[KATARIBE 30027] [HA06N] 小説『野望渦巻く風春祭』

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Date: Sun, 23 Jul 2006 00:21:38 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30027] [HA06N] 小説『野望渦巻く風春祭』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年07月23日:00時21分38秒
Sub:[HA06N]小説『野望渦巻く風春祭』:
From:久志


 久志です。
風春祭ちょっぴり取っ掛かりなど。

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小説『野望渦巻く風春祭』
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登場キャラクター 
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 薗煮広矢(そのに・ひろや)
     :吹利県警広報。明らかに就職先を誤ったノリノリ企画人。
 吹利県警の方々
     :すっかり飲まれてる様子。

企画会議中
----------

 吹利県、吹利県警。
 窓の外は冷たい二月の風が低くうなるように響き、時折年季の入った建物を
軋ませる微かな音が混ざる。
 少々手狭な感覚を覚える会議室、かつては白かった壁は長年の月日でくすん
だ灰色のまだら模様を作り、所々小さなひび割れの跡も見える。
 部屋の中央には四角を描くように折り畳み机が並び、その周りに神妙な面持
ちの十数名ほどの男達がスチール椅子に腰掛けている。初老から中年、若手と
年齢は様々、そして一人の例外もなく机の窓側席に腰掛けた一人の青年の姿を
じっと見つめている。この男は一体何をしでかすのか、と言いたげな。言葉で
表すならば、畏怖、不安、または興味といった視線だった。
 窓にたたきつける風の音が響く。
 息も詰まりそうな沈黙が続く中、机の上で両手を組んだまま無言を続けてい
た男がゆっくりと顔をあげ、机を囲む面々の顔をゆっくりと見回した。
 男――薗煮広矢、昨年末から何かと県警を騒がせている熱血企画人。
 年齢からすると童顔といっていい顔立ちだが、口の端を小さく吊り上げて笑
う顔は、どこかよからぬ企みを腹に秘めた悪童を思わせる。
 不敵な笑みを浮かべ、逆光で黒ぶちメガネのレンズがうっすらと光る。
「さて、いかがでしょう?今度の風春祭の案は」
 レンズの向こう、わずかに細められた目は寸分の隙も無く、強固な意志と自
信に溢れていた。
 薗煮の発言の後、慌てて視線を交し合う者達。だが、この場にいる者誰一人
圧倒的な存在感と意志を秘めた薗煮にかける言葉が出てこない。
 数度視線を交わしあいながら、数名に促されるように最年長と思われる初老
の白髪交じりの男が口を開いた。
「しかし薗煮くん、この総合格闘技ルール、というのは……」
「そこです」
 たん、と。待ってましたとばかりに薗煮が席を立つ。もはや完全にこの場は
支配空間だった。
「懸念として……昨今、我々警察という存在が母親化していると思うのです」
「……母親化?」
「そうです。危険なものは排除し、子を包み込み、争いや競争といったものか
ら遠ざける。母親的な『守る』存在です。これは決して間違ってはいません、
ですが」
 ゆっくりと言葉を切って周囲を見回す。
「だが時に危険としりつつ、それをあえて止めず、そっと背中を見守り、誤っ
たときに道を修正する、叱るべきときには威厳をもって子を叱る。これこそが
父親的な『威厳』としての存在です。そのどちらが欠けてもいけない」
 それとこのルール案と何か関係が? と、誰一人つっこむことができない。
「確かにこの案を提出するに当たり、数名の方からご指摘のあった、暴力的な
企画を警察自らが行ってよいのか、という忠告は私も深く受け止め、万が一の
事態が無いよう研鑽しました」
「だ、だが……風春祭は子供や家族連れも多く訪れるイベントで、子供達が真
似をするようなことが……」
「それこそが、大人の浅はかな考えです!」
 ぴしりと返された言葉に思わず初老の男がびくりと動きを止める。階級で言
えば薗煮より軽く四つ以上うえに当たるはずだが、立場は完全に逆転している。
「暴力的なシーンを見せれば、あるいは実戦に近い闘いを見れば子供が安易に
真似をすると本気でお思いですか? それは大人の安易な考えです。むしろ、
逆にこちらが真剣に闘いとはこういうものであり、決してゲームや漫画の中だ
けの出来事ではないということに触れる絶好の機会ではありませんか! 我々
が体を張って闘う姿を見せることで子供達や市民達に我々警察の父親的な役割
としての威厳を示すべきです」
 静かに椅子に腰を下ろし、目を細める。
「この企画、必ず私が成功させてみせます。いえ、私でなければできません」
 もはや完全に制圧された一同は、ただ薗煮の言葉に頷くだけだった。

 ***

 日も落ちて、明かりも消えた会議室。
 胸ポケットから取り出した携帯から番号を手繰り、小さく口元をつりあげて
笑う男が一人。
「俺だ」
『どうだ?そちらは』
「成功だ、企画は通した。後は我々の腕にかかっている」
『そうか!こちらは任せておけ、最高の舞台を用意する』
「頼んだぞ」
 携帯をしまい、薄く笑う。
 窓から差し込む月明かりできらりと黒ぶちメガネのレンズが光る。

「やってやるぜ!」


時系列 
------ 
 2006年2月頃
解説 
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 吹利県警風春祭企画会議にて、薗煮広矢暗躍するの巻。
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以上。



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