[KATARIBE 30039] [HA06N] 小説『風春祭、暗躍する者』

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Date: Sun, 30 Jul 2006 22:53:26 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30039] [HA06N] 小説『風春祭、暗躍する者』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年07月30日:22時53分26秒
Sub:[HA06N]小説『風春祭、暗躍する者』:
From:久志


 久志です。
風春祭ちょっぴり取っ掛かりなど。

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小説『風春祭、暗躍する者』
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登場キャラクター 
---------------- 
 薗煮広矢(そのに・ひろや)
     :吹利県警広報。明らかに就職先を誤ったノリノリ企画人。
 刑事部部長
     :既に薗煮の手の上。

暗躍者
------

 吹利県警、とある一室にて。
「これが?」
「はい、新企画です」
 デスクの前、居住まい正しく答えたのは薗煮広矢。デスクに座った壮年の男
は吹利県警刑事部長。
「しかし、この総合格闘技ルールというのは……」
 手にした資料に目を落とし、眉をしかめる。一癖も二癖もある刑事連中を束
ねる部長を務めるだけあって、流石に企画の者達のように勢いのままに押し流
されない。
「いえ、総合格闘とはありますがキチンと安全を考慮したルールに則ったもの
です。それに長年の栄えある優勝者を多く抱える刑事部にとってはその力をい
かんなく発揮できる大会であると信じています。よもや刑事部が他の部に遅れ
をとるなどとはありえないことでしょう」
 ふと、目を細めて口元に小さく笑みを浮かべる。どこか意味ありげにも見え
る薗煮の様子に刑事部長が憮然とした様子で口を開く。
「無論だ。中村、相羽、本宮をはじめとした過去の優勝者である熟練者達に、
九州からの要員である葛城、これらの猛者が集う刑事部が他部署に劣るなどと
いうことはありえない」
「そう、でしょう、ね」
 意味ありげに不自然に言葉を切る薗煮の様子に眉根を寄せる。
「どういうことだ」
「いえ、確かに層の厚さ実力共に刑事部は県警内でもトップクラスと言えるで
しょう。ただ」
「ただ、なんだ」
「長年の実績を持つ中村さん、最凶コンピの異名をもつ相羽、本宮両名、九州
からきた火の国の男こと葛城さん。この布陣はまさしく隙無しですね、素晴ら
しいです」
 ですが、と。意味ありげに言葉を切る。
「見過ごせないダークホースがいらっしゃるのをお忘れではありませんか?」
「ダークホースだと?」
 ちらりと顔を動かさず視線だけを向けて薄笑いを浮かべる。黒ぶち眼鏡の向
こうの細めた目が微かに光ったのは気のせいか。
「吹利県警警備部……私の古巣でもありますがね」
「……っ」
 壮年の刑事部長が一瞬身を乗り出しかけて止まり、また座る。
 刑事部と公安を有する警備部。かつては何かと対立の構図になった勢力。
 叩き上げの個性の強い刑事と、秘密主義エリート意識の強い公安とでこれま
でに何度もぶつかった事のある、いわばライバル同士といったところか。今で
は交流を増やしあらぬ対立を避ける動きになっているが、それでも互いにどこ
か対抗心を持っているのは吹利県警も例外ではない。刑事連中を慕う機動捜査
隊の若者達、公安に誇りを持つ機動隊の若手達などは時たま苛烈なほどの対抗
意識を持つケースもあった。
 この壮年の刑事部長と警備部の部長を務める男も、元は同期の桜であり互い
にライバル視しながら県警での地位に登ったという。県警内でも有名な好敵手
同士だった。
「……精密機械、東か」
「さあて、まだ警備部からの精確な情報ではありませんがね」
「しかし、まさか」
「いやあ、侮れませんねえ。警備部も虎の子を出してくるとは、しかも情報は
こちらに見せず手の内で、と。らしいといえばらしいかもしれません」
 噛みしめた奥歯の微かに軋む音。
「わからなくなってまいりましたねえ。精密機械、不可視の東。表には決して
出ないながらもその実力は皆が知るところ……これはよもやの大番狂わせが起
こるかもしれませんね」
 わざとらしく両手をあげて首を振る。
「うかうかしていられない、ということでしょうか」
「……なんだと」
「そうそう警備部だけではありませんねえ。今年は生活安全部も見逃せません」
「何?」
 ぐ、と。机の上で拳を握り締めて薗煮の顔を見る。
「ええ、あの中村さんのライバルだった生活安全部の桃実課長。出場はなさら
ないご様子ですが、その配下である若手二人……あの本宮史久の弟、黒の系譜
が一人本宮和久、圧倒的な筋肉美を誇る波佐間光孝。いやはやこれはひょっと
するとトップ3が入れ替わる可能性も……」
「待て!」
 思わず机を叩き立ち上がる刑事部長を悠然と見る薗煮。
「いい……実にいいです。楽しみな試合が見れそうではありませんか。部長殿」
「我らが……我ら刑事部が遅れをとるなどありえない!」

 刑事部、押さえた。
 口元を歪めて笑う薗煮の胸の内。既に各部各上層部にその魔の手はいかんな
く忍び寄っていた。

時系列 
------ 
 2006年2月頃
解説 
---- 
 吹利県警風春祭企画根回し、薗煮広矢刑事部で暗躍するの巻。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 薗煮まで黒さがとまらない。


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