[KATARIBE 29995] [OM04N] 小説『ある雨の日』

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Date: Tue, 11 Jul 2006 01:25:31 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29995] [OM04N] 小説『ある雨の日』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
おにばなです。続きも書かずに何書いてんだという気がしないでもありません。

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小説『ある雨の日』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

本編
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 五日前から京の空を覆っている雲は、一向に姿を消す気配を見せないでい
た。
 毎日のように雨が降り、時折思い出したかのように止む。そうかと思うと、
しばらくしてまた降り始める。それがずっと続いていた。
 望次は妻の屋敷で胡座をかいていた。この雨では自分の屋敷まで戻ることす
らままならない。居心地が悪い、というわけではないが、こう何もできないで
いると気が滅入ってしまう。
 相変わらず一定の大きさで続いている雨音に耳を傾けながら、望次は本日何
度めかの溜め息をついた。
 立ち上がってみるが、着ている直衣が湿気を含んでじっとりと重く、体にま
とわりつくように感じられた。
「むぅ……」
 眉をひそめて体を伸ばす。
 時貞の所へ行こうか、と思ったが、雨の中わざわざ出かけていって妻に焼き
餅を焼かれてはかなわない。ただでさえ、時折冗談とも言えないような口調で
「私より秦様の方が良いのね」などと言われているのだから、雨が止むまでこ
こにいることにしよう、と望次は決めた。
 彼は妻の姿を探しに部屋を出た。
「あら望次様」
 屋敷で働いている女房の一人と廊下で出くわし、互いに会釈をした。
「いつまでおられるのですか?」
「ん、この雨が止むまでだな」
 その言葉に女房は微かに笑みを浮かべた。
「では、雨が止まなければよろしいですね」
 そして、彼女は再び会釈をして過ぎ去っていく。望次は振り返り、彼女の後
ろ姿を見て首を捻った。
「普通は雨が止まないと困るんだがな」
 そう呟いて二、三歩足を進めたところで、彼女の本当に言いたかったことに
気が付いて立ち止まる。
「そういうことか……」
 望次は苦笑いを浮かべた。
 庭に面している縁側に近づくと、話し声が聞こえてきた。一つは妻の声であ
る。しかし、もう一つの声は。
「子ども……?」
 この屋敷には子どもはいないはずである。誰かが来ているのかとも思った
が、この雨の中、外を出歩くものはいないだろう。
 訝しげな表情のまま、角を曲がり妻のいる縁側に出た。丁度中央当たりに
座って微笑んでいる妻がいる。その隣には少女の姿。
 望次のこめかみに微かな痛みが走った。
「……そういうことか」
 やれやれ、と小さく溜め息をついて彼女の方へと近づいていく。
 まず始めにその少女が望次の姿に気が付き、妻の陰に隠れた。
「あら」
 その様子を見て、妻が望次に気付き、振り返って笑みを浮かべる。そして、
隠れている少女に出てくるように促した。
 少女はおずおずと妻の隣に出てくると、先ほどと同じように彼女の側に座っ
た。
 望次がその隣に座ると、少女はびくっと体を震わせた。
「ねえ望次様。この子、この雨の中をやって来たのよ」
 そう言いながら、彼女は少女の髪を撫でている。
 気持ちよさそうに目を細めている彼女の姿は、望次の目には半透明に映って
いる。時折その姿は薄れ、代わりに浮かんでくるのは
「猫、か……」
「あら、そうなの?」
 望次の言葉に妻が目を丸くさせる。
 彼女の口から聞いたことなのだが、彼女も望次と同様に人ならざる者の姿を
見ることができるらしい。ただ、彼はその姿を人とは違う感じで捉えられるた
めに人と間違えることはないが、彼女の場合はほとんど人と同じように見える
そうである。
「あなた猫なの?」
 妻が少女に尋ねる。少女はさすがにニャア、とは鳴かなかったが目を細めて
彼女の顔を見上げた。その顔は確かに猫っぽくて。
「……あら本当に猫みたい」
 彼女がクスリと微笑む。
 二人の目には違いはあれど一人の少女の姿が映っている。しかし、その姿は
他の人には見えないわけで。
 望次はその光景を見て、同じものが見える、というただそれだけのことに何
となく安心した。


解説
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奥さんの名前はまだ決まってません(汗

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