[KATARIBE 30062] [LA02N] 小説『 Pull The Break 』

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Date: Thu, 17 Aug 2006 01:37:21 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30062] [LA02N] 小説『 Pull The Break 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年08月17日:01時37分20秒
Sub:[LA02N]小説『Pull The Break』:
From:久志


 久志です。
慣れないスペオペなんて書くもんじゃねへよ。
というわけで、随分前に書いた『Pull The Break』を完結させてみました。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『Pull The Break』
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登場キャラクター 
---------------- 
 ゼバルト・カール・フォルクラート
     :通称ゼル。国連軍所属。戦闘機パイロット
 バイパー隊の皆さん:ゼルの仲間。

紅の空
------

 ――お前はブレーキを引く。
 ――お前に逃げ場はない。

 太陽系第四惑星火星にある衛星の一つであるフォボス。
 その表面にある巨大な隕石跡に地球系国際連合(UNE)の火星防衛拠点と
して作られたスティックニー基地。
 木星――火星間の小惑星帯を抜け火星へと迫るアトランティス軍を迎え撃つ
為の火星宙域前線基地の一つであり、フォボス表面のあちこちにある、隕石衝
突跡の溝や空洞を利用して様々な軍用施設が設置された自然の要塞。
 基地からは細かい炭素の粒い覆われた黒いフォボスの地表と、空の向こうに
眼前に迫るほどの迫力で赤く輝く火星が望める。

 黒い穴ぐらと赤く輝く火星。

 古来より、赤い色は人の意識を覚醒し、興奮させると言い伝えられている。
 だが、スティックニー基地で過ごす者達の多くがそれを嘘だという。

 赤は心を落ち着ける。

 衛星フォボス。
 激しい戦いの最中でスティックニー基地に過ごす者たちの目を和ませるのは、
地球の澄んだ青空でなく、赤い砂の舞う火星の姿だった。


迎撃
----

 小惑星帯監視中の宙空警戒管制機から緊急入電。
 地球系外思念駆動反応あり、感知した配下監視機撃墜。アトランティス系大
型戦闘艦による陽光集束エネルギー砲によるものと判断される。

 緊急出撃の命を受け、スティックニー・クレーター発進路から宙空へ飛び立
つ五つの機体。
 国連火星宙域防衛軍、特殊電子戦迎撃部隊バイパー小隊。
 赤く輝く火星と黒いジャガイモのようなフォボスをはるか後方に残し、V字
型に編成をとったまま小惑星郡へと向かって行く。
 目前に広がる宇宙、一見何もない虚無の空間に見えるがそれは間違いだ。
 宇宙にも天気がある、太陽風が荒れていると通信障害が起きるし、流星群の
時期は下手な小型運輸船などは外装が穴だらけになる程度ではすまない。

「You Pull The Break...」

 IR――イマジネーションリアクター
 思う心、想念を利用して駆動する愛機に揺られながら、バイパー小隊四番機
パイロット、ゼルは小さく口ずさんだ。

「You Pull The Break...」

 想念機能により機体と全身の感覚がフルリンクする。自らの体が何倍にも膨
れ上がり、機体全体が自らの目となり手足となる奇妙な感覚を味わいながら、
宇宙空間を駆ける愛機を通じて、頬を撫でるように太陽風が吹きぬけていくの
を肌で感じる。こめかみの通信ポートを通じて視界に直接映像を移すディスプ
レイには僚機が探知した敵の情報が細かに表示された。
 漆黒の宇宙空間の中。まるで古代遺跡を彷彿とさせる無数の柱を円状に並べ
た形状の巨大な建造物が映っている。立体神殿を思わせる荘厳な大型戦闘艦。
オリハルコンでコーティングされた外装と、神殿中央部に設置されている眩し
い輝きを宿した巨大な結晶が不気味に光っている。想念触媒の先駆であるアト
ランティスでもっとも多く見られる、大口径砲台を据えた駆逐艦。
 リーダー機からの通信メッセージがヘッドディスプレイに表示されるのと同
時に音声で脳内に響いた。

[V5-Patrick] お前達、今日のランデブーはアトランティス大型戦闘駆逐艦。
       全身総オリハルコン張りのゴージャスな美女だ。迂闊に近づく
       と大口径の陽光集束エネルギー砲のビンタをお見舞いされるぜ。
       ルーク、ヘクトアイズ(百眼)で敵艦攻略ポイントを分析。
       ユンロン、聴勁で敵攻撃予測及び、航行感知。
[V2-Luke]   V2、ルーク了解。
[V3-Yunlong] V3、ユンロン了解。

 ヘッドディスプレイの左上隅に映し出された映像。不揃いな長い黒髪をその
まま流した荒削りな印象を受ける浅黒い肌の男、特殊電子戦迎撃部隊バイパー
隊リーダー、パトリック・マーティン。その下にベリーショートの金髪に彫り
の深い高い顔立ちに澄んだ青い瞳の一見軽そうな印象を受ける顔、だがその頬
からこめかみにかけて無数の無機質な人工眼が鈍く光っている。ルーク・ギル
バート、通称百眼のルーク。更にその下には奇麗に揃った黒髪の前髪を左に分
け、涼しげな切れ長の目が印象的なユンロン・リー、どこかルークと対照的な
印象を受ける。

[V5-Patrick] フジタ、ゼル、敵艦攻撃範囲内に突入後、ヘクトアイズの攻略
       分析に従い各自行動へ移れ。ゼルは強襲、フジタは援護しろ。
       ユンロンの攻撃予測と連携を怠るな、一発喰らったら一瞬で消
       し炭だ、いいな?
[V1-Fujita]  V1、フジタ了解。
[V4-Sebald]  V4、ゼル了解。

 ユンロンの下に映る幼い顔。れっきとした大人だがどことなく少年のような
幼さを感じる日系青年。短い黒髪に気の強そうな太い眉をつりあげながら答え
るヒデオ・フジタ。
 そしてコックピットに収まったままで命令を復唱し、言葉をつぐむゼル――
ゼバルト・C・フォルクラート。
 接近する敵艦の動きを頭に追いつつ、ゼルは機体を駆った。

 バイパー隊の戦い。
 五つの機体のうち二機が敵艦攻撃範囲内へ加速、残る二機が敵艦から距離を
とりつつ偵察と分析を継続。リーダー機は各機と敵艦との状況をつぶさに把握
し、敵の攻撃をかわしつつ各機に指示を出せる位置を割り出しすみやかに移動。
 五機のうち、実際に敵艦と近接戦闘に持ち込むのは、重装強襲機である四番
機ゼルと、この援護機である一番機フジタのみ。リーダー五番機は司令塔とし
て全体の戦局を監視、戦術指示と想念妨害機器による敵かく乱と中距離ミサイ
ルによる援護射撃。ヘクトアイズ(百眼)の愛称で呼ばれる二番機は遠距離視
覚と敵艦攻略の為の分析に特化し、聴頸という敵の動きを読み取る能力に長け
たユンロンの駆る三番機は敵の移動及び攻撃情報を予測し隊員全体に瞬時に伝
える役目を担っている。
 火星宙域防衛軍の全ての隊が同じ戦法を取っているわけではなく、各部隊ご
とに、メンバーの能力を把握し、能力に見合った最善の戦法を編み出していく。
全体の想念力の高いアトランティスに対抗する為、個人個人で高い想念力を持
つ地球人の能力を有効に活用する為の戦い方でもあった。

 ヘッドディスプレイを彩る、神々しく光を放つ円柱神殿。この巨大艦を相手
に特殊電子戦迎撃部隊の五機のみでこれに相手をせねばならない。

 想念技術として先を行き、大型艦を駆り想念触媒を用いた大火力の兵器を操
るアトランティス。全体よりも個人個人での想念力が高く、想念力の極めて高
い少数精鋭で個人小型機で能力を生かしてこれに対抗する地球系。

「You Pull The Break...」

 ――お前に逃げ場はない。

 スティックを握る手に微かに力がこもった。

連携
----

 敵艦、接近。
 先に小惑星帯に突入したV2のレーダーがヘッドディスプレイに映る。

[V2-Luke]   敵艦捕捉、タイプ:ケステイウス円形神殿D型、中心部に設置
       された巨大水晶による想念触媒により陽光集束超高エネルギー
       砲撃、近接防衛レーザー装備も確認した。留意しろよ?
[V3-Yunlong] 敵艦速度、攻撃パターン識別完了。移動予測位置と攻撃予測ポ
       イントを展開する。
[V5-Patrick] 移動予測位置到着にあわせて撹乱を開始する。頼んだぞ。
[V1-Fujita]  V1、フジタ了解。
[V4-Sebald]  V4、ゼル了解。

 V2偵察戦術機の把握した敵艦情報とV3戦術分析機の攻撃予測と誘導情報
を確認し、すぐ傍らを飛ぶV1分身援護機と通信。

[V1-Fujita]  まもなく敵艦の攻撃範囲内に突入する。鏡反体作成、攻撃を引
       きつける。
[V4-Sebald]  了解

 V1の機体が二機に分かれる、一方の鏡反体としてオトリとして敵艦の攻撃
を引きつけながら、本体は短距離ミサイルでV4重装強襲機が敵艦に接近する
為の援護を行う。
 敵艦、接近。
 ヘッドディスプレイに映る、黄金に輝くオリハルコンの神殿。等間隔で並ぶ
柱の向こう、巨大なアーモンド型の結晶が煌いている。

「You Pull The Break...」

 スティックを握る手に微かに汗がにじむ。
 一定間隔ごとに無機質に光る巨大結晶、中心部に一点まばゆい光点が映る。
陽光の充填が高まる毎に中央部の光点の輝きが増す。
 陽光集束砲撃。巨大結晶を想念触媒に用い、太陽エネルギーを結晶内に充填
し、超高エネルギーを撃ち出す。アトランティス大型戦艦の多くが搭載してい
る決戦兵器。充填時間に多少の難があるとはいえ、無尽蔵で強力な砲撃を安定
して撃ち出すことのできる驚異的な武器だ。

[V3-Yunlong] 来るぞ、二時。ミラーを捕らえた。

 V3の高速通信が瞬時に全機に伝わる、同時に反射的に体が反応する。砲撃
によるの余波回避の為に機体を移動。

 その一瞬後。
 閃光が走った。

 陽光収束砲撃。
 まるで眩い光の柱が突き抜けていくようにV1鏡反体を飲み込んで一瞬で蒸
発させる。自動的にシャッターがかかったヘッドモニタが回復、敵艦の巨大結
晶が一瞬光を失うが、すぐさま充填モードに移り小さな光点が灯る。

『喰らったら一瞬で消しズミだ』
 ゼルはスティックを握り締めたまま、リーダーの言葉を反芻する。

「Don't pull...」

 引くな、お前に逃げ場は無い。
 恐怖に呑まれブレーキを引いた時、お前は死ぬ。
 恐怖はお前を生かしもするし、殺しもする。

 V1再び鏡反体を展開し、敵艦を陽動。V3敵艦エネルギー充填のカウント
開始。V2敵艦攻撃ポイント分析完了、即時V4の情報に反映。V4の接近に
合わせてV5想念ジャミング開始。
 IR駆動、敵艦へ加速。近接防御攻撃に備える。

「You Pull The Break...」

 恐怖を飼い馴らせ、お前に逃げ場は無い。

反撃
----

 巨大水晶の中心に灯る白い光、まるで闇を照らす篝火のように。
 太陽の光を受けて、灯る光は強さを増していく。

[V3-Yunlong] 充填カウント再開、次の移動予測位置と攻撃予測ポイントを掴
       み次第即座に展開する

 ディスプレイに表示されるカウント。ミリ秒単位で減っていく数値を横目で
確認し、軽く奥歯を噛む。エンジン全開、フル出力で決戦用思考爆弾を抱いた
重装強襲機V4が一気に加速する。
 垂直に立ち並ぶ柱、黄金色に輝く艦は戦艦として考えるにはあまりに荘厳で
煌びやかだった。眼前に迫る巨大神殿、チカチカと光る巨大水晶の光がまるで
舌をちらつかせる悪魔の口のようにも見える。
 V1の短距離ミサイルがV2の百眼が捕らえた近接防衛レーザー装備を正確
に貫く。破壊された機器が紅い花を散らし衝撃が機体を伝わって頬を撫でる。
 ゼルの駆るV4の機体が直前回避不可距離へと飛び込む。V3の聴頸を持っ
てしても攻撃の直前回避が不可能な位置、この距離から攻撃を避ける為には絶
対に標的にならない事が前提になる、己の直感以外で唯一頼りになる援護はリ
ーダーV5の思考ジャミングビットのみ。それも完全に頼り切るわけにはいか
ない。
 ほんの一瞬の読み間違いが、ほんのわずかな油断が、命取りになる。
 スティックを握り締め、歯を噛みしめる。
 
 戦いにおいて、何よりも恐ろしいものとは何か?
 負けるかもしれない、と思ったその瞬間。

 『You Pull The Break...』(お前はブレーキを引く)

 もうだめだと怖気づいたその一瞬、己は負け犬になる。
 諦めが人を殺す。

 目標ロックオン、充填カウントダウンはまもなくフルチャージ。スティック
の射出ボタンにかかる指先にわずかに力が篭る。
 恐怖は人を狂わせる。しかしまた、恐怖がなければ人は危機を感じ取ること
ができない。恐怖を知らぬ者は生きられない。

 思考爆弾射出。
 かすかな軌跡を描いて巨大水晶へと向かって吸い込まれていく。
 スティックを握る手がわずかに緊張で震える。
 
[V4-Sebald]  投下完了、転進する。

 同時に無数にばら撒かれたV5のジャミングビットが一斉に起動し、敵艦の
思考妨害開始。すかさずV2とV3の情報から退避ルートを算出し、ためらい
なく全速力で離脱。
 全身がシートにめり込むようなGを受けながら、全身の血が流されていくよ
うな感覚に襲われ一瞬意識を失いかける。

 その瞬間。
 後方から凄まじい閃光が散った。
 背後から襲う衝撃に吹き飛ばされるようにV4の機体がコマのように回り、
肺腑をかき回すような感覚を歯を食いしばってこらえる。
 
[V2-Luke]   敵艦消滅確認。V1、V3、V5退避完了。イカスぜ男前

 シャッターのかかったコックピット内、遠くでV2の声を聞きながら無事を
示す信号を返答、そのままゼルは崩れるようにシートに体を預けた。帰還ルー
トをプログラムに託し、目を閉じる。

「You Pull The Break...」

 お前はブレーキを引く。
 お前は敗北し、俺は生きている。

時系列と舞台 
------------ 
 2070年くらい? 火星宙域にて。
解説
----
 ゼル、軍人時代のお話。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
とりあえず、第一稿。

修正とかあったらてけりてけりと直す予定。





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