[KATARIBE 30008] [HA06N]小説『尻を蹴飛ばせ』

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Date: Thu, 13 Jul 2006 21:48:55 +0900
From: 葵一 <gandalf@petmail.net>
Subject: [KATARIBE 30008] [HA06N]小説『尻を蹴飛ばせ』
To: ML <kataribe-ml@trpg.net>
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 こんにちは、葵でっす。
 せっかく豆柴君の尻を蹴飛ばしていただいたので。
 仕立ててみました。
 ではー

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小説『尻を蹴飛ばせ』
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登場キャラクター
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 本宮和久(もとみや・かずひさ)
     :愛称豆柴君の朴念仁なお巡りさん、花屋の尊といい雰囲気らしい
      んだけど…
 http://hiki.kataribe.jp/HA06/?Motomiyakazuhisa

 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民、多少毒舌、でも数少ないヤク避け相羽の手綱を取れる
      女性。
 http://hiki.kataribe.jp/HA06/?AibaMaho
 http://hiki.kataribe.jp/HA06/?KarubeMaho


本文
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 県警の正面玄関を出てぐーっと伸びをする。
 回した首と肩がゴリゴリと鳴る。
 服装は普段と同じスーツとはいえ、ずーっと同じ姿勢で解答用紙に向かって
たら方も凝る。
 肩を揉み解しながらゆっくりと帰途に着く。
 やっと終わった昇進試験、通るといいなぁ……。
 ともあれ、やるだけの事はやったし、後は天命を待つだけ、か。

 「喉……乾いたな」

 ずっと集中してたせいか、喉もカラカラになってる。

 「何か飲んでくか」

 と。
 帰り道にある小さな喫茶店のドアを開けたら。
 窓際のテーブルで本を読んでたらしい真帆さんがふと顔を上げた。

 「あれ、本宮君」
 「あ、真帆さん」
 「休憩?」
 「いえ、今日は非番なんですけど、昇進試験受けに来たんです」
 「それじゃ終わったの?試験」
 「ええ、なんで、ちょっとお茶でもと思って、真帆さんは?」
 「これ、発売日だったんだけど、家まで我慢できなくて」

 半分ほど飲んだ珈琲カップの横に置かれたカバーの掛かった新書を持ち上げ
て見せる。

 「よかったら、一緒にどう?」
 「読書の邪魔じゃないですか?」
 「全然、ここでこれ以上読んじゃうと勿体無いし それに、丁度聞きたい事
もあるし」

 本を鞄に仕舞いながら、向かいの席を勧めてくれる。

 「聞きたい事、ですか? 先輩と一緒の仕事は少ないからたいした事知らな
いですよ?」

 注文を取りに来たウェイターにアイスコーヒーを注文してから聞き返す。
 刑事課の先輩と一緒の仕事はそんなに無いから、大した事知らないけど……。

 「いえ、聞きたいのは本宮君の事」

 真っすぐこっちを見てにっこりと。

 「俺、の事ですか?」
 「そう、えっと、尊さんだっけ? 花屋のお嬢さん」
 「え!、あ、はいっ」

 なんだか、社交辞令とか色々の外堀も内塀もすっ飛ばして、いきなり本丸に
ズバッと核心に切り込まれたような気がする。

 「お付き合いっていつからしてるの?」
 「え、ええと、初めて会ったのは高校生の頃なんですが、えと、その、まだ」
 「まだ、って……てか、去年の頃から、付き合ってるもんだとばっかり……」
 「ええと、それは」
 「……付き合ってるんでしょ?」

 いや、切り込まれた、じゃない、大砲直撃、だ。

 「……え、は、はい」
 「そーだよね、いや、相羽さんが言ってたんだよね。本人達以外は、付き
合ってると思ってるって」
 「……」

 自然と、視線があっちこっちに彷徨う。
 先輩……一体家で何の話してるんですか!。

 「でも、ちゃんと自覚あるんだよね、双方?」
 「……は、はい」

 そーだよねぇ、と頷きながら残ったコーヒーを口に運んでいた真帆さんがふ
と気付いたように一言付け足した。

 「ちゃんと口でも言ってるんだろーし……自覚あるじゃない、ねえ」
 「は、はい……でも、ちょっと自分に自信がなくて……」
 「……どういう自信? 相手のことを好きって意識に自信が無いの?」
 「それはないですっ」

 しまった、周りの席の客が何事かとこっちを振り向いて……。
 ちょっと声が大きすぎた。

 「……それなら問題無いじゃないですか」
 「ええと、その、自分自身のことというか、もっとしっかりしないと……って」
 「しっかりしないと、人と付き合っちゃいけないの?」
 「そういうわけじゃあ」

 ……無い、というのは解ってるんだけど。
 でも、やっぱり自分に自身をもって彼女と対したいし、ええと。

 「じゃ、自分に自信が無いってのは、付き合わないことの理由にならないよ
ね」
 「は、はぁ、そうなんですが……」

 淡々と畳み込んでくる真帆さん、コーヒーカップを口元へ運ぶ手が、はた、
と止まった。
 スイっと細まった眼がじーっと……。

 「…………ところで本宮君」
 「……はい」
 「まさかとは思うけど、付き合ってくださいなりなんなり、尊さんに言って
ないってことはないよね?」
 「……っ」

 天守閣陥落。
 固まってる沈黙を適切に解釈した真帆さんが、流れるような手の動きで一旦
鞄にしまった新書本を再び取り出したと思ったら俺の頭にっ。

 ばっこん。

 「あいたっ」

 幸い角じゃなかったものの、結構痛い。

 「そういうことこそ、一度くらいちゃんと言うものでしょうが!」
 「は、はいっ」
 「言葉を駆使したって、誤解だのなんだのは生まれるでしょうが。 まして
言葉にもしないで、理解されようなんて甘えが過ぎるっ!」
 「すいませんっ」
 「本気ならちゃんと相手に伝えなさいっ、人間には言語能力があるんだから、
ちゃんと使うこと!」
 「はいっ」
 「まったく……それで、付き合ってる自覚があるって言うんだもんなあ」
 「なんというか、つきあうつきあわないという話よりさきに、その」
 「……なに?」

 じろっと、怖い眼で睨まれた。

 「そういう雰囲気、というか」
 「雰囲気があると、言う必要が無いの?」
 「いえ、そういうわけでは」
 「うち、一応結婚してもう……半年くらいは経つけど、相羽さん、今でもち
ゃんと言うよ? それってそんなに難しいことなの?」
 「いえ、そんな、…………え?」

 ポンポンと機関銃のように叱られたけど、最後の一言って……。
 それって。
 出張の時の先輩の電話を思い出しちゃって。
 なんだか聞いちゃいけない事を聞いちゃったようで、自然に顔が赤くなるの
がわかった。
 腕組みしてこっちをじーっと睨んでた真帆さんが、ふう、と溜息をついて腕
組みを解いた。

 「ちゃんと、付き合いたいんでしょ?」

 コーヒーを口にしながら、弟を諭すように言われて。
 ……そう、だよな、ちゃんと……。

 「…………はい」
 「じゃ、ちゃんとそう言うのが最低の礼儀でしょう……違う?」
 「……礼儀、ですよね」
 「……いいたくないなら言わなければいいけどね」
 「いえっ、そんなことは、ない、です」
 「じゃ、言うべきでしょう。尊さんだって宙ぶらりんのままじゃどうしてい
いか、判らないだろうし」
 「……はい」
 「少なくとも、何にも言わないまんま放っておいて、尊さんが他の人の方に
いったって文句言えないからね?」
 「……はい」

 なんとなくいい感じ、の、空気に甘えちゃってた、よな。
 結果はどうあれ、やっぱり、キチンと伝えるべき、だよな。
 今はまだ自分に自身をもてないけど、でも。
 いや、違うな。
 それはいい訳だ。
 自分に自身がもてないんじゃない。
 彼女の答えを聞くのが怖いんだ。
 でも。
 確かに真帆さんの言う通り、このまんまじゃ二人とも宙ぶらりんのままだ。
 ……よし。

 「その顔は、腹括った?」

 くす、っと笑って真帆さんはコーヒーを飲み干した。

 「では、吉報を鶴首してお待ちしております」
 「はいっ」

 いざ、鎌倉。

時系列
------
 2006年5月上旬、昇進試験受験後。

解説
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 強力な助っ人、真帆さんの一撃により覚悟を決めた豆柴君。
 さてさて。
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葵 一<gandalf@petmail.net>


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