[KATARIBE 29996] [HA06N] 小説『風鈴』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Tue, 11 Jul 2006 01:30:40 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29996] [HA06N] 小説『風鈴』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20060711013040.07b1067b.hukira@blue.ocn.ne.jp>
X-Mail-Count: 29996

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29900/29996.html

ふきらです。
裏創作部のお話。何でいつの間にか巧先輩がいるんだという意見は
無しでお願いします。

訂正とか有りましたらよろしくです。

**********************************************************************
小説『風鈴』
============

登場人物
--------
 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/ 
  高校生で歌よみ。詩歌を読むと、怪異がおこる。

 蒼雅巧(そうが・たくみ):http://kataribe.com/HA/06/C/0529/
  霊獣使いの家の一員。非常に真面目。

 関口聡(せきぐち・さとし):http://kataribe.com/HA/06/C/0533/ 
  片目は意思と感情を色として見、片耳は異界の音を聞く。

 ケイト:
  蒼雅紫が生み出した毛糸のよく分からない生き物。癒し系。

本編
----
 裏の創作部部室。あまり入り浸るのもどうか、と思いつつも表の喧噪につい
ていけなくなるとこそこそと滑り込むようにしてこちらに来てしまうわけで。
 夕樹は裏部室の空気を吸って、やれやれ、溜め息をついた。表が騒がしけれ
ば騒がしいほど、こちらの静けさにやけに安心してしまうのだが。
 今日の裏部室は微妙に張りつめた空気が漂っている。
 その発生源はロッカーの戸を開きその中をじっと見つめている巧であった。
彼は表にいる紫の様子を胸に手を当て神妙な面持ちで見つめている。
「……巧先輩。すごく言葉悪いですけど」
 彼の後ろで聡が言う。
「それってある意味覗きじゃないですか?」
 その言葉にうっと顔をしかめ、そしてしばらくしてから聡の方を向いた。
「大丈夫ですよ。紫先輩は」
 安心させるように聡はほほえみかける。
「……ええ。最近は落ち着いてきましたし」
 そういう顔はまだ不安の色が残っている。
「御厨先輩もいますし、品咲先輩もいますし」
 最後に、「ねー」と机の上でいつものように遊んでいるケイトをあやしなが
ら聡は言った。
「……ええ、私もいつまでも保護者のつもりでいてはいけないのかもしれませ
ん」
 そうは言うものの、巧はそれでもまだ吹っ切れてはいないようで、聡はその
顔を見て苦笑を浮かべた。
 しばらく誰もが言葉を発さずにいた。
「何かしんみりとしてる」
 その様子を眺めていた夕樹は、ふと思い出して鞄をがさがさとあさると小さ
な風鈴を取り出し、窓の枠に取り付ける。
 その様子を見ていたケイトの目がきゅぴーんと怪しく光った……ような気が
した。当然毛糸の塊なので目があるはずもないが、興味がその風鈴に注がれて
いることには間違いないわけで。
 ケイトは窓枠まで決して速いとはいえないスピードで走っていくと、窓枠の
側で必死にジャンプを繰り返し始めた。
 風鈴を掴もうとしているつもりなのだろうが、届くはずもない。
「危ないって」
 夕樹は慌ててケイトを両手で捕まえた。
 その様子を見ている巧と聡。
「……何かこう……紫先輩を髣髴とさせるというか」
 聡が言う。
「……純粋なところは、似ているのでしょうね」
 溜め息混じりに巧は言った。
 夕樹の手の中でケイトはしょんぼりと項垂れている。それを見て、夕樹はケ
イトを風鈴の側まで持ち上げてやった。
「さあ、鳴らすがよい」
 その言葉にピクリ、と反応したケイトは風鈴の短冊の部分を両手でしっかり
持って左右に勢いよく振った。
 りんからりんから、とお世辞にも涼しいとは言えない音色が部室の中に響
く。
「……神社か、これは」
 夕樹が呟く。その彼の手の中で満足したような態度で体をへちゃんとだらけ
させているケイト。
「もう終わり?」
 その質問にケイトはしばらく考える素振りを見せると、彼に向かって何度か
縦に頷いた。その様子を見るからに、まだ少し物足りなかったらしい。
「まあ、風鈴は鳴らすもんじゃないしね」
 そう言って夕樹はケイトを机の上に降ろした。
 ケイトは彼に向かって大きくお辞儀をする。
「どういたしまして」
 微笑んで夕樹もお辞儀を返す。
 そして、くるりと振り返るとケイトは聡の方に向かってトテトテと走ってい
き、両手をぶんぶんと振り回してさっきの出来事を報告し始めた。
「良かったね」
 聡はニコニコと微笑みながら、ケイトを撫でてやる。
「……何か、『風鈴もらふすぐに鳴らして二度三度』って句のまんまだねえ」
 何気なく夕樹が口にした俳句。
「……え」
「……あ」
 聡が小さく声を上げ、それに気付いて夕樹も声を漏らした。
 それと同時に風鈴がちりんちりん、と先ほどとは違って涼しげな音色を奏で
る。しかし、風は吹いていない。
「雅ですね」
 巧が微笑みながら言った。
 ケイトは小首を傾げるようにしてじっとしたままその音を聞いている。
 少し気の早い、夏の光景である。


時系列と舞台
------------
2006年7月。創作部裏部室。

解説
----
相変わらずのんびりとした創作部裏部室。

$$
**********************************************************************
 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29900/29996.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage