[KATARIBE 30035] [HA06N] 小説『淡緑の影』その7

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Date: Sat, 29 Jul 2006 16:46:40 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30035] [HA06N] 小説『淡緑の影』その7
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2006年07月29日:16時46分40秒
Sub:[HA06N]小説『淡緑の影』その7:
From:久志


 久志です。 
 ちまちま進めるの図。
でもまだ自己紹介してないよ、どうなってるの(涙)

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小説『淡緑の影』その7 
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登場キャラクター 
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 東治安(あずま・はるやす) 
     :吹利県警警備部、公安の人。2000年当時巡査。二十半ば程。 
 坂口かほる(さかぐち・かほる) 
     :吹利に引っ越してきたイラストレーターのお姉さん。 

曇り空 〜東治安
----------------

 窓の外は日が昇って大分経つというのに、灰色に淀んだ雲に覆われた空のせ
いか大分薄暗い。日曜日の図書館、窓から見える中庭は人の姿はまばらだった。
これが晴れた日ならば、よく手入れされた庭木の緑は鮮やかに映え、野暮った
いコートなど脱ぎ捨てたくなるだろう。レンガ敷きの道は駆け回ってボール遊
びに興じる子供達や、ペットを連れた老人や散歩に立ち寄る親子連れで賑わっ
ているはずだ。しかし今日は濃淡の灰色の絵の具をデタラメにかき回したよう
な曇り空の下、新緑で覆われた庭木も心なしか沈んだ重苦しい印象を受ける。

 表面の毛羽立った古い深緑のソファに腰をおろし、手にした本の頁を手繰る。
日曜の午前中、そこはかとなく人の姿は少ない。ニ三頁を辿りながら、何故か
普段と違う妙な感覚に囚われてる自分に気づく。
 何故なのか。この憂鬱な空のせいか? ここ数日続く肌寒い日々のせいか?
 もしくは――
 手にした本から顔をあげる。視線の向きは変えないままで、だが視界の片隅
に捕らえられてる姿。
 茶色がかった少しくせのある長い髪、萌黄色の薄手のカーディガンを羽織り、
細い体によく合うベージュの巻ロングスカート姿の彼女。書架の影から本を探
しながら、時折顔をあげる仕草。気取られないようにと振舞いつつも、だがこ
ちらには全てわかってしまっている。
 何故、彼女は自分を見ているのだろうか。
 どうして巧妙に隠しているはずの自分の存在を捕らえられたのだろうか。
 どこか落ち度があったというのだろうか。

 落ち着かない。
 しかし、これは観察されているという緊張からくる落ち着きのなさとはまた
別の何か。違和感とも不快感とも違う――不可解な緊張。自身の中にある得体
の知れない何かに戸惑っている。
 淡い緑色の影。
 相変わらず、その姿は緑の紗の向こうで。まるでマジックミラーのように、
相手はこちらを見ていても、こちらは相手の姿を見ることができず。

 落ち着かない。
 危うい予感がする。ひどく危険で、後戻りのできない、だが既に自分はその
一端に足を踏み込んでしまっているかのような。

 ふと中庭を眺めようと顔をあげると硝子に幾筋もの細い線が伝うのが見えた。
今朝見た予想では午前は降水確率30%と告げていたはずだが思ったより早く
崩れてきたようだ。降りだした大粒の雨の中、窓の向こうで足早に駆けてゆく
人を見送りながら。
 じわじわと這い降りるように窓を伝う滴を見つめる。通り雨だろうか。この
様子だと当分身動きできそうにない。ここは休憩と昼食をかねて二階のカフェ
に移動したほうがいいかもしれない。
 朝からさっぱり読みすすめられていない本を片手に、カウンターへと向かう。
今は本の内容が全く頭に入らない。

 背後に感じる気配。
 振り向かなくてもわかる。
 歩き去る自分の背を目で追っている彼女の姿を。

 危うい予感がする。
 もう既に引き返しようも無いところに来てしまっている、そんな予感が。

時系列 
------ 
 2000年3月下旬 
解説 
---- 
 午前中の図書館、落ち着かない東っち。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。 




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