[KATARIBE 30004] [HA06N] 小説『二つの創作部』改訂版

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Date: Wed, 12 Jul 2006 00:15:08 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30004] [HA06N] 小説『二つの創作部』改訂版
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年07月12日:00時15分07秒
Sub:[HA06N]小説『二つの創作部』 改訂版:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
以前流した「二つの創作部」、二箇所ほど訂正がありましたので、改訂版流します。
ありがとうございました>とよりん、ふきらん

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小説『二つの創作部』
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登場人物
--------
 高瀬 夕樹(たかせ・ゆうき)
  :高校生で歌よみ。創作部所属。詩歌を読むと、怪異(?)がおこる。 
 品咲 渚(しなざき・みぎわ)
   :高校三年生。創作部書記でうるさい関西人。
 関口 聡(せきぐち・さとし) 
    :人の感情を常に左目で見、右耳で異界の音を捉える。高校二年生。 

本文
----

 創作部員の一部しか知らないことであるようだが。
 創作部の部室は、どうやら二つあるらしい。

 蒼雅紫や御厨正樹の居る創作部と。
 高瀬夕樹の居る創作部と。

             **

「……高瀬君、今日は来るかなあ」 
 何となく埃っぽい教室の、机を二つくっ付ける。そうすると丁度、ケイトちゃ
ん(紫が作った、毛糸製の何か)がかけっくらをするのに良い広さになる。と
てとて走るケイトちゃん(とりあえず移動速度から考えると、走っているのだ
ろう本人は)を見るともなしに見ながら、聡はぼんやりと呟いた。
 向こう(と、便宜上言うことにするが)の創作部の様子は、特に彼の耳には
案外はっきりと聞こえる。確かに音が唸りのような強弱の波となって届いては
いるのだが。
「高瀬君が来ると、面白い本も来るのになあ」
 それが、本来は部員でも何でもない奴の言うことか、とか、本が来ればいい
のか、とか突っ込みどころはなかなか満載なのだが……まあ、そこらは有難い
ことに、聴いているのはケイトちゃんのみである。
 そのケイトちゃんは、一心に一人かけっこをしている。繋げた机の端にまで
走っていって、そこでくるりと振り返る。くにくにとした毛糸の束が、しかし
はっきりと「首を傾げてこちらを見る」という風に見えるのだ。
「あーなんでもない」
 そう言って、聡が笑った時。
 かたん、と、扉が開いた。
「ああ、こっちにいたんだ」
 確認とも納得ともつかない調子で言いながら、高瀬夕樹が入ってきた。


 本来。
 創作部は、『詩歌創作部』であったそうである。
 しかしながら昨今、詩歌をたしなむ学生も減り、同時に部員も減ることとな
る。とうとう先代の部長が『詩歌』の二文字を取ってしまって、今の創作部と
なった……わけなのだが。
 どういうわけか、創作部の部室は同じ場所に二つ重なって存在しているらし
い。その『表』にあたる部室には、御厨正樹を筆頭に現在3年生が主に集まっ
ている。反対に『裏』にあたる部室のほうには、元々『詩歌創作』に興味があっ
て創作部に入部した夕樹と、本好きが共通する聡とがたむろしている。
 ……とりあえず、今のところは。


「でも、関口君は何であっちに行かないんだ?」
「あっちって?」
「御厨先輩や蒼雅先輩のいるほう」
「あー」
 てとてとと、ケイトちゃんが元気良く夕樹に近づいていって、ぺこんと頭を
さげる。それを見やりながら、聡は少しばかり困ったような顔になった。
「そもそも僕は部員じゃないし」
 それに、と、読んでいた本を何度かひっくり返しながら。
「ちょっとあの空間は割り込めない」
 苦笑交じりの声に、夕樹はちょっと目を見開いて……そしてロッカーに手を
かけた。

 どういうわけだか、二つの創作部は……いわば異空間に重なり合うように存
在しているのだが……ロッカーで繋がっている。
 向こうが開いているかどうかは問わない。しかしこちらを開けると向こうの
部室がロッカーの後ろを透かすように良く見えるのである。
 偶然開けて、おや向こうが見える、と、言い出したのはどちらだったか。
 どちらにしろ……両方とも大して驚きもしないあたりは、流石にこの二人で
ある。

「……あー」
 故に、ロッカーをあけて、向こうを覗いて、ついでに会話をしばらく聴いて。
 夕樹は深く頷いた。
「あれは入れる雰囲気ではない」

 ……と。
 急に夕樹がのけぞった。

「ん?」
 聡が席を立って、肩越しに覗き込んだ、時に。
「ちょっとこっちに避難しますよ」 
「うわうわわっ」
 よいしょよいしょと、ロッカーの中のモップやちりとりを避けながら出てき
たのは創作部3年、品咲渚である。
「これはどうも」 
 流石に慌てた聡と対称的に、夕樹はマイペースかつ呑気な挨拶をする。のけ
ぞったのも単純に先輩を避けるためだったのか、と、聡は妙に納得した。

「って……話題は、先輩に関係することなんじゃ?」
 こちらの声は向こうには聞こえないらしい。向こうの会話を聞きつつ、聡は
首をかしげた。
「御厨先輩に何か頼んだのがどうこうって……」
 ロッカーの向こうを指差して聡が言うのに、
「今出て行っても間が悪いやん〜」 
 けろりんぱ、と、渚が応じる。

 ロッカーから、もう一度皆が向こうを覗く。
 紫が、手を伸ばして正樹の頭を撫でている。

「…………確かに」
「ははは……」 
 何となく引きつった二名に、渚はちょん、と、首を傾げるようにして。
「なんでこっちでかくまってください。静かにしてますから」 
「僕は全然構いませんけど、部員じゃないし……高瀬君次第だと思います」 
「ん、構うも何も、ここ創作部の部室ですよ」 
 夕樹がさらりと言って。
 少し、間があいた。

 と。
 くっ付けた机の上を、ぽてぽてとケイトちゃんが横断する。編んだ(という
かもつれたというか)毛糸の手足をぽてぽて動かして渚に近づくと、やー、と、
片手(らしきもの)をもちゃげて挨拶している。

「……見慣れるとかわいいもんやなあ」 
 奇怪な形に編み上げられた毛糸の塊である。当初は不気味にも見えたものだ
が、こうやって慣れると可愛らしく映るのだろう。
 渚は応えて手を小さくあげる。それがまた嬉しかったらしく、ケイトちゃん
はぽんぽんと机の上で跳ねた。
「ほら、こっちへ……」
 言いさした聡の声が、そこで止まった。

 開いたロッカーの向こう。正樹と紫が何となくきょろきょろしている。

「…………なんか、気配が変わったな」 
 ケイトちゃんをポケットに入れながら、聡が呟く。 
「……何か、アンネ・フランクみたいだ、というのは言い過ぎか」 
「日記かこか。七月一日。今日も空爆がありました」 
「屋根裏部屋の部員達……木かげの家の小人達も近いかも」 
「で、その日記を何年後かの創作部員が発見する、と」 
「……間違えた歴史がここに」

 次から次へと三人漫才。 
 ……なんてことをやってるうちに。

「なんかいい雰囲気かもしれない空気になりましてよ、奥さん」 
 呑気に言った渚を、夕樹が見やる。
「……先輩、呼ばれてますよ」 
 確かにロッカーの向こうでは、正樹が首を捻っている。
 風邪でも引いたか……いやありえんな、と、向こうが言った途端。
「くしゅん」
「…………先輩、それ、わざとじゃないですよね?」
「も、もちろん、わざとっちゃうで、故意や故意」 
 つまり故意か……と、聡が上目遣いで見やった。
「つまり、わざとなんですね」 
「ああっ、あかん、上目遣いはあかんて」 
 言い返すかと思いきや、かなり真剣な顔で渚は手を振る。
 結構真面目な、濃い青の鋭い杭のような三角が、視野の上から下へと走る。
(つまり、これは弱味なんだな)
 視線を元に戻しながら、聡は軽く肩をすくめた。

 向こうは、またもや二人が沈黙している。
 相変わらず間に誰も入れない空間だ……と、観察していた、時に。

「へーちょ」 
「風邪ですか」 
 なあんかうそ臭いなあ、と、やっぱり聡が横目で見ているのを尻目に、渚は
きっとロッカーのほうを見た。
「なんかバカいわれた気がする。アホはええけどバカは許せん」 
 如何にも生粋の大阪人の言葉だなあ、と聡が思っている先から、
「ちょっと一発かましたらんと、ぽっぽー」
 妙な擬音語と一緒に、ずかずかとロッカーに向かう。
「ああ、先輩」
「はい、なんです」
 きっと振り返った渚に、夕樹がゆったりと言葉を続ける。
「出るときはドアからでお願いします」 
 ロッカーの扉に掛けた手を見やりながら。
「さすがにロッカーから、というのは……」 
 ふむ、と、納得した顔で、渚はロッカーから手を離す。
「……それもそやな。んじゃドアから……」 

 言いつつ、すったかたったかとドアから出てゆく。残った二人は、何となく
顔を見合わせた。

「ぽっぽー、って……」 
 何となく呑気な夕樹の問いに、これまた聡が呑気に答える。
「機関車やえもん……いや違うなあ」 
「……やっぱり、やえもんが出てくるか」
「うん、やっぱりそれが最初に出てくるよ」 

 ……なんかこう、話題がちょっとずれているような気がする。
 それでも、やはり気になるのだろう、聡がまたロッカーを開いた。

「あ……品咲先輩、釣られてるし」 
 ロッカーの向こうでは、なにやら渚と正樹がやりあっている。どうやら廊下
で、やっぱり入り損ねてうろうろしていた渚に、正樹が気が付いたらしい。
「……ははは」 
 渚が向こうに移って、向こうのテンションが一段上がったように見える。
 反対にこちらは……特急の通過した後の駅のような雰囲気になっている。先
程までの渚の勢いでくるくると舞い上がった言の葉が、今はやはりくるくると、
それでも静かに落ちてゆくように。

「……にしても、こちらとあちら、どうなってるんだろうね」
 今頃その問いか!と突っ込まれそうな聡の言葉に、しかし夕樹は輪をかけて
呑気な返事をする。
「……そう言われると、そうだ。考えたこともなかった」 
 おいおい、と呆れた顔になった聡を横に、夕樹はのんびりと言葉を続ける。
「気が付いたらここにいたしなあ……」
「…………結構高瀬君、呑気なんだね」 
「いやあ」 

 注:褒めていません。

「でも、深刻な問題もあるよ?」 
「ふむ?」 
「部費とかどうする?」 
 妙に真面目な顔で告げられた言葉に、夕樹は目をぱちくりさせる。
「部費……って、なんの?」 
 その返事に、今度は聡のほうが目をぱちくりさせた。
「……部活の」 
 えらく間の抜けた沈黙を破ったのは夕樹のほうだった。
「……お」
 そう、忘れがちなのだが(主に夕樹が)、夕樹は創作部の会計なのである。
「ははは……」
 誤魔化すには役者不足の乾いた笑い声の後に、夕樹ははあ、と、溜息をつい
た。
「だって、最近あっちに入るのに抵抗を感じることが多いんだよなあ……」 
「それは……判る」 
「まあ、そのうち何とかするよ」 
「ふむ……」 

 聡は少し首を傾げて、周りを見回した。
 向こうの創作部と全く同じ大きさの部屋。しかし雰囲気は全く違う部屋。
「でも、ここが詩歌創作部になるなら、僕もここに入ろうかな」
 何てことのない言葉に、夕樹の肩がぴくっと跳ねた。
「……そうか、その手が……」 
「……へ?」 
 おどろ線を背負って、ふふふ、と、夕樹が笑う。そのままぐっと拳を握り締
めた。

「今こそ復活の時っ」 
「おー」
 今度は呑気に受けるのは聡のほうである。ぱちぱち、と手を叩かれて、しか
し夕樹のほうは、はたと我に返ったようである。
「……って、そもそも部の成立に必要な人数が集まらないよ」
 へろへろぷしゅー……と空気の抜けたように元気の無くなった夕樹である。
「でも、同好会なら?」 
 重ねて尋ねた聡の言葉に、
「うーん……」 
 やはり未練はあったらしく、夕樹はしばらく考え込んでいたが、
「……まあ、敢えて部とか同好会とか集まりにしなくても、来たかったら来れ
ばいい、でいいんじゃない?」 
 で、結論付けた。
「そうだね」 
 笑った聡のポケットから、ケイトちゃんがぴょこっと出てきた。うんうん、
と何度も頷くのは、どうやら同意しているらしい。


「しかし……」
 その結論はともかくとして。
「たまには向こうに顔を出さないと幽霊部員になってしまうな」 
 呟いて、ロッカーからチラリとのぞき見て……
 そして夕樹は、がっくりと肩を落とした。
「無理だ」 
 相変わらず向こうの創作部では……いや、今まで以上にばたばたとしている。
「品咲先輩が行ったら少しは……って思ったけど、何だか三角関係だなあ」
「まあ、これが青春というものかもしれない」 

 何だか思いっきり他人事のように言う夕樹を、聡はじーっと見た。
「……なに?」 
 そういう自分だって……と言いかけて、聡は我が身を省みる。
 ……要するに五十歩百歩。互いに『青春』なるものからは外れているのだ。
「いや、なんにも」 
 妙な顔で見ている夕樹に、聡はにこっと笑った。
「まあ……なるようになる、かな」 
「だね」 

            **

 創作部の部室は、どうやら二つあるらしい。

 青春真っ盛り、らぶこめ部とでも言いたいような創作部と。
 何となく焙じ茶と湯呑みの似合いそうな、のんびりとした創作部と。

 ……そういう分類が、当事者達には不本意であったにしろ。


時系列
------
 2006年6月中旬

解説
----
 いつの間にか二つに分裂した、創作部の不思議……な筈なんですが。
 呑気者が集まると、こうなるってとこで。
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 みぎーの台詞の一つと、時系列部分を修正してます。
 ではでは。 
 


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