[KATARIBE 30000] [HA06N] 小説『アオザイとチャイナ(上)』

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Date: Tue, 11 Jul 2006 23:13:40 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30000] [HA06N] 小説『アオザイとチャイナ(上)』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年07月11日:23時13分40秒
Sub:[HA06N]小説『アオザイとチャイナ(上)』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
今日はこれで最後。

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小説『アオザイとチャイナ(上)』
===============================
登場人物 
-------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。 
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍して姓が変わる。 


本文
----

 まさかそうくるとは思わなかったってよく言うけど。
 いや、予期してもよかったかもしれないとは後で思ったけど。
 
 ……うん、予期したくなかったから、まあいい…………(自己欺瞞)。

          **

「……で」
「ん?」

 大き目の……デパートでよく貰うような紙袋。そこに薄い紙で包まれたまま、
その袋につりあうくらいの大きさのものが入っていて。

「なに、これ?」
「見たでしょ、中身?」

 ……いやそういう問題でなくて。

「この前言ってたでしょ?」
 相羽さんは畳み掛ける。
 確かに……そう言われれば、そういう会話はした。
 した、けど。



 赤いチャイナ服に、羽の扇子。
 女性に見えるわけでもないのに、妙に似合っていたその写真を見て……まあ、
色々話したその後に。
「真帆は?」
「は?」
「チャイナ服」
「……は?」

 いや、流石に何を言いたいかは見当がついたんだけど。
「俺が見せたんだから、今度チャイナ着てよ」
「…………」
 見当はずれであっても良かったんですけど、ええ。

「チャイナ着たとこ見たいよ」
「ってあのね……」
「駄目?」

 駄目に決まってるでしょうが……と言いたかったんだけど。
 ついさっき、相羽さんのチャイナ服見せて見せてと言った手前、それも言い
辛くて。

「でもほら、持ってないから……それに相羽さんのチャイナは合わないし」

 すごく出来のいいチャイナ服なので、相羽さんも棄てられなかったらしく、
まだ家にあるという。だからといって、まさかそれをあたしが着るわけにもい
かない。有難いことにサイズが全然違う。

「だから……無理」

 その時は……何だか残念そうには見えたけど、それっきり。
 うん、それっきりで終わる筈、だったのだ。



「……いや、見たけど、中」

 薄い紙に丁寧に包んだもの。光沢のある淡いクリーム色の生地。丹念に縫い
取られた模様。
 ……チャイナドレス。

「どっからこれ、持ってきたの」
「県警から」

 吹利県警って……一体どういうとこなのだ。

「県警って……また女装用?」
「潜入捜査で使った奴をもう要らないって言うからね」
 さかさかと着替えながら、相羽さんはあっさりと言う。
「確か豆柴君が女装する時に、総務の怖いおネエちゃん達が手配してくれた物
の筈だよ」
「……豆柴君て……」

 この前のメイド服といい、このチャイナ服といい。
 ……豆柴君、大変してるなあ。

「あ、でも」
「ん?」
 と、すると。
 袋から出して、綺麗な色合いのドレスを広げてみる。

「ああ、これ着れないよ」
「え」
「だって、豆柴君に合わせて作ってあるもの」

 メイド服なら、ある程度ゆとりがあるし、多少縫い縮めるくらいで着れるよ
うになったけど、流石にチャイナ服はそうはいかない。もともと身体の線が相
当はっきりするように出来ているのだ。確かに豆柴君は、言うほど大柄ではな
いし、ごついとは言えないけど。

「ほら、肩幅とか……骨格とか全然違うし」
 広げて身体に当ててみせる。こうやって見ると、縫いこんだ場所やマチを入
れる場所や量が、男性と女性ではかなり違うのが判る。潜入捜査に使えるよう
に、ある程度動きやすいよう、作られてもいるし。
「これだと……相羽さんにちょうどいいくらいじゃないのかなあ」 
 相羽さんがうーんと唸った。それでもそれ以上何も言わないのは、多分、そ
のことが判るからだろう。
「だから、ちょっと無理」
 手早くたたんで、また紙に包む。
 確かにモノはいいんだから、汚したくはない。

「じゃ、ご飯にしようよ」

 相羽さんは黙っている。
 というか……多少ふくれているというか、ちぇーと言いたげな顔というか。


 はもきゅうに焼き茄子の田楽。えのきやまいたけの焼きびたしに葛豆腐。
 もくもく食べながら、相羽さんはどこか拗ねたような顔をしている。

「……何を期待してたんですか一体」 
「俺はチャイナ姿見せたのに」
 ……ええと。
「お前のチャイナ服姿だって見たいじゃん」 
「だってほら……無理だったし、ね?」
「そうだけどさ」

 なあんとなく。
 小さな子供が、せっかく見つけたオタマジャクシを『飼えないから戻してらっ
しゃい』と言われた時のような……なんて言うと失礼だろうし、何より小さい
子と相羽さんとでは、その行動力がえらく違う。

 なんて、考えてたら。

 相羽さんの表情が、変わる。残念から……何かを思いついたようなものに。
 ……ってことは。

「……相羽さん、そこで買って来ようなんて考えないでね?」 
「え?」
「え、じゃなくって……」

 絶対考えてたな、これは。 

「じゃあ、一緒に買いにいくならいい?」 
「……はあ?!」 
 何か違う。凄く違う。根本がなんかえらく違うぞそれ。
「……えっとね相羽さん……」
 そうじゃなくて、と言う前に、それこそ畳み込むように。
 
「今度の休み、買い物でもいこか?」 
 にっと、笑いながら。
 悪戯っ子が、すごくいいことを思いついた時のような笑顔のまま、相羽さん
はこちらを見る。
 ……いやだからですね?

「あのねえ……相羽さん」
「何?」
「チャイナ服なんてね、一度着たら終わりじゃないですか」

 楽しみだなー、みたいな顔にすっかり移行してしまった、つまり今のような
場合、説得は困難だとわかってるけど。

「んなもの買いに行かなくても……」
 チャイナ服なんて、うちの中で着るくらいだ。何をどう間違えたって家の外
で着る気は無い。そんなものに大枚はたかなくても、と、そう思うのが普通だ
と思うんだけど。
 対する相羽さんの言葉は、こちらがこけるほど単純だった。

「見たいから」 
 …………そういう問題なのかなあ。

「……なんかすごく無駄なんですけどそれって」 
「いいじゃん」 
「よくないーっ」 
「なんで?俺が見たいからいいじゃん」 
「……見たいからって……」
 どうしてそういうことを、確信に満ちて言うのかなこの人は。

「……何が面白いんですか」 
「お前がチャイナ着た、可愛いとこみたいから」 
 きっぱりはっきり。
 ……思わず、こちらは食卓にのめってしまった。

「じゃ、店、どっか調べとくわ」
 もうすっかり決定、の勢いで……ついでにすっかり機嫌を良くして、相羽さ
んはぱくぱくとご飯を食べ始める。
 何だかなあ……と、ほんとつくづく思ったけど。

 それで機嫌が良くなるなら。
 それでこの人が上機嫌になるなら。

 ……それはそれで、いい、のかもしれない。


 と。
 ……その時は、思った。

 その時は。


時系列
------
 2006年5月、中旬くらい?

解説
----
『県警女装の伝統余話』の続きです。
そしてまだ続きます。
*************************************************

 てなもんで。
 であであ。



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