[KATARIBE 30018] [HA06N] 小説『各陣営のつぶやき 〜本宮本家』

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Date: Mon, 17 Jul 2006 22:52:53 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30018] [HA06N] 小説『各陣営のつぶやき 〜本宮本家』
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2006年07月17日:22時52分52秒
Sub:[HA06N]小説『各陣営のつぶやき 〜本宮本家』:
From:久志


 久志です。
ちまちまと続けているお家騒動。
小説『影の観察者』の頃辺りの本家のお話。

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小説『各陣営のつぶやき 〜本宮本家』
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登場キャラクター
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 本宮良雄(もとみや・よしお)
     :本宮本家長女・淑子の入婿。立場上、一応筆頭のはず。
 本宮淑子(もとみや・としこ)
     :本宮本家長女。本宮尚久の妹に当たる。

本家のつぶやき
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 吹利県、本宮本家。
 夕暮れ過ぎ、冬の日はとうに落ち、窓の外は薄闇に閉ざされている。
 旧家然とした広い敷地内に建てられた館の中、南側の庭に面した一室。
 ゆうに十二畳はある畳部屋の中央で、本宮良雄は着物姿で腕組みをしたまま
ちょこんと胡坐を書いていた。四十半ばという歳相応に、多少頬や腹といった
ところに肉が付きよく言うと恰幅のいい悪くいうと中年太りとっかかりと言っ
た体つき。丸顔に少し垂れがちの頬、下向き眉毛に小さな丸いつぶらな目を瞬
かせる。着込んだこげ茶の着物のせいもあってか、どこかとぼけた古ダヌキの
ような印象を受ける。
「困ったなぁ……」
 溜息とともに出てくる声。

 本宮良雄。本宮本家において先代当主の長女・淑子の入り婿であり、立場上
は本家筆頭の位置にいるはず、の人物である。だが、実質表向きの権限は同格
の分家である戸萌の当主・加津子が握っているのが現状だった。人望から見て
も、かつて本宮本家を出奔したかつての跡取り息子・尚久にもその長男・史久
にも遠く及ばない。
 少々気弱なところもあるものの決して周りが思うほど無能な人間ではないの
だが、揉め事を嫌い押しに弱い気質に加えて『所詮は外様』という親族達の厳
しい見方、わけても不運なこととして、出奔した本来の跡取り息子があまりに
も優秀すぎたということも多分に影響し、良雄が婿入りしてから二十年以上経
つ今でもその地位は低いままだった。
「元久くんの後見という立場で……史久くんが本格的に動き出した……んだろ
うなあ」 
 そして、今。
 長い間変化のなかった勢力図が大きく変わろうとしていた。

 本宮の分家である青梅家から、末の息子を養子にしないかという打診を受け
たのは十二月初旬。一人娘の窓香に婿をという周囲の声が高らかに上がってい
た中でのことだった。
 青梅の末子を養子にして次期当主とし、自分はその後見をする。
 正直なところ、良雄にとっては渡りに船といった話だった。良雄自身も娘の
窓香も家を気にせず自由に相手を選ばせてやりたいとも思っていたし、何より
所詮入り婿という周囲の視線にうんざりしていたせいもある。
 本宮本家や筆頭分家の戸萌から比べると数段格式の劣る青梅から跡取りを迎
えるということに関して口やかましい縁者達の抗議はあったものの、事はすん
なりと進むはず、だった。
「困ったなぁ……」
 だが逆に、青梅から養子を迎えたことで気づいたことが一つ。
 青梅の狙いが本家だけに留まらず、分家戸萌や吹利弁護士会の重鎮でもある
元跡取りの尚久らを含めた、全てを狙ったものであるということに。

 首を捻りつつ頭を悩ませていると、部屋の襖の向こうから声が聞こえた。
「失礼いたします」
 紙のこすれる静かな音の向こう、襖の向こうで両膝をついた妻の淑子が小さ
く小首を傾げた。
「良雄さん、どうしたんです? 灯りもつけないで」
「あ、淑子さん。えーっと、ちょっと今考え事をしてて」
「そうですか、では今日のお夕飯は少し遅めにいたしましょうか?」
「えっと、はい、ちょっと後でお願いします」
「わかりました」
 それきり何も聞かずにそっと襖を閉め、廊下を歩く音が遠ざかっていく。

「うーん」
 腕組みしたまま小さく唸る。思えば、淑子と結婚を認めてもらう時にも相当
な試練を経験した記憶があった。
 

 良雄が淑子と出会った頃のこと、当時まだ二人とも大学生で、淑子は一年後
輩だった。片や名家の押しも押されぬご令嬢、対する良雄の方はというとごく
ごく普通の一般家庭の若造だった。
 当時は、淑子の父である今は亡き義父に猛烈に交際を反対され、娘に相応し
い男出なければ近づくことも許さないと一喝されたのが今でも記憶に新しい。
 また身分の差に関しても、本家本宮や筆頭分家戸萌の中心に近い親族よりも
格下の分家にあたる青梅や遠縁の人間である程、口うるさかった。

 本宮の名に相応しい男として。
 ゆらりと体を揺らして立ち上がり、腰を落とす。
 本宮の男は、一人の例外も無くなんらかの武術を極め、その実力を認められ
ねばならない。淑子との交際を認めてもらう為、手っ取り早く強くならなけれ
ばならなかった良雄が始めたのは骨法だった。
 両手を顔の前につけ、軽く拳を握り、肩の力を抜く。
「ふっ!」
 突き出された掌底は、当時がむしゃらに鍛え上げた頃の鋭さは失っているも
のの、長年積み重ねた手はイメージどおりに心に浮かべた的を捕らえていた。
「……どう動く、かなあ」

 表向き青梅からの養子を受け入れた良雄は、既に周囲から青梅の一派と見な
されている。本家での立場の弱さから考えて、分家の戸萌の後継である克五郎
や独自に支持者を多く持つ尚久からすると、組しやすいと思われて仕方ないの
かもしれない。

「……期を待つ、かなあ」
 広げた拳をゆっくりと下ろす。
 これから自分がやろうとしてることに後ろめたさを感じながらも。
「ああ、それにしてももっと情報を集めないとなあ」
 ぽりぽりと後ろ頭をかきながらぼんやりとつぶやく。

 所詮外様と見下し、あざ笑ってきた一部の親族達を見返す手段。
 自分の有利な点は、どの陣営からも脅威と思われてはいないこと。

 ならば。
 ギリギリの自分が味方につくことで力関係が崩れるというところまで価値を
高めてから、勝ち馬へ乗る。
 つまり。
 外様の尚久か、戸萌の克五郎か、その時の最良の相手を見極めて。

 最良の時を見計らって――青梅を裏切る。

「……どうなっちゃうんだろなあ、一体」


時系列 
------ 
 2006年01月上旬。
解説 
----
 小説『影の観察者』の頃。本宮本家陣営・良雄のつぶやき。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。



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