」
 その姿を見て溜め息をつくと、聡は夕樹と顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。

時系列と舞台
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2006年8月。裏部室にて。

解説
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がんばれケイトちゃん。
とりあえずは、風に飛ばされないためのウェイトが必要か?

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