[KATARIBE 30025] [HA06N] 小説『風春祭断片・その九』

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Date: Fri, 21 Jul 2006 00:07:27 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30025] [HA06N] 小説『風春祭断片・その九』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年07月21日:00時07分26秒
Sub:[HA06N]小説『風春祭断片・その九』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
亀の歩みで続いております風春祭。
さて、次も……短いです。

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小説『風春祭断片・その九』 
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登場人物 
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 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍して姓が変わる。基本的に語り手。 
 東治安(あずま・はるやす)
     :吹利県警警備部、公安の人。『不可視の東』の異名あり。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :吹利県警刑事部巡査。屈強なのほほんお兄さん。人間戦車。

本文 
---- 

 片帆はそれきり戻ってこなかった。
 もしかしたら尊さんに会いに行っているのかもしれなかった。

 観客席の外縁部、片側に、さっきから何か妙な人達が集まっている。ええと、
機動隊といえば良いのかな、全身がっちり着込んだ人が、片手に銀色の盾を持っ
て集まっている。アナウンサー代わりの人が、慌ててリングに出てきて手で合
図すると、その人達は微妙に移動して、銀の盾の表面で陽光がそのまま反射し
ないような位置に陣取った。


「さて次の試合は」
 どんな声でも自由自在、な印象のあるその人は、一瞬声を止めた。穏やかそ
うな声を、しかしその次の瞬間には、朗々と響き渡る声に変えて。
「吹利県警の精密機械、人呼んで不可視の東!」
 さっきの人が、静かに立ち上がる。と同時に先刻の盾を持った人達が動き出
した。だん、と、盾で地面を叩くと、その反動を利用してくるくる盾を廻す。
そしてまた盾をだんだん、と、地上に弾ませるようにぶつけて。
 あずまー、と、地を這うように低く響く声が、同時に立ち上る。
 それにしても、不可視の東。
(橋本君も空帆ちゃんも、あの人のこと覚えないんだよね)
 なんとなく。その理由が……判るような気が、した。
 
「相対するは連綿と続く黒の系譜が一人、人間戦車史久!」
 やはり静かに立ち上がったのは本宮さん。大柄なだけに、滑らかな動きで立
ち上がられると、本当に迫力がある。盾持つ人達と反対側から、やはり野太い
声が上がった。

 そして、同時に。
 きゃーっという……なんか高い声が、斜め後ろから。
「ピレネー司令とドーベルマン博士よっ」
「美味しいぞこの取り合わせは!」
 
 …………本宮さんにも、ええと東さん、にも、聞こえてなければいいなあ、
と、ええ、結構切実に思いました。

 しかし。
 言われてみれば、ああそうかと思う。バレンタインデーに相羽さんに送られ
たチョコ、その中にあった、『ドーベルマン博士』の名前。それにあの後、相
羽さんに見せてもらったビデオに出ていた、マッドサイエンティストの顔。
 言われてみれば……確かにこの人が、ドーベルマン博士だ。
 二人とも、嵌めているグローブの具合を直したり被っている顔の覆いを何度
か動かしたりしている。その最後の調整に似た動きの中、ざわめきが多少引い
た、その時に。

「ピレネー司令!」
 不意に、元気のいい声が横のほうで響いた。高く可愛らしい声はやっぱり元
気良く言葉を続けた。
「ピレネー司令がんばれ、おとーさんがんばれ!」


 不思議だなあと思うんだけど。
 リングの上に立っている人まで、まだかなりの距離がある。表情の細かいと
ころまで、見えているかどうかは心もとない。

 だと、言うのに。
 一瞬空気が帯電し、目に見えない稲光を走らせたように見えた……ってのは。

 一体何事。

 東さんが本宮さんを真っ直ぐに見据える。本宮さんは何か言って、この人も
真っ直ぐに相手を見据えている。

「さあ!」
 声の調子で判る。マイクを持ってる人、絶対にこの『帯電状態』に気が付い
てる。その上で……だからこそこんなに嬉しそうな声なんだ。
 マイクを握り締めて、その人はずい、と上半身を乗り出した。
「この死闘は見逃せないっ!!!」 
 絶叫と同時に……二人は急激に動いていた。


 人の身体、そのものが武器となるのを、あたしは初めて見たように思う。
 本宮さんの腕、足。それぞれが棍棒のような力感と、それに見合う素早さを
伴って動く。
 人間戦車、と、アナウンサーは言った。
 よくぞ言ったと……思わないでは、ない。
 
 反対に、東さんという人の動きは……何だろう。
 勢いはある。別にきちきち窮屈な動きでもない。
 でも……

 だん、と、盾が地面に叩きつけられる音。そしてくるくると回る残像。
 ……ああそうか、この人の動きは、機械の歯車に似ている。
 だから……精密機械、なのか。


 素人目には、全く互角のまま、第一回、二回、と進んで。
 これで最後の3分、そしてその最後の3分も半ばを過ぎた頃。
 人間戦車(なのかなあ)の打ち下ろす打撃に、東さんが少しだけ歩を乱した、
その時に。

「おとーさんっ!」

 高い高い声が、丁度盾の打ち鳴らす音の間隙を縫うように響いた。

 その声が、どこまで届いたかはわからない。何だかんだ言っても、まだ小さ
な女の子の声だ。その子の周りの人はびっくりしたようにそちらを見たけど、
その程度。

 だけど。

 東さんの背が伸びる。纏う空気ごと、ぐう、と、一回り大きくなったように
見えて。
 ああ、そういえば今日は奈々さんも幾久君も来てないや、と、それは一瞬の
間によぎった言葉。
 だから……かあ、と。
(別に理由もないのに)


 ぐん、と、打ち込まれる腕。
 本宮さんが、ぐらり、と揺れて。
(それでも完全に倒れないあたりは……人間戦車だな、とも思ったけど)

 喧騒。ジェラルミンの盾を、ぶんぶんと振り回す一団。
 そして横で、跳ねながら手を叩いている小さな少女。


 第四戦。勝者は東さん。


時系列 
------ 
 2006年4月23日 

解説 
---- 
 風春祭の風景。公安に行くかもしれなかった姫君に、
公安の王子の怒りが……(嘘です)。
******************************************** 
 
 てなもんです。
 ではでは。
 
 



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