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Date: Sun, 6 Aug 2006 21:22:13 +0900 (JST)
From: 久志 <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30046] [HA06N] 小説『淡緑の影』その８
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200608061222.VAA03454@www.mahoroba.ne.jp>
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Web: http://kataribe.com/HA/06/N/
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2006年08月06日:21時22分13秒
Sub:[HA06N]小説『淡緑の影』その８:
From:久志
久志です。
やっとこ少し進む、のか。
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小説『淡緑の影』その８
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登場キャラクター
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坂口かほる（さかぐち・かほる）
：吹利に引っ越してきたイラストレーターのお姉さん。
東治安（あずま・はるやす）
：吹利県警警備部、公安の人。2000年当時巡査。二十半ば程。
追いかけて 〜坂口かほる
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窓を伝う雨の筋。大粒の滴があとからあとから窓を叩いて滑り落ちていく。
いやね、今朝見た予想では崩れるのは夜半から明日の朝という予想だったは
ずなのに。
中庭に面した窓の向こう、走り出す人達の姿。雨に打たれてさわさわと揺れ
る緑の庭木、きっと今頃表では湧き上がるような雨の匂いがあたりに立ち込め
ているのかしらね。
あの人は傘を持ってきたかしら？ 朝見た様子だと何も持っていなかったみ
たいだけれど。でも、私も置いてきてしまっているのよね。
ふと、窓の外に気をとられていたほんの少しの間に、あの人が音もなく席を
立ち、読みかけの本を手にカウンターへと歩いていく。
帰るのかしら？ でもこの雨の中を？
見送る背中は当然私の問いに答えることはなく、遠ざかっていく。
えい、もうここまできたんですもの、ここは行動しなきゃ。次も確実にあの
人に会えるかどうかわからないんだから。見失わないように、近づき過ぎない
ように、そっとあの人の後に続く。
あの人の後を追って、たどり着いたのは。
図書館の中央階段を登った南館二階の片隅、いくつかのソファと低いテーブ
ルが並び、申し訳程度の薄い仕切りで区切っただけの小さなカフェ。店員は恰
幅のいいおじさんが一人だけ、あまり数多くない席は雨から避難してきたらし
い親子連れやおしゃべりに興じているおばさん達で埋めつくされてる。
あの人がいるのは、中央にある小さなテーブル席。座っているのは一人だけ
で向かいにあるソファは空いている。
これは、チャンス、よね。
「すみません」
本を手にしたまま、ちらりと視線がこちらを向く。
「あの、この席よろしいでしょうか？ 雨が、やむまで」
見上げたまま表情ひとつ変えず。
「ええ、どうぞ」
あっさりと答えてテーブルの上の本を少し寄せる。
「ありがとうございます」
向かいの席、こんなすぐ目と鼻の先であの人が静かに本に視線を落としてる。
どうしよう。
ただそれだけなのに、なんだかどきどきする。
雨がやむまで 〜東治安
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窓を叩く雨。
濁った灰色に染まった空の下、雨に打たれる庭木の新緑の葉。
淡い緑、深い緑、黄みがかった緑。
彼女はいつも一点だけ、緑色の品を見につけている。
例えば淡い緑のカーディガン、深い緑のシルクスカーフ、黄みがかった緑の
ロングスカート等等。身につけた緑の品々は、白い肌と少し色の淡い流れるよ
うな長い髪によく映えていた。
書架を眺める合間にふと顔をあげた時、貪るように本を読み終えてふと息を
抜いた時、その緑の彩りが視界をよぎる事が何度かあった。
目の前の席、萌黄色の薄手のカーディガン姿の彼女。
カップを持つ白い手、指先の爪は奇麗に整えられて薄く塗られたオレンジの
マニキュアが艶やかに光って、少し伏せた目はまばたきをするたびに長い睫毛
が影を揺らめかせている。
時折、ちらりと見上げるような視線。
何かをもてあますように、がテーブルを軽く叩くように動く白い指。
微かに開きかけて、閉じる唇。
落ち着かない。
それは自分だけでなく、彼女もなのだろうか。
淡い緑色の影。
緑は安全を示す色、ともいう。だが、違う。
危うい予感。初めてあの緑の影を見た日から、それは既に自分の中に侵食し、
知らぬうちに自らを絡めとる、なにか。
早くこの場を立ち去らなければいけない気がする。
雨がやむまで。
雨がやんだら。
だが。
ガラス窓を伝う雨。テーブルの上の白い陶器。
目の前に座っている彼女。
矛盾している。
まだ少しだけ降り続いていてほしいと、心のどこかで願っている。
時系列
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2000年3月下旬
解説
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追跡のかほるさんと、いよいよ追い詰められ気味の東っち。
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以上。
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