[KATARIBE 30036] [HA20N] 小説『目安箱』

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Date: Sat, 29 Jul 2006 23:40:41 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30036] [HA20N] 小説『目安箱』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年07月29日:23時40分41秒
Sub:[HA20N]小説『目安箱』:
From:久志


 久志です。
 ちまっと誠太郎パパを動かしてみた。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
小説『目安箱』
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登場キャラクター 
---------------- 
 真越誠太郎(まこし・せいたろう)
     :西生駒高校化学教諭。マッドかつ良識派という極端な人。
 暗井閑(くらい・しずか)
     :西生駒高校二年。オカ研所属のテレパシスト

エセ白石さん
------------

 西生駒高校、一階にある化学準備室。
 入り口の脇には手製のポストらしきものが設置されており、表面に張られた
紙には丁寧な字で『質問や相談などがあったらご自由に』と書かれている。
 目安箱を設置したのはもちろん化学教師、真越誠太郎である。生徒達との交
流と理解を深める為にと大真面目にはじめたものだが、実際は真面目な質問や
相談を投げかけるのは一握りにも満たなかった。

「……うーむ」
 化学準備室の作業机に山とつまれた投稿を前に、思わず頭を押さえる誠太郎
だった。想像以上の反響に正直圧倒されていた。
「よし、地道にいこう」

『愛はどこに売っていますか?』
『リュウとケンはどっちが強いんですか?』
『化学がわかりません、あと爆発はロマンですか?』

 はっきり言って遊ばれている。

「愛は売っているものではなく与えるものだと先生は思っている、と」
 しかし莫迦正直に答えている。
「リュウとケン…………漢字数の差でいうと、ケンのほうが多いのではないか
と思う。実際計測したわけではないのでしばし時間が欲しい」
 どうやらゲームは知らないようだ。
「化学でわからないところがあったらいつでも質問に来てほしい、できるかぎ
り理解できるように説明したいと思う。あと爆発はロマンというか爆破という
状況に対し高揚感を感じるような気がする、うまく説明できないが確かに爆発
というものにはどこか心惹かれるものを感じているのは確かだ」
 但し、と文を続け。
「だが、火器の取り扱いは充分注意をせねばならないと思う、君も火の取り扱
いには充分注意して欲しい」

『かゆ……うま……』
 もはや質問ですらない。

「書きかけの文章のようだが、おかゆがおいしいということなのだろうか? 
確かにこれから暑くなる時期、体力の落ちたときにはおかゆのような胃に優し
いものを摂取するのはよいことだと思う。季節の変わり目に体など壊さないよ
うに」
 書き終えてひと段落、しかしまだ先は長い。傍らに置いた湯呑みを手に取り
まだ山のように詰まれた投稿を見て溜息をつく。
「…………しかし、多いな」
 このうち九割がさっぱり質問とも相談ともつかない謎の文ばかりで、正直返
事を書くにも一苦労だった。

『生物準備室に住んでも良いですか』
「申しわけないが、学校は学び舎であり。住むところではない。もし家庭に何
か事情があるということならば、私でよければ相談にのるのでいつでも化学準
備室まで来てほしい」

『キラは正義ですか』
「キラ、というのはよく知らないが。史実からみると吉良上野介はさほど悪で
もないように思う。参考になるといいのだが」

『手段は目的を正当化するといいますが、進学は手段ですか、それとも目的で
すか』
「手段にこだわりすぎて目的を逸してしまうのは本末転倒だと思う、まずは目
標をしっかりすることが大切だと思う。また進学はあくまで流れの一つであり
目的とはその先にある君の学生生活にあると思っている、進路で悩みがあった
ら躊躇せずに進路指導に相談をするといいと思う」

『フッ素を最初に単離した人は、どんな容器にガスを保存したんですか』
「調べたところによると、フッ化水素は1771年カール・シェーレにより発見さ
れていたが単体のフッ素はその酸化力の高さゆえ単離は大変難航したらしい。
1886年、アンリ・モアッサンがフッ化カリウムKFをフッ化水素に溶かした溶液
を電気分解により還元し、蛍石を捕集容器に使うことで単離に成功したようだ。
これまでにもフッ素による病気や漏れたフッ素で死亡した多くの科学者達の死
を積み重ねて得られた結果だと思う。多くの犠牲の上になりたつ今の化学は尊
いと思っている。これで少しでも君に化学や数学といった理系に興味を持って
くれることを祈っている」

 どんな質問にもあくまでも真面目一辺倒に答えている。

『温度を上げると薬が水に溶けやすくなるんですけど、溶けやすくなる度合い
が塩化ナトリウムと例えば硫酸銅で違うのは、何がどう違うんですか』
「この件に関して、まずエントロピーとエンタルピーという用語の説明からは
じめたい。エントロピーとは熱力学的に、マクロな系への熱の移動を表す示量
性状態量。エンタルピーとは、熱力学における示量性状態量のひとつ。溶解と
は定温・定圧条件での反応なので、どこで平衡になるかは反応前後のG(ギブ
ズの自由エネルギー)の差で決まる。Gの差というのは、エンタルピーの値H
の差から、エントロピーの差と絶対温度Tの積を掛けた物を引いたものになる
のだが、物質によってエントロピーの差が違うので、自由エネルギーの温度に
よる変化も物質ごとに異なり、これにより物によって温度上昇による溶解度の
変化が異なるという事が起きる」

『化学やってると計量がうまくなるみたいですけど、先生は料理は得意ですか』
「計量は日常的におこなっているが、料理は生憎得意とはいえない。加熱にか
かる時間や包丁による材料の加工はそれなりに行うことはできるが、それら全
てをあいまった調理となるとなかなか想定した味にしあがらないことがある。
不思議なものだ」

『掌の中の酸素濃度を調整するコツはありますか』 

「先生、大変ですね……」
 ふと顔をあげると、化学準備室に誠太郎の担任のクラスの生徒である暗井閑
がひょっこりと顔を出していた。
「ああ、暗井君か」
「お手伝いします」
「ありがとう、なかなか質問が多くてね」
 困ったように笑う誠太郎から質問の束を半分受け取ると、手にしたペンでサ
ラサラと答えを書く。
『自分で調べろ。』
「次。」
「…………ええと」
 一瞬何かを言いかけた誠太郎に構わず、閑は次の質問に取り掛かっていた。
 どう考えても誠太郎の文と影武者の文で違いが明らか過ぎる答えだった。

 しばらく、カリカリと答えを書く音だけが化学準備室に響く。
「ふぅ、しかし、悩みを抱えた生徒が多いね」
「…………」
 おちょくられてるのに気づけよと言いたげな閑の視線に少し苦笑する。
「まあ、一部はふざけたものもあるかもしれないが、それでもやむにまれず相
談を投げている可能性だってゼロじゃないからね。ちゃんと答えてあげないと
いけないと思うんだよ」
「先生はいい人ですね。」
「……そうかな……悪人になりたくないだけかもしれないが」
「それでもいい人ですよ」
「ありがとう」
 小さく笑って、席を立つ。
「お茶でも淹れよう、買っておいた桜餅もあるから食べていくといい」
「……はい。いただきます」
 いつの間にか三分の一ほどに減った質問用紙を少し済に寄せて。ポットから
淹れたお茶を手にする。穏やかな化学準備室の光景だった。

時系列と舞台 
------------ 
 2006年6月頃 
解説 
---- 
 目安箱の対応に右往左往する誠太郎とお手伝いをする閑。
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以上。

 エントロピーとかの説明にはキリエどんの答えを参考にしました、てへ。
しかし先生、教え子とはいえ二人きりでおやつとか食べていいんですか。



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