[KATARIBE 30016] [HA06N]小説『お兄ちゃんが代理です』

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Date: 17 Jul 2006 16:15:08 +0900
From: hisapon_mk2@mail.goo.ne.jp
Subject: [KATARIBE 30016] [HA06N]小説『お兄ちゃんが代理です』
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 久志です。 
葛樹お兄ちゃん、GARDENにあらわるの図。 

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『お兄ちゃんが代理です』 
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登場キャラクター 
---------------- 
 戸萌葛海(ともえ・かつみ) 
     :葛樹の妹。元気なボクっ子眼鏡な高校一年生。 
 戸萌葛樹(ともえ・かつき) 
     :戸萌家長男。名門私立春日高校に通うお坊ちゃま。 
 豊秋竜胆(とよあき・りんどう) 
      :シガーカフェGARDENの店長さん。実は吸血鬼。 
 周御鋭司(すみ・えいじ) 
      :GARDENのバイトにして実質No.2。葛海のクラスメイト。 

少し遅れます 
------------ 

『もしもし、シガーカフェGARDENですか? あ、店長さん。葛海です。はい、 
今日のバイトなんですけど、急に生徒会の作業が入ってしまって一時間ほど遅 
れます。はい、ごめんなさい。なるべく早く向かいますから』 

 生徒会執務室。 
 机の上を埋め尽くさんばかりに広げられた各部からの上申書の山。細い両腕 
を組んでじっと睨みつける。 
「このお、ボクが押せば引っ込む気弱会長さんだと思ったら大間違いだぞっ」 
 戸萌葛海、一年生ながら吹利学校高等部新任生徒会長である。 
 これはというのも理由があって、元々生徒会とは生徒らから選挙で選出され 
るものであるのだが、前任の生徒会が非常に有能かつ行動力のある――悪く言 
うと締め付けの厳しい体制であったために後継が見つからず、やむなくこれは 
と見た人材を推薦するという形式により、葛海が会長として選ばれたのである。 
 何故そこで会長として自分が選ばれたかどうかはさておき、一旦やると決め 
た以上はきっちり任をこなさなければと決意を新たに就任したものの、今まで 
の抑圧の反動のように山のような各部からの要求の山とぶつかる羽目になった 
のである。 
「とにかく、ちゃんと目を通して駄目なものはキッチリつっかえさなきゃ」 
 ちらと、壁掛け時計に目をやる。 
 一時間で終わってバイトに間に合うだろうか、少々厳しいところだった。 

お兄ちゃん心配です 
------------------ 

「それじゃ、お先に」 
「うん、葛樹くんばいばーい」 
 教室を後にして、春日高校を後にする葛樹。 
「今日はどうしようかな、図書館でも寄ろうかな」 
 美術建築設計集でも借りようか、などと思っていた時、ふと胸ポケットに感 
じる振動。取り出した携帯に表示されるメール着信のアイコン。 
「葛海だ」 

『発信者:かつみ 
 題名 :もう大変 
 本文 :葛海です。生徒会の仕事が山積みだよ〜みんな要求多すぎ。 
    :何とかまとめて急いでバイトいかなきゃ』 

「生徒会、かあ。葛海も大変だなあ」 
 自分と瓜二つなほどによく似た妹の顔を思い浮かべる。 
 どこか気弱でなかなか積極的に慣れない自分と違い、妹は何かと世話焼きで 
人を惹きつける人望と行動力があり、そういうところは多くの会社を束ねる父 
や戸萌の権力をふるう祖母によく似ている。本人に言ったら嫌がるけど。 
 そういえば葛海のアルバイト先、確かシガーカフェでウェイトレスをしてい 
るという話だった。おまけの珈琲割引チケットもこないだもらったことだし、 
葛海の様子をみがてらカフェで読書をするのもいいかもしれない。 
「ちょっと、行ってみようかな、うん」 

『発信者:かつき 
 題名 :Re:もう大変 
 本文 :葛樹です。葛海あんまり無理しちゃだめだよ? 
    :他の生徒会の人にも頼っていいんだからね』 

GARDEN大忙し 
------------ 

 一方。 
「あああ、どうしてこんな日に限ってお客さん多いのー」 
 メイド服の裾をひらひらはためかせながら、あっちへこっちへ注文取りやら 
お冷運びで目を回している店長、竜胆だった。 
『注文、アイスコーヒーです』 
 人型モードでちかちか内側を光らせながら注文をとってくるキューブ。 
「おまたせいたしました、こちらブレンドとサンドイッチでございます」 
 相変わらずの営業スマイルで接客する鋭司も流石に客の多さに回転が追いつ 
かない状態になっていた。 
「葛海ちゃんまだ、お仕事終わらないのかなあ」 
「えぇ……なにぶん、量が多かったので。戸萌くんも頑張っていると思うので 
すが」 
 そして、また狙いすましたように増えるお客。 
「あああ、きゅーちゃん接客おねがーい」 
『了解しました』 
 ぴかぴか光りながら席を案内するキューブ。 

「あの、こんにちは」 
 そこにひょっこり現れたのは。スポーツバッグを片手に持った、紺のベスト 
にグレーのズボン姿の葛海の瓜二つの姿だった。 
『店長、葛海さんがきました』 
 ぴっかぴっかと光らせながら即座に報告をするが早いか。 
「あーよかった葛海ちゃん!早く着替えてお店でてっ」 
「え、あの……」 
「早かったですね、戸萌くん。さ、早く準備して」 
「……あ、ボク」 
 すみません、お間違えのようですがボクは葛海の一つ上の兄の葛樹です。 
 という説明をキチンと言う前に追い立てられるように更衣室へとぽんと送り 
込まれる。 
「あのっ」 
「葛海ちゃん、急いでねー」 
 言い返す暇もなく、ぱたぱたと走ってゆく竜胆。 
「……どうしよう」 
 ぽつねんと更衣室で佇む葛樹。 
「勘違いしてるみたいだけど、なんか凄く忙しいみたいですね」 
 後でキチンと説明すればわかってくれるし、ここは一つ忙しい妹の為にバイ 
トのお手伝いをしてあげてもいいんじゃないだろうか。 
 と、思ったまではよかった。 
「でも、制服が」 
 戸萌と書かれたロッカーの中にあるのは、無論葛海仕様のメイド服である。 
「あぅ」 
 戸萌葛樹、妹と瓜二つだがれっきとした男の子である。 
「どうしよう……誰かの男物の制服を借りるなりして」 
 きょときょととあたりを見回すが、それらしき制服はない。 
「誰か他のバイトの人の制服、とか」 
 予備と思われるロッカーの中をいくつか確認する、男物と思しきスラックス 
と白の上着を見つけたものの、どう考えても葛樹の身長に合わない大型サイズ 
である。 
「ど、どうしよう……説明した方がいいのかな」 
 おろおろとしている間にも時間は過ぎていく。 

「葛海ちゃーん、急いでーーー」 
 ドアの向こう、へろへろとつぶれかけの声が遠くから聞こえてくる。 

「……とりあえず、一旦落ち着くまでお手伝いして、それから説明して」 
 とりあえずの優先順位。 
 すぐに手伝って今の忙しい状態を緩和させること、続いて事情を説明、しか 
る後にちゃんとした男物の制服を借りる。 
「うん、ちゃんと話せばわかってくれる、はず」 

 *** 

 その結果。 
「すみません、遅れました」 
「ああ、よかったこれ三番テーブルにもって行ってー」 
「は、はい」 
 足元がスースーする、などと思いながらメイド服姿で珈琲を運ぶ羽目になっ 
た葛樹だった。 
「すいません、注文いいですかー?」 
「あ、はい。少々お待ちください」 
 スカートの裾を翻して、テーブルの間をてこてこと走り回る葛樹の姿を見て 
誰一人男と疑うものはいなかった。 

「……ええと、落ち着くまでって、いつまでやってればいいんだろう」 
 もうウェイトレス代理を始めてからいくつめかの注文をこなして、思い切っ 
て竜胆へと声をかける。 
「あの、すみません」 
「ん、どしたの葛海ちゃん」 
「実は……」 
 実は言い出せなかったのですが、自分は葛海の兄の葛樹です。黙っていてご 
めんなさい。忙しそうだったので妹の制服をきてお手伝いしてますが、男物の 
制服はありませんか? 
 と、言いたかった。 
「あ、お客さんが呼んでる。葛海ちゃん注文お願い」 
「は、はいっ」 
 が、言い出せなかった。 

「そうそう、戸萌くん丁度よかった、ちょっといいかね」 
「あの、実は」 
「お父さんから頼まれて、冊子に載せるからお店での様子を写真に取って欲し 
いと言われたのでそこに立ってもらえるかな」 
 言うが早いかもうカメラの準備はオッケーである。 
「ええと、はい……その」 
「戸萌くん、はいチーズ」 
「えと、こうですか」 
 トレイを両手でもって心持ち小首を横に傾げるようにポーズ。 
「はい、良いですよ。もう少し身体の力を抜いて。えぇ、自然体で」 
 プロカメラマンもかくやといわんばかりの様子でカシャカシャとシャッター 
をきっている。 

「……うぅ、い、言い出せない」 


遅れました 
---------- 

「はぁ、はぁ……ギリギリ、かなあ。うぅ」 
 鞄を小脇に抱えたまま全力疾走中の葛海。といいつつもその早さはいかんせ 
ん遅い。 
「一時間過ぎちゃう、かなあ。うぅ、店長さん鋭司クンごめんなさい」 
 大量の上申書を全て目を通して改善案と却下との審査をすませて学校を出た 
のが丁度二十分前。全速力で走っても、ギリギリ一時間遅れに間に合うかの瀬 
戸際だった。 

「あと少し」 
 見慣れたカフェが目に飛び込んでくる、少しスピードを落として入り口をく 
ぐって店内に入る。 
「すみません、遅くなりましたっ」 
 店内の空気が一瞬固まった。 

「え?」 

 慌てて周囲を見回して、硬直した。 
「……か、葛海ちゃんが、二人」 
 ぽかんと口を開けてこちらを見ている店長。その傍らでちかちか点灯してい 
るキューブ。カメラを構えたまま瞬きする鋭司と、その先に。 

「おにいちゃん!!なにやってるのさぁぁっ」 
「か、かつみ。あの、お店に遊びにきてみたら、な、なんだか葛海と間違えら 
れて……」 
「なんで言わないのさあぁっ!ていうか、制服まできちゃってっーー」 
 メイド姿のままおろおろする葛樹と制服姿でぢたばたする葛海の姿を、店員 
客ともども呆然と見守るだけだった。 

 *** 

「と、いうわけで。葛海の兄の葛樹、です」 
「はぁ」 
 バイトの時間を終えて、夜勤に交代した後のこと。 

「これは失礼。戸萌くんのお兄さんでしたか」 
「あの、ごめんなさい、つい言いそびれちゃって」 
「……あの、ごめんなさい店長さん。元はといえばボクがバイトに遅れちゃっ 
たから……」 
「ううん、こっちもてっきり葛海ちゃんだと思っちゃって。いやー、でも腰も 
細かったし違和感なかったねえ」 
 胸も薄かったし、と言ったら自爆なので言わなかった。 
「本当、言い出せなくてごめんなさい」 
「だからって制服着ちゃうお兄ちゃんもお兄ちゃんだよっ」 
「ご、ごめん葛海、ほ、他に制服が無くって……」 
「あーはいはい、ケンカしない。ともあれ忙しいところ助かったよ、ありがと 
葛樹くん」 
「はい、それはよかった」 
「……もうっ」 

 この後、葛海の代理として時折葛樹がバイトのシフトに入ることになった。 
無論、制服は男物で。 

時系列 
------ 
 2006年6月下旬 
解説 
---- 
 葛海のバイトの様子を見に来て勘違いされる葛樹。 
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。 
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