[KATARIBE 30051] [HA06N] 小説『日誌』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Wed, 9 Aug 2006 00:57:40 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30051] [HA06N] 小説『日誌』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20060809005740.2fd155f4.hukira@blue.ocn.ne.jp>
X-Mail-Count: 30051

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30000/30051.html

ふきらです。
裏部室シリーズ。

**********************************************************************
小説『日誌』
============

登場人物
--------
 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/ 
  高校生で歌よみ。詩歌を読むと、怪異がおこる。

本編
----

 夏休みの裏部室は静かであった。もっとも、夏休みでなくてもここは大抵は
静かなのだが。
 この部屋は外界と微妙にずれて存在しているせいか、夏でもひんやりと涼し
い。
 夕樹は窓へと近づき、風鈴の短冊を指ではじいた。
 チリン、と澄んだ音色が部屋に響く。
「平和だね」
 何とも微妙にずれた台詞。聞いていた者がいたら苦笑を浮かべられてしまい
そうだが、生憎今この部屋にいるのは夕樹一人だけ。
 あらためて夕樹は部屋を見回してみた。
 表の部室と同じ大きさの教室。ドアや窓は表と同じ位置にあるが、ドアは反
対方向に開くようになっている。
 机と椅子がいくつかあって、壁際にはロッカーとスチールラック。他には特
に何もない。
 ロッカーは表部室と繋がっていて向こうの音が聞こえてくるが、今は合宿に
行っていて表部室には誰もおらず静かである。
 スチールラックにはわら半紙の表紙の詩歌創作部の会報誌が何冊も置いてあ
り、後は数冊の大学ノートがあるだけ。
 会報誌はさすが詩歌創作部と言うだけあって、詩と短歌と俳句のみで構成さ
れている。……もっとも、それが部の衰退を招いたのかもしれないのだが。
 夕樹は大学ノートに手を伸ばした。この部屋を見つけたときから、ずっと気
にはしていたが何となく見てはいけないような気がして避けていたのだ。
 だが、今日は見てみようという気になった。
 大学ノートは少し色褪せていて、年月の重みを感じさせる。表紙には「1996
年度 詩歌創作部日誌」と書いてあった。
「日誌なんだ」
 手にとってパラパラと捲る。日誌と言うよりは部員のみんながよってたかっ
て書いていた日記のようなもので、色んな字体がノートの上で踊っていた。い
かにも楽しげな感じがその文字から伝わってくる。
「……」
 夕樹は椅子を引き寄せて腰掛けると、書かれてある文字をゆっくりと読み始
めた。
 書いてあることは本当に日記のようなもので、あの先生の授業がきびしい、
とか、授業中に会心の詩を思いついたのに先生に当てられて飛んでしまったと
かが、綴られている。
 そして、何週間かに一度は句会を開いていたらしく俳句が書かれているペー
ジがときどき出現していた。
 俯いてノートに目を落としたまま動かず、時折ページを繰る音がやけに大き
く響く。
「はぁ……」
 そのノートを読み終えて、夕樹は思いきり溜め息をついた。そして、「いい
なぁ」と呟く。
 どうやら詩歌創作部としてはその年が最盛期だったらしく、2000年度の日誌
は半分ほど書かれたところで終わっている。2003年度はもうほとんど書かれて
おらず、詩歌創作部として最後の年である2004年度の日誌は存在していない。
 夕樹は読み終わったノートをラックに戻してその前にしばらく立っていた。
そして、ふと思い立つと鞄の中から大学ノートを一冊取りだした。自分の作っ
た歌を書き留めるのに使うつもりのものである。今まで使っていたものが丁度
終わったところだったのだ。
 そのノートの表紙にボールペンで「日誌」と書いて、動きを止め、そして、
その前に少し小さい文字で「詩歌創作部」と書き加えた。
「いつまで続くかな」
 一人で少し微笑み、そして1ページ目に今日の日付を書いた。

時系列と舞台
------------
2006年8月。裏部室。

解説
----
ささやかな企みの第一歩(嘘)

$$
**********************************************************************
 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30000/30051.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage