[KATARIBE 30043] [HA06N] 小説『風春祭断片・その十二』

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Date: Sat, 05 Aug 2006 01:35:50 +0900
From: furutani@mahoroba.ne.jp
Subject: [KATARIBE 30043] [HA06N] 小説『風春祭断片・その十二』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20060805011817.344B.FURUTANI@mahoroba.ne.jp>
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2006年08月05日:00時19分47秒
Sub:[HA06N]小説『風春祭断片・その十二』 :
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
なかなか進まない武道大会、現在「あいおぶざたいがー(ろっきーのてーま)」
を連荘で聞きつつ書いています。
……が、そんでもごろごろしつつ書いてます。
まだ途中です。

それと、真帆の立っている位置、また、試合の前に声をかけるかどうかについ
ては、実は先にねこやさんが書いて下さっているのですが。
真帆は絶対に、他人から見て判るようなリングの近くには行かないってのと、
どう宥めすかしても、試合の前に声をかけるなんて真似はしてくれないのとで、
一部変えております。
少なくとも真帆の行動は……こうであるということで。

**************************************
小説『風春祭断片・その十二』 
============================
登場人物 
-------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。 
 東治安(あずま・はるやす) 
     :吹利県警警備部、公安の人。『不可視の東』の異名あり。 
 薗煮広矢(そのに・ひろや) 
     :吹利県警広報。明らかに就職先を誤ったノリノリ企画人。 
 東かほる(あずま・かほる)
     :東治安の妻。現在別居中らしい。
 東みちる(あずま・みちる)
     :東治安の一人娘。ピレネー司令のファンらしい。
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍して姓が変わる。基本的に語り手。 
  
本文 
---- 



 結局、戻った時には尊さん達の試合は終わっていた。
 勝負は相打ち。両方とも倒れて動けなくなったところで試合終了。
 
 ってことは。

「さあ」
 相変わらずの名調子で、マイクからの声が響き渡る。
「春の風舞う風都ことこの吹利市吹利県警特設会場にて、まさに風春祭クライ
マックスとも言える奉納試合決勝戦が始まろうとしています」

 つまり、そういうことで。

「いずれ劣らぬ闘士達やねえ」
「以前の試合に引き続き、今回の試合の実況は私、吹利県警交通部薗煮広矢と
解説に吹利県警生活安全部少年課課長桃実幸さんでお送りします」
 どうもよろしうに、と、アナウンサーの声とは対称的に、どこかほころびた
ような呑気な声が聞こえる。

 隣では、小さなお嬢ちゃんがどこか緊張したような顔でリングを見ている。
 手には、多分休みの間に買ってもらったのだろう綿飴を抱えている。誰が描
いたのか、袋にはデフォルメされた、でも耳を付けた本宮さんと判る男が描か
れていた。

「さぁっ、決勝に勝ち残った戦士が今っ、今っ、リングに向けて一歩、また
一歩と歩を進めて参りますっ! 」

 何とも大袈裟なアナウンスに、それでも周りからは歓声があがる。声だけな
らともかく、斜め後ろの男性が振り上げた拳が、お嬢ちゃんの綿飴の袋を危な
いところで叩き落しかけた。

「あっ」
「っと」
 無論その男性も慌てて手を出したのだけど、位置的にこちらのほうが早くて。
「はい」
 指先で支えた袋を手渡すと、お嬢ちゃんは小さな声で、でも嬉しそうにあり
がとう、と言った。
「……マメシバン、好きなんだ?」 
 少しだけ屈みこんで、お嬢ちゃんと視線を合わせる。
 後ろでは相変わらずアナウンサーが何か叫んでいる。横に立っているお母さ
んが、少し困ったように……そしてほんの少し人見知りしているような顔でこ
ちらを見ている。
「うん、大好き!」 
 お母さん似の可愛らしい顔がほっこりとほころぶ。八重桜の開く様のように。
「誰が、一番好き?」 
 何となくつられて笑いたくなるような笑顔に、ついつい尋ねる。
 答える前に、お嬢ちゃんは少しはにかんで、口元を綿飴の袋で隠した。
「……ええとね、ピレネー司令、好きなの」 
 あ、やっぱり本宮さんは女の子(それもちっちゃな子)に人気があるな、と
思っていたら。
 その年頃にしては、不思議なほどに静かな声で、彼女は言った。
「あとね…………ドーベルマン博士」
「……ドーベルマン博士」
 思わず繰り返した、その背後から。
 一際高らかな声が。

「今、両選手の入場ですッ」

 はっと、お母さん……つまり恐らくは東さんの奥さんがリングのほうを見る。
 つられたように、お嬢ちゃんが視線を動かした。

「片や、吹利県警にその名を知れたヤクザも避けて通る男、通称ヤク避け相羽
こと吹利県警刑事部の相羽尚吾!」
 おおおお、と地鳴りのように響く声。多分、刑事部の皆の声。
 その声に……相変わらず相羽さんは少しも揺らがない。平然としてリングに
上がり、二歩、中央に向かって進んだところで、ぐっと拳を突き上げた。
 どよめくような声が、あがった。

「そして、片や吹利県警の精密機械の呼び名も高い、吹利県警警備部公安一課
不可視の東こと東治安!」
 どんどん、と、文字通り地鳴りのような音。さっきの盾の面々がまた立ち上
がって、盾を地面に打ち付けている。
 同時にあがる、どよめくような声。その声さえ耳に入っていないかのように、
全く揺らぐことなく東さんがリングに上がる。
 お嬢ちゃんの目が、すうっとその後を追う。

「……おとーさん」 

 小さな唇から、こぼれた言葉は、小さいのに酷く重くて。

「…………そっか」 
 思わず、手を伸ばして頭を撫でる。
 さらさらと、頼りないほど細い髪の毛が指に沿って流れる。

 おとうさん。
 おとうさん、勝つと
 おとうさん、勝つといいね

 喉のところまで出てきた言葉が……でもどうしても声にならない。

 後ろの奥さんは、黙ってリングのほうを見ている。
 一途すぎる目で、リングのほうを見ている。

 ……もしも。相手が相羽さんじゃなければ。
 多分あたしはこの二人を応援するだろう。一緒になって東さんを応援するだ
ろう。
 つい、そう思ってしまうほどに……
 二人の視線は、重かった。

 リングの上では、相羽さんと東さんが向かい合っている。丁度あたし達は、
二人を均等に見ることが出来て……でも表立って向こうから見えるかどうかっ
て位置に並んでいる。
 ふと、思う。
 この……東さんの奥さんも、やっぱりリングの傍に立つことに躊躇いや惑い
があるのかな……って。

 リングの上で、相羽さんはどこかしら相変わらずな表情のまま、東さんを見
ている。反対に東さんは、どこか堅苦しいほどの真面目な顔で、相羽さんを見
ている。
 不意に、にやっと笑って相羽さんが何かを言った。対峙する東さんは、やは
り真面目な顔でそれに応えている。

「…………あなた」
 小さな声に、少しだけ横を見た。
 張り詰めるほど必死な眼差しで、その人は東さんを見ていた。

 
「さあ、激戦を戦い抜いてきた両名、にらみ合っております──さぁ、そろ
そろ時間いっぱい、さぁいざ、いざいざッ、ついに試合が始まりますッ!」

 絶叫する声と同時に。
 リングの上で……何かが炸裂したような、そんな気が。
 一瞬。

               **

 公安と刑事部。応援の様子を見る限り、この二つの部署自体、仲が悪いのか
なとも思ったりする。でもそれとは別に、もしかしたら東さんと相羽さんて、
仲が悪い……というか、結構強烈にライバル意識とかあるのかな……と、これ
は途中、二人が見合っている時に思った。

 本宮さんとの試合を見ていても、精密機械という呼び名がぴったりだ、と、
こういう格闘技に疎いあたしも思ったのだけど。
 相羽さんと対峙していると、余計にそう思う。例えばマーチ、二拍子のリズ
ムに似た……と考えて、それ以上に。
(メトロノーム)
 かちこちと、一律に拍子を刻むあの器械を連想させる。
 どうしてと言われると、困るのだけど。
 反対に相羽さんの動きは、東さんに、時に先んじ時に後発する。上手くいっ
たのかいってないのか、あたしの目では判別できないことのほうが多いけど。

 そう、どちらが勝っているのか、あたしにはよく判らなかった。
 確実に、互いに相当強い打撃を与えていると思う。それは音からも、殴りつ
ける手の早さや鋭い蹴りの動きからも確かで。
 どす、と、まるで砂を詰めた靴下か何かで殴ったような音。
 それをでも、双方ダメージとも思っていないかのように無視して。

 東さんの拳が、相羽さんの肩を狙う。
 相羽さんの拳が、その突き出された腕の、肘の辺りを狙う。

「…………っ」
 小さな、息を呑む気配が隣から伝わった、直後。

 かんかん、と。
 これで何度目かの鐘が鳴った。


時系列 
------ 
 2006年4月23日 

解説 
---- 
 風春祭の風景。いよいよ最終戦……なんですが、まだ続きます。
******************************************** 

 てなもんです。
 ではでは。
 



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