[KATARIBE 30026] [HA06N] 小説『風春祭断片・その十』

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Date: Sat, 22 Jul 2006 02:25:13 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30026] [HA06N] 小説『風春祭断片・その十』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年07月22日:02時25分13秒
Sub:[HA06N]小説『風春祭断片・その十』 :
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
殺陣のシーンなんて大嫌いです(号泣)
というわけで、劣化劣化な話。

……てゆかだなあ狡猾とかそんなよくわからねー戦いかたを(以下略)

******************************************** 
小説『風春祭断片・その十』 
======================== 
登場人物 
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。 
 中村辰彦(なかむら・たつひこ)
     :吹利県警刑事課暴力団対策班長。マル暴中村と恐れられる鬼刑事。中村蓉子の父親。
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍して姓が変わる。基本的に語り手。 
 
本文
----
 
 ざわざわと人が動く。
 ジェラルミンの盾の人々が、すっと後ろに引いている。反対側にいた人達が、
ざわざわと移動するのがわかる。

 シードなんだよ、と、相羽さんは言った。
 やっぱりこの人は強いのか、と、納得しかけると、笑って『くじ引きだよ』
と言われた。
 
 ……それで、中村さんってのは、運が良いのか悪いのか。

「刑事部の連中、困ってないかな」
 女性の、少し低めの声が……やっぱり少しだけ低い位置から響いた。
「ああ、中村さんと相羽さんですものねえ」
「同じ部署だから……ね」
 斜め後ろ。この二人の声には覚えがある。確か総務課に一度だけ行った時の。

「さあ、第五試合」
 アナウンサーの人の声は、回を追うごとに楽しげになる。跳ねるような勢い
といかにもノッてます、みたいな口調。
「ここで登場するのがシード選手、吹利県警のヤク避け相羽こと相羽尚吾だ!」
 呼応するように、うおーっと声があがる。
 人気があるとは知ってたけど、その声は大きくて……実際かなり驚いた。
 上がった声は、どよめきから意味のある言葉になる。あいば、あいば、と、
拍子をとるように揃いだした声に、相羽さんは振り返ると、ぐっと拳を突き上
げてみせた。
 おおーっと……どうやら応援している人達が、拳を突き上げて応じている。
 何てか、そういうところはほんっとに……ノリが良いというか、サービス精
神旺盛というか……。 

「対するは県警の組長こと中村辰彦!」
 やはりどよめくような声が起こる。声量としては相羽さんのときと互角、た
だ強いて言うなら……相羽さんの時に声をあげた面々のほうが、若い人が多い
ように見える。
 県警の若手に、講師として色々教えたりしているわけだから。
 そういう意味では……人望あるんだろうな。
 しかしアナウンサーの勢いでついつい聞き逃したけど、県警の組長って……。
蓉子ちゃんが聞いたら、泣くぞある意味。

 相羽さんがにやりと笑って、何か言ったようだった。
 対する中村さんは……何か一言、切って棄てるように言い返したようだった。

 少し離れたところに居る、蓉子ちゃんの顔が目に入る。
 両手を握り締めて、身を乗り出すようにしてお父さんを見ている。

「刑事部の両虎、相打つこの一戦!」
 アナウンサー氏の声は、ただひたすら明るい。明るくて勢いがいい。
 中村さんは、以前道場で見た時のまま、どこかむっつりとした、確かに組長
然とした表情。対する相羽さんは……いつもの、どこか人を食ったような笑み
を浮かべている。
 一瞬の沈黙。そして。

「はじめぇっ!」

 その声の響いた瞬間、相羽さんの表情が切り替わった。
 切り替えは良いほうだよ、と、何度か相羽さん自身言っていたし、あたしも
それはそうだと思っているし、知ってもいる。いや、知っている積りだったけ
ど。

 さて、いきますか、と、多分そんな風に口元が小さく動く。
 と、同時に、口元の笑いの影が掻き消える。
 ただ、目だけが……ぎらり、と、良く研いだ刃に似た光を浮かべて細められ。

 そして、次の瞬間。
 二人は、真正面からぶつかっていた。



 強い、とは思っていた。有能で強くて……だからどんなところにも入ってゆ
ける人だ、と。
 狼に喩えたこともある。どこにあっても一匹、決して負けることの無い狼に。

 だけど。
 それがどれだけ的を得た喩えであったか、そしてどれだけこの人がつよいの
かを。
 あたしはこの日、初めて目の当たりにしたように思う。

 本宮さんの時には、全身これ棍棒のようだと思った。細心のバランスと絶妙
な動きで統御された、何本もの棍棒のようなものだと。
 相羽さんは少し違う。棍棒というより……そう、この人は刀だ。ぎりぎりま
で研ぎ澄まされた一本の刀。それ自体に、かなりの重みのあるその刀が必要最
小限の弧を描いて相手に打ち込まれてゆくような。
 対する中村さんは……木刀の印象。但し単なる木刀じゃなくて、中に鉛でも
仕込んでいそうな。だから、打ち込む拳も蹴りも、痛いというより骨に響きそ
うな重さを連想させる。それらが暴風の勢いで突き進んでくる、そんな印象。

 でも、判る。
 相羽さんは……強い。

 暴風のような中村さんの打撃を一旦受ける。その受けた位置、近距離から打
撃を返す。ぶつかる相手の、半拍ほどずれたタイミングで手が伸びる。それが
どの程度相手に不利かはわからないけど、ただ、中村さんの表情から、かなり
戦いにくい相手なのだ、と、その程度はわかる。

 中村さんは強い。
 ……だけど。


 おとうさん、おとうさん、と、蓉子ちゃんの声が聞こえる。
 相羽さんも、恐らくはぎりぎりのところでぶつかっているのだろうと思う。
 互いに間合いを広げた時に、断続的に聞こえる周囲の声援。あいば、なかむ
ら、と、それぞれの名前をコールする声。

 両虎、と、アナウンサーは言ってたっけか。
 虎、というよりこの二人なら。
 狼と……何だろう。ボクサーかマスチフ。一度噛み付いたら敵に首を切られ
るまで噛み砕き続けるような。

 応援の声の隙間をすり抜けるように響く、打撃の音。低い、それだけに耳に
辛い……

「おとうさんっ!」

 蓉子ちゃんの悲鳴に似た声に顔をあげた。
 中村さんの身体が、ゆっくりと傾き、崩れた。

時系列 
------ 
 2006年4月23日 

解説 
---- 
 風春祭の風景。刑事部の両虎相打つ、な風景です。
******************************************** 

 てなもんです。
 これで精一杯なんです(しくしく)

 ではでは。
 


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