[KATARIBE 30054] [HA06N] 小説『風春祭断片・その十五』

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Date: Sun, 13 Aug 2006 00:59:04 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30054] [HA06N] 小説『風春祭断片・その十五』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年08月13日:00時59分04秒
Sub:[HA06N]小説『風春祭断片・その十五』 :
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
色々力尽きてます。
さっきから打ち間違いが異様に多い、しかしとりあえず仕上がったので流します。

****************************
小説『風春祭断片・その十五』 
============================
登場人物 
-------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。 
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍して姓が変わる。基本的に語り手。 
 桃実幸(ももざね・こう)
     :吹利県警生活安全部少年課課長。抜け目ない人。
 その他、県警の人々大勢。


本文 
---- 

 どうしようかなあとは思ったけど、約束はしていたし、それを今更破るのも
変だと思ったし……確かに、行かない理由はなかったし。
 一点だけ。
 ある一点だけを除いては。

              **

「あー帰る帰る、もう絶対帰る」
 一応片帆も誘ったけれど、ほぼ一撃でそう返された。
「尊さんは行く筈だよ?」
「尊さんにくっついてったら、ただでさえ出ない豆柴さんの手が全く出なくな
るでしょ」
 ……豆柴君、片帆に言われてるし。

 湿布を貼りなおしてきます、あとから行きますから、と、尊さんが笑うから、
あたしはそのまま一人で……その、「ほすとくらぶ」やらに行くことになった。
 相羽さんに貰ったメモを見ながら階段を下りてゆくと、何となく音が聞こえ
て、ああここかと見当だけはついたけど。
 ……いいのかな。

 一瞬、応援しそこねた。
 そして……すごく悔しげな顔を見た。
 それが、なんだか。

 とはいえ、これで行かなかったら約束破ることになるし、それはやっぱり駄
目だろう……と、何だか莫迦みたいに扉の前に突っ立ってから。
 開ける。
 と。

「あ」
「……あ、ま…本み……??」
 
 頭には突っ立った耳。特撮の『隊員』めいた服装。
 これって。
「いらっしゃいませ」
 照れてるんだとは、思う。でも。
 でも。
 つまり豆柴君がこういう格好しているということは、後は推して知るべしと
いう奴で……
「あの」
 困った顔になって、豆柴君がこちらを見る。気持ちはわからないではない。
 だけど。

「いらっしゃいませ」
「…………っ!!」 
 薄々察していたとしても、改めて見ると声が無いってことはあるもので。

 黒尽くめの服装に、黒いマント。結構たっぷりと布を取って作られたそれを、
片手で器用に捌きながら、こちらに手を出しているのは。

 いや、ほんと思い知った。何をやってるんですかと言いたいのに声が出ない、
言葉が選べないってのはほんとあるもんだなあって。
 
「ご案内いたします」
 にっと笑って差し出される手。良く見知った、こればかりはどんな格好して
ても多分変わりの無い。
 だけど。

 一瞬、逃げそうになったのを多分、相羽さんは判ったんだと思う。ひょい、
と手を掴んで軽く引っ張られて。
「ごゆっくりなさって下さい」
 耳元の声。
「…………だからっ」
 思わず空いてる手を上げてしまって、途中で止める。ここはうちじゃないか
ら。だから。
 うろうろと視線を動かした先で、本宮さんが小さく溜息をついているのが見
えた。
 白い犬耳と白い司令服じゃなかったら心強かったのになって……ふと思った。

              **

 結構、部屋……というか店の中には、人が居た。
「……いいの、ここ?」
「いいよ」
 人がかなり居るのに、テーブル一つ占領していいのかな、と思ったのだけど、
周りの人が一斉にうんうん頷く。
「あれ」
「あ、さっきはどうも」
 カウンターの前の顔は、さっきの屋台で見た顔だった。
「クッキーありがとうございました、新川さん」
 いえいえ、と、彼女は手を振る。周りの数人が何やら尋ね、そして成程、と
いうように頷いた。
 
「何か呑む?」
「あ、うん」
 テーブルの周りの、一番奥になる席。座り込むと相羽さんが首を傾げるよう
に尋ねてきた。
「日本酒?」
「あ、えと……」
 お店には、ちゃんとカウンターが……それもそれなりの格好で……ある。そ
の奥の初老の男性は、如何にも器用にシェイカーを扱っているから。
「カクテル、お願いしていいですか」
「何がいい?」
「……ブルー・ムーン」
 以前、花澄と二人、ティーポットと計量カップ、それに計量スプーンで作っ
たカクテル。レモンジュースのいいのが無くて、確かレモンを絞って入れたら
何だか身や種も一緒に入って、カクテルっぽくならなかった覚えがある。
「判った」
 にっと笑って、相羽さんは身を起こす。邪魔なマントを、それでも当たり前
みたいに片手で払って、カウンターに声をかける。判った、というように頷い
たその人は、でも、ひょい、と、丁度今グラスに注いだカクテルを相羽さんに
押しやった。

「店からのサービスです。ゆっくりしていって」
 グラスを持って、相羽さんがテーブルに戻ってくる。思いついたようにその
後ろから、その人はやってきた。
「……ありがとうございます……あの、これは?」 
 綺麗なピンク色のカクテルだ。
「県警オリジナルのカクテルです」
 妙に人の良さそうな顔で笑う。でもどこかで聞いたような声。
「そうやねぇ──フウリ・ハニームーンとでも名づけよか」
 ………………そう来ますか。
「粋だねぇ、桃実のだんな」 
 粋というか、聞いているほうはえらい恥ずかしいんですがっ。
「大切なお客様やからねぇ。ちゃんとサービスせなあかんよ?」
 にっと笑ってから、その人はカウンターの向こうに戻る。すぐに並んだ酒の
瓶を取って、次のカクテルを作り出した。
 
「三岳の瓶、何だったら下さいな。こちらで適当に呑むから」
「いいよ、今日は客なんやし」
 まだ、結構忙しそう……なのに、相羽さん隣に座っちゃうし。

「……えーと……相羽さん、他にお客さん居るから」 
 言った途端、相羽さんの顔が不満そうになる。
「相羽さんの働いてるとこ、見てみたいし」
 言ってから気が付く。でも、相羽さん、今日一日散々しんどい思いしたのに
これはいけなかったのかなって。

 だけど。
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
 ぽん、と、頭の上に乗っかる手。そのままマントをざっと後ろに従えながら
相羽さんはカウンターのほうに歩いてゆき、そのままグラスを幾つか受け取っ
て、お客さんのほうに行く。
 その、様が。
(見事、だなあ)
 決して広くない店内を、そう考えるとかなり邪魔だろう衣装を着けて歩いて、
全くそれが苦に見えない。カウンターに、テーブルに、座っているお客さんに
何か言っては笑わせる。
 弾むような、声。

 貰ったグラスを傾ける。ほんのりと甘酸っぱいような、口当たりジュースの
ような……でもこれ、多分調子に乗って呑むと強いんだろうな。

 店内を見回す。
 奥のほうのテーブルには、蓉子ちゃんが見える。影になって見えないけど、
多分隣にいるのはお母さんで。
 とすると、向かい合っているのが……中村さん、か。
 しげしげと見ていると、蓉子ちゃんがちょっと目を上げた。こちらを見て、
ちょっとだけ笑った。
「ほら辰やん、ご注文できたよ」
 と見ていると、カウンター内から声がかかる。唸るような「はい」の声と同
時に中村さんは立ち上がり、グラス二つ……どうやらジュース……を受け取っ
た。
「ちゃんとサービスせなあかんよ」
 その一言に、蓉子ちゃんが口元を押さえた。肩が小さく跳ね上がる。
 如何にも笑いを抑えました、みたいに。

 そのすぐ近くのテーブルでは、さっきの奥さんとお嬢ちゃんに挟まれて、白
い上っ張り……というか、マッドサイエンティスト御用達っぽい白衣の東さん
が座っている。お嬢ちゃんは膝に乗っかっているし、奥さんはすっかり肩にも
たれていて……何となく目を逸らした。

 逸らしたついでに豆柴君を探すと……
「あれ?」
 見当たらない。きょろきょろしていると、丁度空のグラスをさげてきたらし
い本宮さんと視線が合った。流石に勘のいい人で、カウンターの端にグラスを
置いたその手をちょっと動かしてみせる。
 ……あ。
 咄嗟に振り返って、でも流石に椅子の背が透き通るわけじゃないし、まして
こちらから覗くのもなんだし。
 でも。
 多分、尊さんが隣に居るに違いない。

 グラスが空になる。
 何となく……手元不如意ってこういうことかなとか思う。
 テーブルに一人だし、誰が来るわけじゃないし。
 ……なんか……

「……さみしい?」
 ひょこ、と。
 こちらの内心まできっちり読んでるのかってタイミングで、相羽さんが顔を
出した。
「…………え、えと」
 さみしい、と、いうか。
 ……あんましそんな言葉使いたくないし。
「……皆急がしいんだね」
 ある意味、返事になってない返事に、相羽さんはにっと笑った。 
「おかわり、いる?」 
 頬をすっと撫でる指。
「だ、だからっ」
「はいはい……おかわりは?」
「……ほしいです」
 わかった、と言って、相羽さんはまたするっとカウンターに向かう。中の人
と数言交わして、グラスを二つ持って、こちらに戻ってくる。
「それ……?」
「ウーロン茶」
 あ、やっぱり。

 やっぱり笑いながら、相羽さんはすとんと横に座る。
 グラスを受け取って口をつける。
 やっぱり、あの時の味とは……格段に違うような気がする。

 ふっと。
 横で笑ってる気配に、振り返った。
 やっぱり相羽さんは、こちらを見て……笑ってた。

「たのしい?」 
「……うん」
 色々考えてた。どうしようかって思ってた。
 でも、相羽さんが隣に居て。
 
「そう、なら、よかった」 
 目を細めるようにして、相羽さんは笑う。
「……桃実の旦那と千尋大奥に感謝、かな」 
「って……?」 
 カウンターの奥から、シェイカーを持った人がちょっと手を上げて笑った。
 どうやら、自分の名前だけは聞こえたらしい。
「まあ、まわりくどい家庭サービスってやつだね」 
 小さく、肩をすくめるようにして笑う。 
「……石頭、多いからさ」 
「…………そっか」
 
 黒尽くめの衣装。ぴょんと頭の途中から立った耳。

「……相羽さんは?」 
「ん?」 
「呑めないのに……楽しい、大丈夫?」 
「楽しいよ」 
 やっぱり笑って。いつものように、ほっとするような顔のまま。 
「飲んで寝るのはもったいないし」 
 つくつくと、頬をつつく指。
「……え」 
「折角、一緒にいるんだからさ」 
 だから外でそういう手を出さない……と言いかけて。
 手を押さえて、相羽さんをまともに、見て。
 ものすごく情けない話だけど……気が付いた。

「…………痛くない?」 
「ん、平気」 
 相羽さんは、そういうけど。
 ひどい腫れでは、ない。こうやって真正面から見たら判る程度なのは確か。
 でも。
 
 東さんも、その前の中村さんも、顔を狙って撃つような人じゃなかった。そ
れは確か。
 だからこうやって腫れてるのは、不可抗力というか、ぶつかっちゃった、み
たいなものなんだろうけど。

「久々に大暴れしたから、まあ」 
 手元のグラスを持って、相羽さんは気軽にそう言う。
「逆にすっきりしたよ」 
「…………」
「まあ、年甲斐も無く、ケンカまがいをしたもんだ」 
 そうやって、けらけら笑うけど。
 だけど。

 黒いマントの上から、相羽さんの肩辺りをぽんと叩く。絶対に強くならない
よう、最悪でも冗談で済ませられるよう。
 だけど。
 
 ぽん、と。
 それだけでは絶対に痛くない筈なのに。
 相羽さんの表情は、一瞬だけ変わった。
 変わって……そしてすぐ、苦笑になった。

「大丈夫、だよ」 
「…………はい」 
 そう言われると、もう言葉がない。

 カウンターの前では、小柄な女性の隣に、多分高校生くらいの男の子が立っ
ていた。どうやら親子らしく、しばらくなにやら言い合っていたが、最後に息
子さん(多分)のほうが勝ったらしかった。受け取ったお札を折り畳んで、ポ
ケットに入れる。そして一礼してから出て行った。
 やれやれ、と肩をすくめたお母さんのほうは、ひょいとこちらを見た。
「相羽君、ちょっとちょっと」
「はい?」
 ひょい、と立ち上がった相羽さんが近づくと、その人は小声でなにやら話し
ていた。
 不意に相羽さんがにっと笑う。まるで悪戯小僧のように。
 やっぱり悪戯小僧のような笑みを浮かべたカウンターの中の……桃実さんだっ
け……からグラスを受け取り、そのまま。
「……あ」
 真っ直ぐに、東さん達のテーブルに向かって。

 相羽さんが何か話しかける。お嬢ちゃんが元気良く頷いて、お父さんの腕を
しっかりと握る。そして。
「……?」
 奥さんが肩にもたれていた時ですら、表情を変えていなかった東さんが、こ
の時初めてぴきっと表情を動かした。
 奥さんが慌てて、お嬢ちゃんの口をふさぐ。

 相羽さんがにっと笑う。
 近くに居た本宮さんが、やっぱりどこか人の悪い笑みを口元に浮かべる。
 ……なーに話してるんだか。

「何、話してたの?」
 えらく上機嫌の顔で、相羽さんが戻ってくるから。
「ん?あのカタブツをもうちょっと柔らかくしてあげないと、ね」 
 くつくつと、肩を揺らして……あんまり笑ってるから。
 手を伸ばして、頭を軽く叩く。他のところを叩くと、どこがあざだかわから
ないから。
「いて」 
 それでも、悪戯っ子のような表情は変わらないまま。それでも。
「まあ、ほどほどに、ね」 
「……ほんとに」

 確かに。
 あの奥さんも、このくらいのからかいではどうこうなるとは思わない。なん
せ衆人環視の場所で、ご主人にキスするって……

 でも、それって、奥さんがそういう人っていうより。
 そこまで追い詰められてた……のかも、しれないなって……
 
 がた、とカウンターの前で椅子の音が鳴った。
 何事かと思ったら、本宮さんがえらく引きつった顔で……あ。
(奈々さん、だ)
 赤ちゃんは……ああ、本宮さんのご両親に預けてきた、のかな。
 相羽さんを見ると、やっぱり小さく笑っていた。

「でも、あいつにはさ、それっくらいはやってやんないと」 
 あいつ、と、ことさらに本宮さんと区別するような、そんな口調で。
 半分くらいに減った、ウーロン茶のグラスで、軽く東さん達のほうを示しな
がら。
「……って……」 
「奥さんかわいそうだしね」 

 言われて、思い出す。
 真っ青になって、両手を握り締めていた顔。
 がんばって、がんばって、と、小さく動いていた唇。

「…………うん」 
 少しだけ身を起こして、奥さんを覗いてみた。
 今の会話がどんなものかは判らないけど、どこか微妙に仏頂面になった東さ
んの隣で、奥さんは嬉しそうに笑ってる。
 やっと……ほっとしたような顔で。 
「……そだね」 
 その顔を見ていたら、自然に頷けた。
「さっき、隣で……凄く不安そうにしてたから、奥さん」 
「……あいつも相当に仕事莫迦だしね、俺と同じで」 
 そう言われると……困る。
「…………じゃあ、あっちの奥さんが偉いのかな」 

 多分奥さんがあんな不安な顔をしていたのは、東さんが今も仕事莫迦で、突っ
走る人で……そしてその邪魔を、奥さんがしてないからなんだろうなって。

「……あんな顔させたかないよ」 
 ふっと相羽さんが真顔になった。
 笑おうとして……笑い損ねた。

 そこまで不安には、確かに思ってなかった。
 だけどそれは、東さんという人がそこまで危険なことをすることはない、と
思っていたからだ。もっと言うとこれは奉納試合で、毎日の仕事じゃない。

 何時戻るか判らない。
 怪我をして帰るかもしれない。
 もしかしたら。

「…………うちで待ってるほうが、怖いから」 

 言ってしまってから……失敗した、と、自分でも思った。

 
 相羽さんは以前はそんな顔をしなかった、と、時折本宮さんから言われるこ
とがある。
 時折あたしも気が付く。ついてゆくのに苦労するほど足の速かったこの人が、
今ではあたしと同じ速さで歩いていること。おネエちゃん情報を使うことはな
いと断言すること。執着しない人が、執着するよと言い切ること。

 だけど、だから。
 あたしはこの人の、いつもの顔を知らないのかもしれない。

 奉納試合。無論、不真面目に対峙してよいわけじゃない。
 だけど、視線だけでも相手と切りあうような、そんな厳しい目をしていた。

 あれがこの人の、仕事の時の本気、で。
 そしてこの人の仕事は、その本気を必要とする、もので。

 ……ああ本当にあたしは屋根の上で寝ているばかりの野良猫だ。その下で何
が起こっていても、どれだけこの人が傷ついても、何一つ知らずに寝ている猫
だ。

「……真帆」
「駄目」
 肩に廻される手を止めた。絶対駄目だと思った。
「……手を出すの禁止」
 だって今、手を伸ばされたら、本当にまずいから。
 多分、手にすがって、泣き続けるしか出来なくなるから。

 怖かった。
 痛い音だと思った。
 公明正大とかただの試合とか、そんなの別にして。
 辛くて、辛くて、辛くて、辛くて…………っ

 ぽん、と、頭に手の載る感触。そのままくしゃっと髪の毛を撫でる手。

「何かつまむものもってこようか」
 顔を上げると、もうその時には、相羽さんはカウンターのほうに居て。
 グラスと、小さなお皿を持って。

「はい」
 ことん、と、グラスを前に置いてくれて。
「今はサービスさせてよ」
「……え」
 一瞬意味を取り損ねて、思わず訊き返したら。

「ホストクラブ、だからね」
 ここはね、と、小さく笑って。
「一緒にゆっくりお酒を呑んで」
 自分の言葉を示すように、グラスを持ちかけて……これは酒じゃないけど、
と、苦笑して。
「ゆっくり過ごそうよ」
「……はい」
 やっぱり駄目だ、と、一瞬。
 鞄からハンカチを探しながら、思う。せっかくこの人がゆっくり出来る時な
のに、うちじゃないから手を出すなって、言ってるこちらが。
 申し訳ない、と、思って、言おう、として。

「応援してくれてること、知ってるから」
 ぽつん、と。
「俺はね」

 泣いたら駄目だと思った。泣き止まないと絶対駄目だと思った。
 応援ったって……だけどっ。

「だけど」
 言いかけた言葉は、指一本で止められた。
「お家でね」
「…………はい」

 冷えたグラスを、手渡される。
 多分、目が赤くなって、さぞみっともない顔になってるだろうなと、ふと。

「どうぞ」
 やっぱり少しだけ笑って。
 相羽さんがそう言った。

 
時系列
------
 2006年4月23日夜。

解説
----
 何とかあと一度くらいで終わりです。
 県警の人もくたくたのようです。
*****************************************************

 てなもんで。
 であであ。
 



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