[KATARIBE 30063] [HA06N] 小説『もう一つの状況』

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Date: Fri, 18 Aug 2006 00:50:20 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30063] [HA06N] 小説『もう一つの状況』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年08月18日:00時50分20秒
Sub:[HA06N]小説『もう一つの状況』:
From:久志


 久志です。
一日少しづつでも書いていこう計画。
ツンデレ事件簿、先輩サイド。

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小説『もう一つの状況』
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登場キャラクター
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 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警巡査。ヘンな先輩。別名おネエちゃんマスター 
     :2000年当時、28歳。 
 石垣  :刑事課の応援の人。サンズイの石垣


石垣 〜薄々と
--------------

「すいません、わざわざお邪魔してしまいまして」
 普段の人を食った顔からこうも変わるものかとばかりに、キチンと頭を下げ
る相羽さんの姿。職務から考えて当然と言えば当然かもしれないけれど、この
豹変振りには正直驚きよりも呆れのほうが大きいかもしれない。
「だめだねぇ」
「ええ、厳しいですね」
 朝方から続けている聞き込みは未だ大した収穫はなく、時間ばかりが無常に
過ぎている。あれだけの凄惨な通り魔事件で、目撃者もそれらしい不審者情報
もまるでなく、地域住民の不安だけが広がっている。
 絶対捨て置ける事件ではない、と、わかっていても。
 勘が告げている、どこか不透明ななにかを。
 恐らく相羽さんも気づいているのだと思う、この事件が我々の手に追えない
件かもしれないこと。
 車のキーを入れて、エンジンをかける。
「んじゃ、次……本命いってみるか」
「はい」

相羽 〜行動中
--------------

 ハンドルを握る石垣ちゃんの横顔が険しい。まあ、それもまた無理もないか
もしれないけど。
 朝一から続けてる不審者情報収集と聞き込みは正直あまり芳しくない。昨今
問題になってるの横の縁の薄さが捜査のネックになっているのは確かだね。
 なんとはなしに手にしたファイルを手繰る。
 それに。このヤマは……俺らで扱えるもんじゃあないかもしれないが。
「相羽さん」
「どしたん、石垣ちゃん」
 信号待ちの間、少し静かになった車内で少し遠慮がちに口を開く。
「……史さんと警部殿は、大丈夫でしょうか」
「まあ、なんとかやってんじゃん? あいつ上司受けいいし」
「ええ、それとは別に」
 どこか歯に絹を着せたような口ぶりの、まあぶっちゃけ石垣ちゃんもどこか
で気づいてるんだろね。
「ま、結果として他課にお取り上げになったとして、俺らや警部殿の評価が下
がるわけでもなし」
「そうですが……」
「ちゃっちゃと行こか、俺らは俺らのやることやっとかないとね」
「はい」
 それがどんな事件で、どんな状況になるにしろ、やれることをやるしかない。
まあ、半分俺の為に言ってることでもあるかもしれないけど。

 手にしたファイルを手繰る。
 コピーを引き伸ばした少しつぶれた文章とびっしりと書き込まれた手書きの
文字を見比べつつ。
 山部亮二、24歳、無職。 
 事件が起こった時期と同時期から住んでいるアパートで姿が見えなくなり、
友人らとも連絡が取れない状態が続いているという。事件現場からかなり距離
があるということを差し引いても、これまで入った情報の中では限りなく疑わ
しい存在でもある。

 たどり着いたアパートの前。予め連絡を入れておいた大家さんと思われる年
配のおばちゃんがこちらの姿をみて小さく手を上げた。
「お手数とらせて申し訳ありません。吹利県警刑事部捜査一課の相羽です」
「同じく吹利県警の石垣です。片山さんでいらっしゃいますね?」
 石垣ちゃんの問いに頷きつつ、どこか訝しげにこちらを見比べる。ってまあ
無理もないかもしれないけど。日常で刑事さんと関わりあうってのはまず滅多
にないことだしねえ。
 ふと、建物を見やる。
 二階建ての木造アパート。何度か塗りなおした跡のある壁、少し錆びの目立
ち始めた鉄製の階段、外付けの洗濯機置き場、木製のドアは薄く部屋の物音は
外にだだ漏れだろう。逆にこんなプライバシー筒抜けなアパートだからこそ、
数日前から姿が見えないことがわかったんだろうけど。

「ええと、こちらになります」
「すみません、お願いします」
 薄っぺらいドアに手を掛けてゆっくりと押す、抵抗なく開いたドアの向こう、
六畳一間の狭い部屋がドアの前から一望できる。
 畳は随分年季が入ってるらしくすっかり色あせて黄ばみ、一間の簡素な部屋
は家具らしい家具は古いタンスくらいしかなく、申し訳程度の小さな台所には
コンロに薄汚れたヤカンが一つ、流しには洗っていないコーヒーカップが一つ
置いたままになっている。パッと見ただけでは、何の変哲もない無人の部屋か
もしれない。

 だが、何かがひっかかる。嫌な予感、といったとこかね。
 見回した部屋の中、どこかに感じる違和感。どこかで何かがずれている感覚。
「石垣」
「はい」
 石垣ちゃんもどっかで感づいてるね。
「あの、どうました?」
 その後ろで大家のおばちゃんが訝しげに首を傾げてる。

 注意深く体を屈めてゆっくり部屋を見回す。一瞬感じた違和感の元がどこに
あるか、何故違和感と感じたのか。
「ずれてますね」
 同じくじっと部屋を見回していた石垣ちゃんがポツリとつぶやいた。
「……畳、か」
 視線を落とした先、六畳の真ん中の畳の右端の隅がわずかに上がっている。
 感じた違和感の元、ズレた畳とほんのわずかに鼻の奥で感じる……甘ったる
い奇妙な匂い。

「石垣」
「はい……」
 どことなく
 なんだか、やばそうな予感するねえ。根拠はないけど、直感てやつかな。
「ゲロ袋持ってる?」
「ええ、ありますよ」
 即座に答えて胸ポケットを探る、準備のいいことで。
 そっと顎をしゃくって、大家さんを少し下がった位置に立たせると胸の内ポ
ケットからボールペンを取り出す。
 こういうの苦手なんだけどねえ。まあ、しゃあないか。
 屈みこんで、少しだけ持ち上がった畳の隅に当ててボールペンの先をとんと
んと叩く。ちょっと畳傷つけちゃうけど、ごめんね。まあここの敷金払ってる
の俺じゃないし、借りてる人ごめんよ。
 畳の角に垂直にボールペンを押し付ける。軽く回しつつ、ゆっくり力を込め
ながらボールペンを畳に差し込んでいく。
 硬いものにぶつかる感触で手を止める。まあ、こんなもんか。
 そのままボールペンをつかんでゆっくり手を持ち上げる、ぎしぎし音を立て
て畳が持ち上がった。

 持ち上がった畳の下からふわりと舞い上がる土煙と……腐臭。

「ひっ」
 背後で上がる空気が鳴るような悲鳴。

 やっぱり、ね。


時系列と舞台 
------------ 
 2000年2月頃 
解説 
---- 
 小説『行動開始それぞれ』の同時期、相羽と石垣の行動。
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以上。

 強引でも押し進める、うむ。



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